「国債発行は将来世代のツケ回し」という大ウソ~国債発行の制約は発行残高ではなく発行速度である~

 年に4回、季節の変わり目の風物詩として、財務省からマスコミを通じて発表される「国の借金が千数百兆円で過去最大!」という報道がある。この報道がなされる度に、世間一般ではもちろん、ネット界隈ですらも「国はこんなに借金をしてけしからん。将来世代にツケを回すのか!」といった言説が未だに絶えない。
 しかし、こうしたリアクションは、実は大きな間違いなのである。

 まず、第一に「国の借金が過去最大!」と聞くと、多くの国民はマイナスのイメージとして捉えるであろう。しかし、何も日本に限らず、世界中の多くの国々で国の借金は過去最大になっているのである。

図1.21世紀におけるG7諸国の政府総負債の増加率推移

 図1は私がツイッター等でも、しょっちゅう用いるG7諸国の「国の借金」の増加率を示したグラフである。2001年時点でのG7諸国各国の政府負債額を100とし、それが20年後の2021年時点でどこまで増えたかを示している。
 このグラフを見ると、G7諸国はどの国も2001年よりも大幅に国の借金を増やしている。一番増やした国はイギリスで、20年間で実に約6.3倍にもなっている。世界一の経済大国であるアメリカは約5.2倍である。フランスとカナダが3倍強で、ドイツ・イタリアは2倍弱となっている。そして、「国の借金が過去最大!」が年4回報道され続けた我が国日本であるが、実はG7諸国の中では、最も国の借金の増加率が低かった国であったのだ。
 こうした報道はマスメディアでは全く見たことがない。この記事を見たマスメディア関係者がもし居たら、是非とも他国の国の借金に関しても報道して欲しい限りではある。この歴たる事実をより多くの国民に知らせるべきではないだろうか。
 にも関わらず、「国の借金が過去最大」の報道のせいで、何か我が国だけが異様に国の借金が膨れ上がっているような印象を、私たち日本国民は植え付けられているのである。そして、その報道に乗っかる与野党の国会議員も、まだまだ多く存在するのも事実である。この記事を見た読者の皆さんは、是非この事実を地元の国会議員にもお伝え頂けたならば幸いである。

 次に金額ベースで、日米の国の借金残高の推移を見ていこう。

図2.21世紀の日米の政府総負債額の推移(円換算)

 図2は2001年から2021年までの日米の国の借金額をその年の平均為替レートで円換算して、その金額の推移を示したグラフである。この円換算バージョンのグラフは、最近作成して使い始めているところである。
 このグラフを見ると、2001年時点の日本円に換算した国の借金はアメリカの683兆円に対して、日本は772兆円と日本の方が多く、文字通り日本は「世界最大の借金大国」であったわけである。しかし、2005年に日米が逆転し、2021年現在では日本の国の借金額は1403兆円なのに対して、アメリカは3235兆円と約2.3倍にも開いている。今や日本は、世界最大の借金大国の座から転落して久しい状況にある。
 このことからも、日本はアメリカよりも国の借金を増やし足りない国だったのだ。2001年時点の水準を考えれば、日本も今頃は国の借金が3000兆円ぐらいあってもおかしくはない、むしろ3000兆円ぐらいはあるべき国だったのである。それが半分にも満たない1400兆円程度の少ない金額に留まっているのが現状だ。
 このことを言うと「アメリカは経済成長しているから、国の借金が増えていても問題ない!」と反論して来る人もいるだろうが、それは因果関係が逆である。経済成長したから国の借金が問題ではないのではなく、国の借金を十分に増やし続けたからこそアメリカは経済成長を成し遂げられたのである。逆に日本は国の借金の増加量が不十分だったからこそ、経済停滞が今なお続いているのである。
 何故ならば、経済規模を示すGDPの計算式は、個人消費+民間投資+政府支出+純輸出であり、基本的に国の借金を増やすことで政府支出も増やせるから、その政府支出によってGDP規模も拡大していくことになる。

