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事業再構築補助金を活用し、パン専門店をオープン。これを機に多彩な事業を展開中【富士レークホテル】

コロナ禍による経営状況の悪化に対処するべく中小企業庁が主導している「事業再構築補助金」を活用して新たな事業に取り組んでいる旅館ホテル、またこれから取り組もうと計画を進めている宿の数は、現時点でもかなりの件数に上っています。

そんな中から今回は、富士山の麓・河口湖に本格的なフランスパンの店をオープンさせ、地元でも高い人気を集めている富士レークホテルの井出社長にお話をお聞きしました。

-この7月にオープンした「パン・ダニエル」は、どんな経緯で立ち上げに至ったのでしょうか

近頃は消費者のライフスタイルが多様化し、旅行の形態もこれまでとは大きく様変わりしてきています。もちろん食事に関しても同様で、十人十色、さまざまなニーズが共存しているのが現状です。

こうした多様な旅のスタイルにお応えしようと、私どもでは2018年に、東京銀座「マキシム・ド・パリ」や椿山荘「カメリア」等で総料理長を歴任したフランス人シェフのDaniel Paquet(ダニエル・パケ)氏を招聘して、ホテル内にフランス料理レストラン「PREMIER(プルミエ)」を開業。地元産食材などを用いた本格フランス料理の提供をスタートさせました。

またこれに伴ってシェフから「フランス料理を引き立てるような一級のパンを添えたい」との強い要望があったことから、パン専門の職人を新規採用し、シェフのフランス料理に合うフランスパンを館内の工房で焼き始めました。

当時はインバウンド最盛期で、このフランスパンはレストランはもちろん売店でも大好評をいただいていたのですが、そんなさなかに突然観光業を直撃したのが世界的な新型コロナの感染爆発です。

インバウンドの追い風を受けてメインのお客様として見込んでいた海外からの訪日観光客が一気にストップした上に、国内旅行のマーケットも大幅に縮小し、当然フランス料理レストランもほとんど稼働できないという状況に陥ってしまいました。


-事業再構築補助金の申請にあたって工夫した点や、ご苦労などはありましたか

そんな状況を改善するために、今何ができるのだろうか…。出口の見えない経営課題にただただ苦吟する中で目に止まったのがこの「事業再構築補助金」で、おそらく私どもは河口湖エリアで最も早くこの補助金に着目した施設のひとつではないかと思います。

観光客はもちろん地元の方からも好評をいただいているフランスパンの存在は、この時期において唯一のプラス要因でしたので、これを新たな売上の柱として確立させることはできないかというのが計画の発端です。

この補助金では「本業とは異なる事業で10%の売上を上げる」という要件がありましたので、新事業への投資と運用経費、売上試算を何度も何度も繰り返し、「これで大丈夫」と確かな見込みを得られたところで第一次の補助金申請を行った結果、総予算1億に対して6000万円の補助を無事にいただくことができました。

申請に際してもっとも苦労したのは、申請書類の作成でした。

私どもでは申請にあたってコンサル等に相談することなく、新たな事業計画の立案から申請書類一式までをすべて自社内で制作しました。初めての申請ということで不明点も多く、商工会へのご相談やサポートもいただきながらの3ヶ月ほどの期間は本当に苦労の連続でした。

しかしこうして自分たち自身で計画を練り上げ、価格設定から人員問題に至るまでのさまざまな課題を一つ一つクリアしていった経験によって、これから自分たちが展開していく事業についてより深く理解することができ、資金の融資をお願いする銀行にも説得力のある説明をすることができたと実感しています。

新事業の立ち上げにあたっては、ホテル敷地内ではなく道路をはさんだ正面に新施設を設けることへのリスク、またコロナの行く末によってはさらにホテルが長期の休業を余儀なくされリスクが拡大していく可能性もあることなど、正直なところ経営面での悩みは枚挙に暇がありません。

しかしそれを踏まえても、経営者として「つねに会社が元気で活動している姿を見せていきたい」という強い想いには変わりはありませんでした。

コロナ以降は日本中に暗いニュースばかりがあふれていました。しかしこのパン工房の新事業は、地域に明るい話題を提供するエポックにもなりますし、フランス料理レストランやホテルとの親和性も高い事業もあります。

