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正直、運行情報はネットの方が早い


元鉄道員が語る、運転見合わせの舞台裏

 過日、悪天候は百も承知で、兼ねてから計画していた4泊5日の九州旅行を決行した。無論、交通機関が麻痺するリスクは元鉄道員として心得ている。

 大雨警報が発令されている影響で、JR線某所の雨量計が規定値を超えていることから、初電から運転見合わせとの運行情報を知っていたが、色々と予約している兼ね合いから、事態が好転することを天気予報の雨雲レーダーを信じて、行けるところまで行く選択をした。

 旅の途中、県庁所在地の某所で運転再開を待っていたところ、一部区間で運転再開との情報が入り、このまま当日中に目的地まで行ける希望が見えたため、運行区間の最果ての地まで出向いた。

 当初は18時台の運転再開を見込んでいた上、その時間帯の特急を運休にしていなかったことから、元業界人の直感として、当日中の運転再開を目論んでいることは明白だった。現場の状況から、当日中の再会が絶望的であれば、早い段階で特急列車の運休を決定するからだ。

 しかし、いざ18時になってみると特急は終電まで運休。終電間際の普通電車だけ動かす的な話に変わり、終日運休の暗雲が立ち込めてきたことを察して、現地の商業施設でd-wifiに繋ぎながら、今日の宿泊所の候補をピックアップしていたところ、18時を前にJRのWebサイトで終日運休が発表され、既存の宿のキャンセルと、今日泊まる宿を予約した。

 念の為、駅でJRのプレス通りか確認したところ、紛れもなく終日運休であることが判明した。窓口で優待券でタダ乗りしている自称株主がブチギレていたが、駅係員に詰め寄ったところで、終日運休の事実は覆らず、係員に罪はないのだから、仕方ないと割り切って建設的な会話に留めるのが、いわゆるデキた人間の対応ではないだろうか。

駅員はどのように現場の情報を知るのか?

 そもそも、iPadで情報共有しているJRならともかく、現場の駅係員が事故現場の情報を知る流れとしては、現場の係員が運転指令に報告→運転指令が無線で各駅、各列車に一斉送信→無線の情報をもとに旅客に案内と、全て音声のみのやりとりで、現場係員の主観による報告となるため、情報の精度や客観性には限界があるのだ。

 典型例として、福知山線5418M列車脱線事故の通信記録の文面を見ると、カオスな状況でパニクって状況報告がままならない車掌と、ただ車と衝突して脱線した程度に思っている指令員とで壮大に食い違っていることが窺える。

 後続の2736M列車運転士が、当事者ではないが故に、ある程度は冷静に状況報告しているものの、列車がマンションに激突している状況は現場では見たままの光景(=当たり前の前提条件)であって、本件列車車掌も後続列車運転士も輸送指令員に報告していない。それくらい、鉄道員の身から「目で見ているものをありのままに話す」のは本当に難しく、「確認会話」や「5W1H」を意識していても、エラーは根絶できないのが、音声通話のみで対応する宿命とも言える。

 確認会話でヒューマンエラーに至った事例として、
指令員:架(空電車)線に飛来して引っかかっているビニールを「とって」ください。

 この指示を受けた運転士は架線に引っかかったビニール袋を除去したが、指令員は(状況を知りたいから)写真を撮って欲しいと伝えたに過ぎない。

 日本人特有の主語抜き言葉による食い違いだが、これで運転士が架線の1500Vに感電したら即死する。

 私は必ず、復唱する際に、可能な限り同じ意味合いで別の表現に置き換えるよう心掛けていた。先程の例の場合、「トロリー線に付着しているビニール袋の飛来物を取り除く旨。了解。」のような復唱をする。

架線:仮線?下線?活線?
ビニール:袋?傘?
とる:撮る?取る?採る?

 5W1Hは、いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように
「いつ」は現在というのが暗黙の了解。
「なぜ」は主観による憶測となる可能性が高いので、断言できない状況であれば「〜と思われる」を最後に付け加える。
「どのように」は指令が判断する部分。

 客観性を保つために、ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座(本)の影響もあるが、数値化可能なものは数値化して伝える。例)「大きな落下物」ではなく、「目視で何cm位の落下物」。

現場に居合わせている係員以外、詳しい情報を知らないのが常

 そもそも現場に居合わせている係員は、初期対応や応急処置をする傍で警察や救急、乗客に状況説明をしていて猫の手も借りたい状況。こまめに運転指令に報告する余裕などない。

 冷静に考えて、緊急時に警察や救急が来たら、「今警察、レスキュー到着しました」なんて悠長に指令へ連絡する前に、真っ先に警察やレスキューに現場の状況を説明する訳で、詳しくは係員にお尋ねください。と案内はしているものの、現場に居合わせている係員以外は、詳しい情報を知らないのが常で、俯瞰できる運転指令が配信するWeb上の運行情報の方が、交錯する現場の情報よりも正しい可能性が高い。

 私も駅員時代に現場責任者として人身事故現場に居合わせたことがあるが、警察に現場検証いつ終わりますかなんて聞いたところで答えてくれない。

 だから、運転再開見込みの時間なんて運転指令の経験則に基づく勘以上でも以下でもない。あえて運転再開見込み時間を告知することで、警察にそれまでに現場検証を終わらせるよう圧力をかけている側面すらある。

 結果として、Web上の運行情報や、Xで現地の情報を拡散された方が素早く客観的だったりする。

 今回の旅先での運転見合わせも、私がWebサイトを確認した内容の方が、駅係員が把握している情報よりも早くて正確で、係員にウチらより情報が早いと関心されたため、「元業界人です。先(再会時刻)が見えず辛いとは思いますが、交代まで頑張ってください。」と声を掛けた後、私は鉄道での移動を諦めて高速バスに乗り込んだ。


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