初めての家出
在宅介護をはじめて『家出』をしたのは、同居して数カ月後。
人の世話をすることに経験も適性もなく、仕事でもしんどい事が重なり、何もかもイヤになった。
いつもならすぐに宿を探し電車に乗るけれど、母がいるのでそういうわけには行かず、宿だけ予約した。
それだけで生きた心地がした。
海の上から遠くに陸地が見えた気分だった。
家に帰り一日空けても良いように準備をした。
翌日は仕事が終わるのが遅くなり雨に降られ道に迷い、どこかに逃げても上手くいかない。
母を置いてまですることだったかとも思った。
チェックインに遅れたが丁寧に出迎えてもらい広い部屋に通されてやっと、ひと心地つけた。
というより、ホテルの部屋が良くテンションが上がり母のことは遠くになった。
夜が明けると部屋から湖が見えた。
今日は思う存分、水辺でゆっくりしようと散歩に出た。
小雨になった雨はじきに止み、島に行くという船に乗ってみた。
思いがけない船旅。
曇っているが波の飛沫や風を浴びるのが気持ちよかった。
島を散策しているうちに太陽が出てきて雨にぬれた緑は輝き、パワースポットってこういう所かなと思うような晴れやかな気持ちになれた。
慌ただしく始まった在宅介護生活で自分の心を納得させることができないまま過ぎていたけれど、気持ちの踏ん切りがついたような小旅行になった。
それから介護する側にも転地療養が必要だと、休みごとに家出と称して旅行することにした。
今のところ旅行する時は、母は頑なにショートステイに行かず一人で家で過ごしている。
日程をヘルパーさんが来る日にしたり、母の友人に遊びに来てもらったり、見守りサービスのある配食を頼んでみたり工夫している。
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