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衣替え

#わたしのかばん

こちらの素敵な企画に参加してみようと思います…!

ある日、彼に命じられた。
かばんを片づけなさい、と。
彼と同棲して1年が経つ。彼と出会って、親しくなって、吸い寄せられるように彼のマンションへ初めて行ったのが去年の1月。実家から、荷物を持って出たのが3月。
最初は、キャスター付きのスーツケースに、衣服だの、好きな本だの、お菓子作りの道具だの、身の回りのものをまとめて、電車に乗って、彼の家まで持って行った。でも、最寄駅の近くで、タイル状の道に引っかかり続けたキャスターが1つ、壊れてしまった。仕方がないので、彼のマンションから、粗大ゴミの予約をして捨てた。
夏を迎える頃、衣替えをしなければならなかった。近所のショッピングセンターで、大きめのボストンバッグを5000円くらいで買った。そこに、冬から春にかけて着ていた分厚い洋服を詰めて、実家に持って帰った。ボストンバックに、帰りに夏服を詰めて帰る予定だった。
彼が車で送ってくれて、実家に着くと、1人で暮らしている母が、夏服をもうまとめてくれていた。実家にある大きめのバッグを引っ張り出し、必要なものを完璧に用意してくれていたのだ。私は、用無しになったボストンバッグに少しだけ好きな本を加えて、母の作った夏服バッグを沢山抱え、車に乗せた。それは、次の冬の衣替えでも同じことだった。いくら、自分でまとめると言っても、母は先に用意してくれていた。
こんなわけで、彼のマンションに、実家のバッグが溜まってしまったのだ。
ずっと、ホームセンターで買った竹籠に、私のバッグを入れて、リビングに置きっぱなしにしていた。だから見かねた彼が、私へ命じたのだ。かばんを片づけなさい、と。
彼との愛の暮らしに必要なものを運んだ、愛の道具を、私は今日、仕事を休んで片づけた。ああ、これには下着が入っていたんだっけ。ああ、そういえばあのワンピースも入れてくれていたな。そんなことを想いながら。
バッグには、これから、彼とうまくやっていけるか、そんな不安も少し、しかし、実家を出て彼と暮らすという、初めての私の意志が、詰まっていた。

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