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事業再構築補助金を活用した売店リブランディング事業で関連商品売上3割増、老舗「兵衛向陽閣」の挑戦

その歴史は古く日本書紀にまで遡るとされ、日本三古湯のひとつにも挙げられる関西の名湯・有馬温泉で、700年もの時を重ねてきた老舗「兵衛向陽閣」が、このほど事業再構築補助金を活用して、売店のリニューアルと商品ブランドマークの作成、ECサイトでの販売展開を本格始動。

新たな時代に向けて老舗が取り組むこの事業について、売店をご担当されている、宿泊部部長の岸本さんにお話をお聞きしました。

★この記事のポイント★
施設の改装や新事業開発などに活用されることの多い事業再構築補助金ですが、アイディア次第でさらに自由な活用の可能性を秘めています。



1.新ブランド「兵衛印」開発の狙いとその経緯とは?

私どもの宿では以前からオリジナルブランドを展開しているのですが、これまではデザインなども統一されておらず、一貫性がないという課題を有していました。

▲以前の売り場の様子

これにもう少し統一感を持たせられないか?という思いはずっと抱いていたのですが、ご存知のように宿の運営に際してはさまざまな課題があり、ブランディングや改装、ECサイト展開など、売店に関する事業の優先順位はどうしても低くなってしまうのが現実でした。

そんな中で迎えたのが今回のコロナ禍。この影響は大きく、私どもの宿でも団体旅行から個人旅行へのシフトがさらに急激に加速し、これによってお土産の売上傾向の変化もより顕著なものとなってきました。

具体的に言えば、それまでの売店商品は団体旅行のお客様がご近所や職場などに配る用途を主体としていたのに対して、コロナ後は売店商品は自分用に買うものという位置づけへと大きく様変わりしていきました。

そのニーズが大きくまた急激に変わる中で、売店とその商品の販売戦略をしっかりと見直し、今お客様が求めるもの、また兵衛ならではの「良い品物」を、自信をもって提供していきたいと考えるようになっていったのです。


2.柔軟なアイディアで事業再構築補助金のチャンスを活かす

今回の売店リニューアルや商品のブランディング、またECサイト展開の事業は、事業再構築補助金ありきで取り組んだプロジェクトです。

補助金の活用に関しては、社内でも新たな事業を立ち上げることに主眼を置くか、また地道でも確実な事業を進めるべきか、何度も多面的な検討を繰り返しました。

売上に貢献する新たな柱を作るという点を重視するのであれば、売店の改装ではなくキッチンカーを出店するなどの可能性も考えられます。補助金としてのテーマや要件、現在の宿が直面している課題などを先入観なしに多面的に検討し、先のキッチンカーのような自由で多彩なアイディアなどが集まった中から、最終的に新たな商品ブランディングの構築と売店改修、ECサイトの強化がこの時期に取り組むべき事業だと結論付けることとなったわけです。

そんな経緯でスタートした事業計画で、特にマークしたのは売上です。リアル売店+ECサイトで、事業本体の売上の10%を確保する必要がありますから、これを実現するための事業スキームをどう形作るかがやはり大きな焦点でした。

3.新ブランド「兵衛印」の展開で重視していること

商品開発で特に意識しているのは、まず一つ目が「地元感」です。

せっかく向陽閣にお越しいただいたお客様に対して、地元素材などを中心に「ここでしか出会えないもの、味わえないもの」をご提供することは宿にとって何よりも重視すべきポイントです。

また、その商品を通して「兵衛の名に恥じないこだわり」をお客様に実感していただけるか?というのも大切です。

こうして地元を大切にした商品、きちんと考えられた商品を、兵衛のおもてなしの一つとしてご提供することこそが、私たちのめざすブランドのあり方。手前味噌ではありますが、創業700年の歴史に恥じないだけの商品を開発、提供することは私ども老舗旅館の使命のひとつでもあります。

