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Worker ~マジシャンとしてのスタイル~

毎度おなじみ、レストランマジック研究所 小林洋介です。
僕はあまり名刺を渡さないのですが
(まあ、営業を取る気が無いから、というのもあります)
先日珍しくお客様に名刺をお渡しし、そこに記載されている
肩書に興味を持ってもらいました。

何種類も名刺があり、それごとに色々と書いてあるのですが
お渡しした名刺には
「クロースアップワーカー」
と書かれています。

この言葉は、学生時代から使っていたものなので
僕にとってはある意味で自然な物なのですが
「マジシャン」という存在でしかないと思われている所では
そりゃあ、奇妙な肩書でしょう。

単純にワーカーって、もちろん仕事をしている人って事なので
クロースアップマジシャンという事を別の言葉で表現をして
クロースアップワーカーという人もいるかと思います。

僕はもう少し意味が違いまして、ちょっと重たい?
意味になっています。
今はもう知っている人も少ないでしょうが
アメリカのマジシャンのマイケルクロースが
「Workers」という書籍を出していました。

今でも出していますが、彼がレストランで演じていたトリックを
解説したり、テクニックや理論に関してまとまっているものです。
書籍というよりも、ノート位の分量でしょうか。

恐らく1990年代位に出ていたんじゃないでしょうか?
僕よりも上の年齢で、その時若手で現場でバリバリやってきた人達は
みんな読んでいたんじゃないの?って感じです。

その後、DVDなどでも出ているので
そちらを持っている方もいるかと思います。

僕は書籍の事を知る前に、DVDを買っていたかもしれません。

その動画の中で、マイケルクロースが
「That' Worker!」
と冒頭で言っている部分があります。

このワーカーという言葉なのですが
マイケルクロースが使う際には
「マジックを始める前に、どこから道具を取り出し、終わった後にどうしまって、観客のマネージメントなどもできているマジシャン」
という事を意味しています。

今なら、オーディエンスマネージメントという言葉も
だいぶ認知されてきていますが、現場レベルでそういった事も意識して
自分の行える事柄を、理解の上、意識的に行っているマジシャン
へ向けての言葉になります。

なので、僕自身、自分がホッピングしている所などを見られて
マイケルクロースから
「He is Worker.」
などと言われたら、もう最大限の賛辞になります。

今でもこの「Worker」という概念は
優先順位が高いものとして、僕の中にあります。

なので、他の人のトリックを見て
不思議である、とか面白い、よりも
ワーカーであるかどうか
という部分は非常に重要ですし
特に自らをプロマジシャンという人の動きは
このラインで見ている気がします。

どのポケットから道具を取り出すのか?
どのタイミングなのか?
そのセリフの意味は?
観客の感情や理解がどう動くのか?
などなど

僕自身はマネージメントが大変になるので
道具はあまり持ち歩かず、仕掛けの物は特に少なく
すぐにできるような手順を覚えるようにしている
というのもまた、ワーカーへの意識からだと思っています。

無駄な動き、無駄なセリフ、あいまいな指示
等は、特にワーカーではないと感じる部分です。

例えば
一回テーブルに置いたものをまた取り上げるとか
無駄にポケットに手を入れるとか
説明が長いわりに伝わらないとか

ウケる・ウケないとか不思議か?という以前に
ワーカーではないので、背筋がぞくぞくする感じです。

ある意味での、機能美だと思っています。
余分な物がないというのは、ある種の美しさを
持っていると思っています。

それは、パフォーマンスにおいても。

個人的にはウケる事よりも、この機能美を常時持っていたい
というのがあります。
多分、僕のマジックを見た人が、ワーカーを意識してない人の
マジックを見たらノイズの多さを感じると思います。

結局それがお客さんのストレスになり、そのストレスのはけ口は
マジシャンに向かってきて、そのお客さんがヘックラーのような
動きを行う可能性が上がるのではないでしょうか。

「なんでそうするの?」というシンプルな質問をされたとして
そうする理由がないなら、感情で行っているわけです。
それが悪いのではなく、感情で行っていることは、修正がしにくいんです。

そういった部分を出来るだけなくし、自分の意識下へあらゆることを
持っていくようにすると、少なからず演技はスマートになると思います。
そして、意識下にあるので、修正作業が的確にできるようになり
演技が改善されやすくなります。

マイケルクロースもワーカーズの書籍も
知らない人が多くなっているでしょうが
ワーカーな演技をどこかで楽しめたら、と思っていますし
自身がワーカーであろうと、常に思って頑張っていきたいと思います。


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