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大学と住宅地の切っても切り離せない関係

住宅地は当然のことながら、周辺に所在する施設の影響を大きく受ける。ここでは大学と住宅地の関係を取り上げたい。読者諸兄も、地方から上京したならば、大学の周辺、もしくはその近隣のエリアに居宅を設けた方々も多いのではないだろうか。

東京は私大優勢である。私大の雄と言えば、早稲田大学と慶応義塾大学である。早稲田大学は学部にもよるが、早稲田を中心にとらえれば、主に西武新宿線沿いが学生の住むエリアになる。なんといっても、高田馬場まで行ければそれでよいし、西武新宿までいけば歌舞伎町も近い。西武新宿線はかつて不破兄弟が住んでいたころから、日本共産党との相性も良い。野方のあたりなど、何とも言えない郷愁を誘う。もちろん、そうしたことを気にしなければ家賃も安く、商店街も発展しており、住みやすさは抜群である。いわゆる高級住宅街とか、そうしたものではないが。

対する慶応義塾大学の場合、やや趣が異なる。主なキャンパスは日吉と三田である。(理工、SFCの方、ごめんなさい。)日吉は東横線であり三田は港区であるから、必然的に早稲田に比べれば家賃の高いエリアにせざるを得ない。したがって、多くは綱島以南の東横線沿いに居住することになる。目黒線になってからは、格段にアクセスが改善したであろう。裏を返せば、目黒線なかりせば、2年単位で住み替えることが合理的であったろうと推測される。

このように、上京する若者たちの東京イメージは、入る大学によって大きく異なる。そして大学を擁する街も、大学に合わせて変化する。それは「三田の理財、早稲田の政治、駿河台の法学、白山の哲学」といわれた、戦前から続く大学の位置づけ、そして誘致活動によって形作られたものであるといえよう。誘致活動は主に住宅地の開発を意図した鉄道会社によって行われた。有名なものは、五島慶太=東急の、学芸大学(東京第一師範学校)・都立大学(旧制府立高等学校)である。(ちなみに、日吉は駅開設後に校地拡大のため日吉キャンパスが誕生している。もちろん、東急側のアプローチはあったであろうが。)そして、堤康次郎=西武(箱根土地、コクド)の、国立・小平(東京高等商業学校)・大泉学園(大学の誘致は失敗)が挙げられる。私鉄が沿線開発において大学の誘致に力を入れた理由は、定期代を稼ごうという細かい金勘定よりも、当時の大学はエリート養成機関というイメージを生かした、沿線イメージの向上を目指した、というマーケティング上の理由によるであろう。結果として、大学のキャンパスの周辺には高級住宅街が立地することとなった。私鉄が誘致した大学の近隣は、多くが高級住宅街となっている。

無論、例外も多く存在するが、その多くは戦後、特にバブル前後に校地を郊外へ移転したケースや新設したケースでは、歴史的背景も異なるため、このような傾向はみられない。早稲田大学のスポーツ科学部や人間科学部が位置する所沢が高級住宅街に変貌した、という話もさっぱり聞かない。ブランドが日の出の勢いであった慶應SFCも、湘南台は悪くない住宅地なのであろうが、誰しもが知る住宅街ということにはなっていない。そして今は都心回帰が叫ばれ、多摩の広大なキャンパスを誇った中央大学の看板である法学部がついに都心へ戻ってくることになった。

ところで、大学の近くの住み心地はどうか、ということだが、高偏差値の大学であれば、落ちた大学でなければ住み心地はよい、ということになる。何といっても、高偏差値の学生であれば素行面での大きな心配はない。落ちた大学なら、コンプレックス丸出しで日々辛い学生時代を思い出すことにもなる(もちろん、不本意に進学した大学も精神衛生上はよくない)が、大方のケースでは治安もイメージもよく、また物価もそれほど高くなく、飲食の選択肢も増えるため、満足度は総じて高いのではないだろうか。大学によっては生協食堂が利用できるケースもあり、大学のキャンパスに潜り込んで、廉価に学生気分が味わえるなど、やや副産物的なメリットも存在する。当然、ガヤガヤ元気な大学生が、居酒屋の前の路地で騒ぐ、ということもあるので、一概にメリットばかりとも言い切れない部分もあるが、個人的には有名大学の近くは大変にお勧めである。

ちなみに、東京の有名大学のキャンパスと住宅地を並べると以下の通りとなるが、実は偏差値と地価はおおむね相関しているように見える。ゆえに、有名大学の近くが住み心地がよい、というのは、地価が高くて下手なサラリーマンは手が出ない、という側面もある。ここまで書いておいてなんだが、夢のない話であった。

  • 東京大学=文京区本郷・目黒区駒場

  • 東京医科歯科大学=文京区お茶の水

  • 一橋大学=国立市

  • 東京工業大学=目黒区大岡山

  • 慶応義塾大学=港区三田、横浜市港北区日吉

  • 早稲田大学=新宿区戸塚町
    (キャンパスは広大なため、代表的なアドレスを掲載)

話は変わるが、近年の関東の大学は東大を含めローカル化が進んでいる。かつてはおのぼり学生の巣窟であった大学城下町のアパートの稼働率や家賃は低下していると伝え聞く。ローカル化が進むということは自宅から通うということであり、活気が失われていくことは寂しい限りではある。都心は気にしなくてもよいが、郊外立地の場合は町に与える影響も無視できないであろう。この点、一橋大学の位置する国立市は地盤沈下が気がかりである。

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