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3通目 心動かしありのままに

章子さんへ

海の見えるカフェ、すてきな会場ですね。波の音と街の音が重なり合うの、とても心地良さそうだなぁ。
章子さんの作品は、水のかたまりの変化の途中のように感じるので、海辺での展示はきっとぴったりだったのだろうなと思います。

海や神社仏閣など、長い長い歴史を経てきたもののそばに身を置くと、落ち着くような、それでいて心許ないような、不思議な感覚に私もなります。

先日、息子が怪我をしました。

普段は転んでもぶつかっても何ごともなかったように走り出す彼が、青ざめ、私の顔を見た途端ぐしゃぐしゃの泣き顔に。その顔のまま、とぼとぼ歩み寄りしがみつく。痛い痛いと顔を私のおなかにうずめ泣きじゃくる。
映像のようにはっきり思い出せるそんな姿は、彼が感じた痛みや驚きを丸ごと全部からだで表していました。

思えば、楽しいも嬉しいも悲しいも、五感で感じ、それをからだで表現することがほとんどない日々を送ってしまってきたようです。

画面の中で繰り広げられるエンターテインメントに心が動くけれど、指先ひとつで止めたり戻ったり進めたりできる。
何か嬉しいことがあっても、からだ全部でありのままに表現することは、なんとなくはばかれる。
ありがとう!と伝えるのも、時間も場所も関係なく、入力するだけ。
そもそも、そこまで心動く日々を送ってきてはいないのかもしれません。

感受性が鈍らないように、自然やうつくしいものにふれる機会をもっともちたいな。
そして、それをからだで表現することを、もっと恥ずかしがらずにしたいな。
そんなふうに感じました。

とりとめもなく、今回のお手紙はこのあたりで。
難しく考えるよりも、自然に身をおく方がよいのかもしれませんね。


典子

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