 以上のように、世界中の国々で「国の借金」は増え続けていることを簡潔に見て来た。となると、俗に言われている「国の借金は将来世代のツケ回し」という言説も大ウソなのである。過去から現在にかけて国の借金が増え続けて来たということは、今後も世界中の国々で国の借金が増え続けていくことに他ならないのである。
 先ほどのアメリカの実例で言えば、2001年に日本円にして683兆円だった国の借金は、10年後の2011年には1239兆円と約1.8倍に増えており、そこから更に10年後の2021年には3235兆円と約2.6倍にまで増えている。これぐらいのペースでアメリカの国の借金が今後も増え続けていけば、恐らく2040年までには1京円を超す金額になるであろう。
 こうして、国の借金は世界中の国々で未来永劫増え続けていくものであるから、現時点での国債発行残高の金額には何の意味も成さないのである。「国の借金が千数百兆円!」と聞くと、人間心理として条件反射的に「何て借金が多いんだ!」と思ってしまうかもしれないが、今後も未来永劫、国の借金は増え続けることを鑑みれば、千数百兆円なんて大した金額ではないのである。

 さらに、こうした増え続ける国の借金に対して、「将来世代にツケを回すな!」と何十年も言われ続けているが、これも大きな誤りなのである。ここまで説明して来たように、国の借金は未来永劫増え続けるものであるから、将来世代であってもツケを払う瞬間などは訪れないのである。良く「子や孫の世代にツケを回すな!」などとも表現されるが、私たちの子や孫がツケを払うことは有り得ない。もっと言うと、そのまた子や孫のひ孫や玄孫であっても国の借金のツケは払わないのである。
 もっと言えば、私たちの両親や祖父母から見れば、今のこの時代を生きる私たちだって将来世代、子や孫の代に当たるわけであるが、現実として両親や祖父母から受け継いだ国の借金のツケなど払っていないではないか。今なお、国の借金は日夜増え続けている。だから、今を生きる私たちと同様に、未来の子供たちも国の借金のツケなど一切払わないのである。よって、「将来世代にツケを回すな!」といった言説は全くのデタラメであり、財務省やマスメディアは大ウソを日本国民に流布していることになる。

 最後に、こうした言説をすると、「だったら、国債を1京円発行して全国民に1億円を配ったら良いではないか!」などと言う者が現れて、実際に私もテレビ番組に出演した時にそうした経済学者に絡まれたわけであるが、さすがに、一度に1京円も発行して配ったら、高インフレを招いてしまうであろう。日本のGDPは550兆円で生産能力もほぼ同等だと鑑みれば(実際にはギャップも存在するが)、一度に1京円という金額は現状の生産能力に対して、あまりにも過剰である。
 しかし、国債発行額を毎年GDPの10~20%ずつ、現在だと50~100兆円規模で発行していけば、そこまでの高インフレは招かずに、国債発行残高を増やし続けていくことは現実的に可能であろう。
 このように、国債発行の制約は「国の借金が千数百兆円!」といった国債発行残高の方にあるのではなく、その時のGDP規模、生産能力に見合った国債発行速度にあると言って良い。そして、その時の国債発行額が多いか少ないかは、インフレ率などの経済指標を見ながらの判断となるのである。その点で言えば、長年デフレで苦しんできた日本は、国債発行額が過少であったからデフレが長続きしていたとも言えるであろう。言うなれば、この25年間の日本は国債発行速度が遅過ぎたのである。
 10年間で約2倍、20年間で約5倍にまで国債発行残高を増やして、今や3000兆円以上の国債発行残高となっているアメリカぐらいの国債発行速度を日本も取っていれば、長期デフレや経済停滞も起こらず、GDPも1000兆円、1500兆円と経済規模も拡大し続けていたかもしれない。
 そう考えると、「将来世代にツケを回すな!」というウソの大号令の下で、国債発行残高という意味もない数字に振り回されて来たことが如何に愚かなことだったのか、多くの国民は悔い改めなければならない。そして、国債発行残高を気にして、国債発行速度を遅くしたことこそが、結果として将来世代に対するツケ回しだったのだ。もっとも、経済停滞による貧困化から非婚化も進んで、その将来世代ですら生まれなくなったのが今日の日本国である。

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