▲兵衛印

言葉で語るのではなく、お客様が手に取り味わった商品そのものが、兵衛のこだわりやアイデンティティを雄弁に物語る…、今回のブランディングにおいては、そんな商品を多くのお客様におとどけすることを主眼に置いています。

こうした想いに基づいて、ブランドマークやパッケージデザインも「兵衛らしさ」を重視しています。お客様がご自宅に戻られてから、旅の想い出を楽しく振り返りつつ商品を味わい、「さすが兵衛」との想いを追体験していただけることが、私どもの願いです。

そしてこうしたお客様がECサイトを利用して、その想いそのものをリピート購入していただくことが、この事業の目指すところなのです。


4.リニューアル後のお客様の反応はいかがですか?

新たな売店での商品販売は、この9月2日からのスタートとなりましたが、これまでのところお客様の反応は上々で、商品の売上も好調に推移しています。

特に個人向け商品として位置づけた「兵衛印」の商品群については、おかげさまで売上で約3割増と、当初の予想以上の数字を計上しています。商品の価格設定はこれまでと同じですので、この売上の増加はそのまま販売数が増加していることを意味しています。

現場の状況を見ても、これまでは素通りしていたお客様が新しい売店の姿に興味を持ち、数々の商品を手にとっていただく様子が見て取れますし、またこうした新たなお客様が実際にお買い上げになられることで、これまではあまり注目されていなかった商品が、売上の上位にランクインするケースも目立っています。

ただ一部の商品に関してはロットの入れ替えタイミングなどもあって完全に新パッケージに統一できておらず、現状はシールで対応している部分もありますから、まだプロジェクトとしては途上。来月あたりからはパッケージも完全に統一して、本格的な始動を迎えられる見込みとなっています。

また今回のプロジェクトによって売り場のイメージが一新し、お客様からも上々の反応をいただけたことで、取引先メーカー様など関係者の方からの興味も高まり、嬉しいことに「うちの商品もおいてほしい」などの引き合いも増えてきていますので、これからがますます楽しみです。

▲リニューアル後の売り場の様子


5.今後のブランドの展望と、そのための取り組みとは?

今後の商品展開においては、新たなブランドにさらなる一貫性と広がりを持たせることが主眼となります。その意味でも当館での体験にリンクした商品をいかにして開発整備していくかがテーマです。

宿の売店での販売商品は、食品をメインとするのが一般的だと思われますが、かと言って食品だけにこだわる必要はどこにもありません。「兵衛ブランド」のテーマに沿って言えば、例えば上質な睡眠を提供できる枕や布団、パジャマなどの商品群も、今後の新たなカテゴリーとして確立できる可能性を秘めているでしょう。

また宿で召し上がっていただく料理とのリンクを想定すれば、ご自宅でお楽しみいただける冷凍の鍋料理なども検討できるのではないでしょうか。

現在のところは、お土産として展開している「兵衛印」ですが、今後は兵衛印の商品を取り扱う実店舗を館外に新設・展開するという考え方もありますし、またお土産ものというジャンルを超えて、飲食やカフェなども視野に入れられるかもしれません。

いずれにしても大切なのは、今回立ち上げたブランドの価値とその狙いをしっかりと定着させ、また拡大浸透させていくことです。そのためにも今は商品開発の会議を定期的に行いながら、いたずらに視野を狭めることなく、自由な発想を活かした新商品の開発とブラッシュアップを重ねているところです。


事業再構築補助金は、旅館ホテルの新たなチャレンジを後押しするものであり、その対象は決して施設改修や観光DXの推進、新事業への参入などに限られたものではありません。

エイエイピーでは今回、先方ご自身による事業再構築補助金申請が採択に至った後に、ご紹介した売店と商品のリブランディングに関する具体提案を行い、ご採用いただくこととなりました。

まずは本プロジェクトが上々の滑り出しとなったことを喜ぶと同時に、今後もさらなるブランド力の向上と多方面への浸透に向けて貢献していきたいと考えています。

▶有馬温泉 兵衛向陽閣

※2022/11/24公開の記事を転載しています


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