退職前後での家計簿の変化'e
給与天引きの弊害
退職して事実上、人質に取られていた財形貯蓄などが、ようやく一通り払い出された。書類の不備を指摘されつつ、イライラしながらやっつけたため、自分のお金を引き出すのに、手間を取られるものなど二度と使いたくないと思った。
この手の強制貯蓄システムは、宵越しの銭は持たない江戸っ子気質な人や、家計管理に無頓着で赤字を垂れ流す人には有効だが、金融リテラシーが高く、現金は最大限運用したい私にとっては、払出しのハードルがあることから流動性が皆無ゆえに、目の上のたんこぶに等しい。
源泉徴収されたであろう、残りかすに等しい利息が年数の割に数千円と、運用しない人からすれば飲み代一回分増えた。ラッキー的な感情になるだろうが、この元本を年率4%で運用したら…と、取りこぼしたであろうインカムの数字を電卓で弾き出しては落胆する。
そんな中、家計簿アプリで口座やクレカに紐づいた履歴計上が、財形の払い出しなどは特殊項目故に、内訳を編集しながら暦年の収支を確認したところ、社畜時代と支出が大差ないか、むしろ微増していた。
このままでは地方移住で家賃を削減したはずなのに、都会暮らしの年間支出と大差ないどころか、むしろ昨年よりもハイペースで支出計上されているのは、何ら誘惑やイベントの類がない地方で、何もしていない感覚から反する。何かがおかしい。
そう思いながら暦年支出で計上している項目を、恐る恐る確認したところ謎が解けた。税金や社会保険料である。真実はいつもひとつ!
社畜時代なら、仮に額面が25万円、天引きが5万円あると、家計簿アプリ上の収入は、20万円で計上される。しかし厳密には、25万円の収入と、5万円の税金+社会保険料などで計上しなければ、単純比較しようがない。
手取り=収入の先入観によって、早期退職に至るまで、家計簿上に税金、社会保険料の存在が隠れてしまっていたのである。
会社が徴収係を代行し、個人は無頓着に
税金や社会保険料は前年の所得に対して課されることから、退職して給与所得がなくなる最初の年に、重くのしかかる点は以前にも記しているし、覚悟の上で現金を厚めに用意していたが、家計簿に計上するようになったことで、名目上の支出が嵩むところまでは考えが至らなかった。
裏を返せば、サラリーマンはそれくらい、天引きされる税金や社会保険料に対して、無頓着になるよう国に仕向けられている訳である。
結果として、何の罪もない企業の経理担当などが、税金や社会保険料の徴収係までさせられていると思うと、気の毒とすら感じる。もし仮に起業するなら、社会保険料が天引きされる雇用形態で人を雇いたくないと思うのは必然だろう。
私は暗号資産(仮想通貨)黎明期に雑所得が生じたため、確定申告をしてから税制に興味を持ち、それ以来、寄附金控除や配当控除など、なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けで確定申告を毎年行なっている。
そのため、自身の課税標準が毎年いくら位で、所得税率が何%なのか。残業で時給換算の1.25倍となったところで、税金がいくら召し上げられ、税引後の手残りがいくらか。配当所得や雑所得をいくら得ると、所得税率が上がるのか。
また、事業主負担分を合わせた社会保険料率が何%で、等級(標準報酬月額)が上がると、負担がどれくらい増すのかも、肌感覚で把握していた。
それにより、現実的にどれくらいの給与所得を得るのが、自身の環境でベストなのかを考えながら労働していたが、そんなことを緻密に考える人間など周囲に居なかったため、気味悪がられていたのは想像に難くない。
しかし、その知識がFP2級試験で、それなりに活かされた辺りに、世間の金融リテラシーとのギャップを感じずにはいられなかった。
ずーっと愚かで居てくれれば良いの
私が理屈重視の思考回路で、持ち前の探究心もあってか、自身に関係するお金にまつわる数字の、算出根拠が知りたくなるため、自分の頭で理解できるまで噛み砕いてみる癖がある。
決して高学歴ではないため、何事も極力小中学生に説明して、理解できるレベルまで落とし込もうと、シンプルさを重視するものだから、自己理解に至るまでに多大な時間を要するデメリットがあるものの、それが他人に説明する際の能力の高さに直結しているため、一概に悪とは言えないのが難しい部分である。
その影響もあってか、ねんきん定期便や源泉徴収票の見方が分からないとか、年末調整の申告書の書き方や計算が分からないと、休憩時間中に私に泣きついて、あわよくば丸投げしようとする下劣な輩が後を絶たなかった。
そのため、内心では「今のままずーっと愚かで居てくれれば良いの。世の中の仕組みや、不公平なんかに気付かず、テレビや漫画でもボーっと見て何も考えず、会社に入ったら、上司の言うことを大人しく聞いて、戦争が始まったら、真っ先に危険な所に行って戦ってくればいいの。」と黒服の悪魔のような鬼教師になった気分で、心の中で呟きながら、政府が望む思考停止人間の量産をほう助していた辺りに、性格の悪さが滲み出ている。
そうして、世の中の仕組みや、不公平に気付いた結果、自分だけ抜け抜けとフリーライダーになるべく早期退職して、税負担のある今年一年を乗り切ろうと画策しながら、家計簿アプリと睨めっこしている最中である。
[増補]税負担が重いと、家計消費がシビアになって然り
退職から一年以上が経過し、給与所得は無くなるが、時間差攻撃で税負担が重くのしかかる一年を乗り切った。それと同時に、コロナ禍から始めた通信制大学での学歴ロンダリングも無事に終了し、学費の支払いがなくなったことで、家計簿的には随分と楽になった。
月に10万円もあれば満足な生活が営める私からすれば、税金と学費の負担だけで半年弱暮らせるわけで、いくら金融資産所得とは別枠でキャッシュを温存しているとはいえ、1年以内に確実に支払わなければならない流動負債の存在を意識すると、今すぐ必要でない類の出費を節制するのは当然だ。
そうして退職から1年間は、家電や家具を新調するのも、壊れて代えがきかないと困るレベルで必要に迫られない限り控えていた。
計算方法に疑義があるとはいえ、国民負担率は4割強とほぼ半分で、五公五民のネオ江戸時代を彷彿とさせる。また、疫病と戦争により30年間デフレスパイラルだった日本社会も例外ではなくインフレが加速した。
しかし、今度はインフレに対処できるだけの賃上げがコストプッシュ型故にできず、実質賃金が2年以上もの間、下がり続けているのが現状だろう。
つまり庶民の懐事情は、今すぐ必要でない類の出費を節制する温度感で生活しているのが実情であり、ドロップアウトしてから1年間の税負担に震えて夜しか眠れなかった私のような状態が今も続いていると捉えられる。
税負担が重いと、家計消費がシビアになって然りで、この状態が長く続くと内需が死ぬ。兵庫県明石市のように、庶民が重い税負担を課せられている現実を直視した上で、追加で負担する必要のない公共財を充実させる形で支援するのが、自治体の急務と言えるだろう。
限りある可処分所得を、安心して家計消費に回せるような状態に社会全体が変わっていかないと、消費性向の二極化が加速し、それに対応できない小売業の先行きは厳しいものになると考えている。
ドロップアウトを機に、合法的に重い税負担から逃れる立場となったことで、あまりケチケチしなくなったからこそ、可処分所得を消費に回せる安心感や、納税したお金の使い道に対する納得感が、社会全体で欠乏していると思う今日この頃であり、国民民主党の103万円の壁引き上げに期待したい。