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童貞、ナンパする(第十話)


 社会人2年目の冬。
 ここ最近は調子がいい。まず一つは、前回からの二週間でナンパに慣れてきたこと。連れ出すのはまだだが、ある程度連絡先交換をできるようになった。

 そして調子が良いもう一つの理由は、さとみちゃんを食事に誘えたこと。

 12月に出会って以来、細々連絡を続けていた。1-1は無理だったが、2-2であれば、ということで食事に誘うことが出来た。こちらの相方はタクミ。長く知っており、ダーツ会でもタッグを組んだ最高のパートナー。この時の僕は強気。俺らに隙はない、さながらとシュージとアキラ、2人で一つだった。そう思っていた。

 そして、迎えた当日18:00、舞台は新橋。

 この日は壁一面がアクアリウムで映える肉バルを予約していた。

 男は僕とタクミ。向かいに座るのは、さとみちゃんとアヤナ(仮)ちゃん。
 アヤナちゃんはさとみちゃんと同い年。同じ会社で働いている。男性に出会いが無いから参加しましたという好都合な子だった。僕らにとってもはや、リーチ。捨て牌を間違えなければアガれると思っていた。

 だがしかし、忘れていけないのは僕は非モテ。

 まず、想像以上にアヤナちゃんのトーク力が強すぎて、場回しは完全にアヤナちゃんのペースであった。僕は挟み込むような相槌を打つ。餅つきの要領で相槌を打つ。守備一戦のため、攻撃を繰り出せない。

 ひとまずトイレへ離脱、頭を整理する。
 戻るとハッと気づいた。
 痛恨のミス。気がつくとタクミとさとみちゃんが良い感じの雰囲気になっていた。

 さとみちゃんがタクミに興味を示し、一方的に質問をする。それにタクミが答えて、アヤナちゃんが聴いてる構図だった。

 さとみちゃんを狙っていた僕は当然焦る。しかし、焦っても良くは無い。それにタクミのことは信頼してる。大らかにやり過ごし、2軒目に整える。

 お会計は4人で割り勘という平和な構図に。
 そのまま新橋のアイリッシュパブへ向かった。
 逆転のチャンスを伺う。が、ここでもお酒好きのタクミとさとみちゃんが意気投合。完全に2人のペースだった。僕は非力な餅つきを繰り返していた。

 最後のチャンスは奥の手を使った

さとみ「ごめんね、お手洗いに行くね。」

 この瞬間に僕は同時に立ち上がり、2人でトイレへ向かった。

 そして、トイレの前で勝負に出た。

僕「さとみちゃん、今日楽しくてさ。また一緒にいたい。今度は2人で食事に行こう?」
👧「あー、でも少し忙しくて。」
僕「銀座に美味しいアップルパイがあるんだ。焼き立てを店内で食べられるのはそこくらいかな?」
👧「え〜?!それ気になる!それは行きたい!」
僕「そしたら後でLINEするから日程合わせよ!」
👧「はーい!」

 ずるい手段だが、滑り込ませた。そして、肩の荷がおりた、ホッとした気持ちになった。フラれた女の子と行ったアップルパイに救われるとは。言ってみるもんだった。

 そこからの記憶はあまり残っていない。
 きちんとみんな別々に終電で帰ったことだけは残っている。
 次さとみちゃんに会えることを楽しみにして、それだけでハッピーな気持ちになっていた。
 今思うと、こんな不確定な約束するだけで幸せになれるのだから自分もエコな人間だと思う。
 ちなみにさとみちゃんに会うのは、ここから2ヶ月後になる。


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童貞、ナンパする(第十一話)


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