「こんな時こそ前向きに!」。それが計画に着手した時の偽らざる気持ちでした。


-オープン後のお客様からの反応はいかがですか

おかげさまで7月1日にオープンを迎えた「パン・ダニエル」は、観光客はもとより地元の皆さんからも大きなご支持をいただくことができ、オープンから8月までの2ヶ月では毎日約30~40万円の売上を計上することができています。

このベースを持続することができれば補助金の要件である本業の10%というハードルはクリアできる見込みではありますが、現在の売上傾向には正直なところご祝儀感覚もあると思いますので、今は「ここからが正念場」と戒めを新たにしているところです。

「パン・ダニエル」ではフランスパン以外にも、レストランで提供しているフランス料理の惣菜や洋菓子なども広く扱っているのですが、富士五湖エリアでもこうした商品ラインナップを提供しているショップが稀少なことも、お客様からのご支持につながっていると思います。

同時に客数が減少していたフランス料理レストランのスタッフにとっても、「パン・ダニエル」を通じて、売れる商品を作ることができることは大きなモチベーションとなっています。

さらに思わぬ効果でしたが、人材確保面のでも「パン・ダニエル」オープンの影響が現れています。

ご存知の通り旅館ホテルでは人材問題が共通の悩みとなっており、さまざまな施策を講じてもなかなか新たな人材を得ることが難しいのが現状なのですが、今回パン・ベーカリーというカテゴリーで人材を募集してみると、「やりたい」と手を挙げてくれる方が次々と現れたのです。

旅館ホテルの職場としての魅力度アップの必要性を改めて強く感じるその一方で、従来は視野に入っていなかった新たな人材層が開拓できたというのは嬉しい発見でした。


-富士レークホテルの次の展望としては、どんな将来像を描いていますか

  
これからの富士レークホテルのあり方としてイメージしているのは、欧州のリゾートエリアです。

欧州では村全体をリゾートエリアとして捉え、その地域にステイすることによって、他にはない独自の魅力を満喫する旅のスタイルが確立されています。

富士の麓・河口湖でもこうしたスタイルの観光が満喫できるよう、「パン・ダニエル」をその最初の一石として位置づけ、ゆくゆくは河口湖エリア一帯をリゾートビレッジ化し、宿泊客はもとより日帰り客、富士北麓の別荘族、ペット需要の取り込み、そして地元住民への貢献などまでを広く視野に入れた展開を図っていけたらと考えています。

現在、私どもでは「富士レークホテル&ヴィレッジ」のテーマに基づいて、同じく事業再構築補助金を活用した古民家ホテルの新規計画もスタートさせています。

これは江戸時代末期の建物をホテルとして蘇らせ、主に海外の富裕層をターゲットとして「江戸時代の建物に泊まる旅時間」を商品化するもので、2024年2月のオープンを予定しています。

この古民家ホテルでは例えば、河口湖唯一の造り酒屋である「井出酒造」との提携によって江戸時代の古民家に滞在しながら、作りたての地酒と懐石を楽しむ旅を提供するなどの展開なども視野に、「富士の麓・河口湖でしか味わえない限定体験」をテーマとしながら、地域そのものの活性化をめざしていきたいと考えています。

ここまでの経緯を振り返ってみると、コロナのダメージは確かに経営を揺るがすほどに大きいものでしたが、しかしその一方で、私どもが日々ホテルを運営している中でこれほどまでにまとまった時間が取れたことは過去一度もなかったというのも事実であり、この時間はとても価値あるものだったと見ることもできます。

コロナのマイナス面ばかりをただ悲嘆していても何も変わりません。ですから私どもでは今回のコロナ禍を、新たなビジネス展開を足元から見つめ直す良い機会になったとできるだけ前向きに捉えるようにしています。
今後計画している事業に対しても、時期的なことから反対意見もありますが、富士レークホテルの将来を見通した上での「チャンス」と捉えて、積極的な姿勢で立ち向かっていきたいと考えています。

▶富士レークホテル公式サイト

※2022/10/19公開の記事を転載しています


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