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遥かなる余韻

 ふわふわしている。これは昨日飲んだ角のストレートと赤兎馬のお湯割りとボトルキープさせていただいたノンエイジハーパーによる、心地よい二日酔いだけではないと思う。未だに現実味という味覚をあの店においてきたようだ。

 私は地元で飲み屋の贔屓店を作るのが嫌だった。下手に近場で遊ぶことを覚えたくなかったからと、単に陰の者なのでわいわいがやがや陽気な雰囲気が好きではなかったのもある。ただ昨日、令和六年の春めいた暖かな小雨の夜は違った。転職祝は建前で、本音は人間関係の拗れを癒やされに傷心スナックと洒落こんだのだった。

 最初は30分〜1時間ほどいわゆるママ?と呼称される人種と喋っていた。(ママと呼ぶのが未だに恥ずかしいので以後経営者と呼称する)すると、経営者のスマホが鳴り、どうやらカウンターに三名ご来店のようだ。

 その三人との邂逅がアルコールよりも芳醇な浮遊感をもたらしている。もちろんここからのやり取りは個人的な話ばかりになるので公開はする気はないが、一部上場の33歳の営業部の係長という出世街道を走ってるランナーが頭の上がらないような80代と70代の方に良くしていただいた。そのお二方は風格があり、私に北野武とコネクションがあれば次の映画の俳優候補にどうかと推薦させていただくような、話す内容はもちろんのこと、佇まい、声色、表情、何から何まで正しく良質な映画俳優だった。それら風格が現実感を剥離しているのだろう。

 とにかくこの先の仕事に精を出し、またあの店でお会いできる日と、それまでにはもう少しまともな人間で居られるように、と思いながら昨夜のことは忘れてしまおうと思う。

 というか山崎12年ボトルキープ5万は安いんじゃないのか…

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