映画「リンカーン」(by ご隠居3号)

隠居の楽しみの一つは有り余る時間を使って映画を見ることがあります。シニア料金だし平日の朝一番の回は基本空いているので快適です。好きな映画がかかっていない時はPCで配信の映画をみます。

今日は「リンカーン」2012年アメリカ映画。監督はスピルバーグ。アメリカ合衆国第16第大統領エイブラハム・リンカーン役はダニエル・デイ・ルイス、他にトミー・リー・ジョーンズ(今ではすっかり缶コーヒーの宇宙人でお馴染み)サリー・フィールドなど。

何の予備知識もなく見始めましたが、リンカーンと言えば奴隷解放であり暗殺されたということぐらいは知っています。物語は悲惨な南北戦争の末期リンカーンがアメリカ合衆国憲法修正第13条を議会で可決させて暗殺されるまでの数カ月を描いています。もちろん奴隷解放は大きな主題ですが、この映画が訴えるのは民主主義そのものの成り立ちを直視するということ。結果的に表面上は多数決という数の問題として決着する民主主義ですが、その内実は理想だけでは立ち行かないシステムだということです。ドロドロした私利私欲がからみ、もちろん忖度もあるしやむに已まれぬ妥協なしには物事が進まないのが民主主義なのですね。それでもこの修正第13条が可決されなければ全土の奴隷解放はならず戦争も終わらないかもしれない瀬戸際のリンカーンの苦悩が描かれています。奴隷解放には憲法による法的根拠が必要だったのです。
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合衆国憲法修正第13条

第1節 奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶ如何なる場所でも、存在してはならない。ただし犯罪者であって関連する者が正当と認めた場合の罰とするときを除く。

第2節 議会はこの修正条項を適切な法律によって実行させる権限を有する。
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実際にはこの修正が可決される前からリンカーンの解放宣言によってどんどん奴隷解放は進んでいたのですが、そこに法的根拠と強制性の付与がなければ各州の思惑や個人の抵抗によって完全な解放は保証されなかったのです。


理想はあくまで「人は生まれながらに平等である」というものですが、あえて「法の下に平等である」とすることで賛成の声を集めて可決させたということです。ほぼ5年以内にほとんどの州がこれを批准したものの、デラウェア州が1901年、ケンタッキー州が1976年、
最後に残ったミシシッピー州が批准したのはなんと130年後の1995年でした。

国連で世界人権宣言が出されたのが1948年(第一条 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である)

奴隷制度そのものはなくなりましたが、いわゆる人種差別は連綿と続きキング牧師が有名な「I have a dream」という演説を行ったのが、1963年。2020年の今でも「Black Lives Matter」で人種問題は沈静化する気配がありません。
人種差別は権力や富の所在も絡んで「はい人種差別は良くないのでやめましょうね」と言って済むものではありません。

よく日本には差別がないとか無邪気に言う人がいますが、私はそう言う人を信用できません。なぜなら自分の中にも何がしかの差別意識が潜んでいるのを感じるから。そして若いころ住んでいた外国ではっきりと人種差別を受けた経験もあるし、日本でも職業や年齢や収入や性差による差別などを受けてきたし、時には自分が誰かを差別してきた自覚があるからです。男である私がどんな性差による差別を受けたかというと、昔仕事を捜していた時、キノコ栽培の求人があって時給は安いんですけど良いかなと思って連絡したら、男は募集していませんと断られました。女性はもっと多くの場面でこういうことに遭遇しているんだろうなと思いますし、現在では性差によって出来る仕事が限定されるのは余程特殊なケースしかないはずです。だって軍隊でも宇宙飛行士でも女性がいるわけで・・・。

で、結局差別を無くすためには政治や行政そして特に教育が大事なことは言うまでもありませんが、私たち個人個人が日々の生活の中でそれぞれがじっくり考えるしかないのかなという、実に曖昧模糊な結論になってしまいます。

現在のところ世界を見渡せば民主主義が最も人権と自由を尊重したシステムであることは間違いないと思われます。その民主主義が正常に機能するための肝は多数派がどれだけ少数派の意見を聞くかにあります。そうです、けっして意見の違う少数派を切り捨ててはならないんです。説明を尽くして妥協点を探り納得してもらう。それには時間はかかるしそこまで議論を尽くすのは面倒ですが、それが唯一の方法なんですね。

実は世界の中で民主主義の国は多数派ではありません。君主制、独裁制、全体主義などはもちろんのこと民主主義の体裁で実際はそうでない国もたくさんあるのです。近年では民主主義の体で行われた選挙で選ばれた者が独裁者になるのはよくあることです。そして独裁者がするのはいつだって批判者の粛清であり少数意見の抹殺なのです。

リンカーンの映画を観て、世界は150年前のその時代からちっとも良い方向に変化していないと感じてしまい、更には最近の日本の状況がなんだか民主主義の劣化というか崩壊に向かっているようで隠居の身ながら不安になってあれこれ考えてしまいました。

とりあえず政治家の人数を男女半々にしませんか?企業の採用も男女半々にしませんか?
あれこれ文句がでるし問題もでるでしょうけど・・・この単純なことで社会は世界は大きく変わるはずです。

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