螺子巻きノーボディ

 空送管から出てきた申請書には十五歳くらいの少女のマグショットが添付されていた。宛先は処理課。システムは老朽化していて、誤配はしょっちゅうだ。送り返すには、そのまま「上り」の管に入れればいい。

 2メートル四方の息苦しい窓のない個室は「ダイス」と呼ばれている。天井は用途のわからないむき出しの管で内臓のように埋め尽くされている。黒電話で休憩に行くと報告し、申請書を無造作に懐に入れ、部屋を出た。

 ダイスの外側には何もない。四角い鉄の箱をつなぐ、無限の鉄の通路が蜂の巣のように接続される網の目がどこまでものさばっている。虚空に浮かぶ巨大なジャングルジムだ。カツン、カツンと革靴の足音を立てて、休憩用の別のブロックへ歩いていく。

 赤く塗られたそのダイスは、個室用のダイスより少し大きいが、それ以外は変わったところはない。暗証を入れてドアを開く。中には、身長よりやや大きい鏡と、その横に、古びた操作盤がある。懐から書類を取り出し、記載された次元指定番号を、操作盤のダイヤルを丁寧に回していき、最後に、錆びたレバーを下ろす。ダイスが振動し、鏡が虹色に発光した。鏡を通る。触れた際に、少し違和感があるが、いつものことだ。

 背後にはもう次元通路の痕跡は拭い去ったように消えている。肌寒い。丘の上だ。空は青い。地面は秋の枯葉で埋め尽くされている。コートの襟を引き寄せた。なだらかな起伏の野原のつづく眼下には、寂しげな町があった。

 懐中時計が振動した。懐から取り出し蓋を開ける。聞き慣れた声だ。

 「同僚NB397653、規則違反です」
 「同僚GH278953、その通りだ」
 「報告しますよ」
 「勿論。そうしてくれ」
 「抹消もあるんですよ」
 「だろうね」

 間違いは、たださなければならない。
 それだけだ。 

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