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ウチとソト

外で人と缶ビールを飲んでいたら、足元を高速で動くモノがいた。ごきぶりだった。これを「ゴキブリ」と書くか「ごきぶり」と書くかで印象がちがうように見えるのは気のせいだろうか。ごきぶり、のほうがひさしぶり、のようなニュアンスと近いような気がして、嫌悪感がずいぶん和らぐような感覚がある。

そんなことはさておき。

うごめくものを一緒に目撃した人に、「外で見るごきぶりは全然いやじゃないんだよな〜」と言った。するとその人も、「そうだよな〜」と言った。

足元を這うそいつは親指の第一関節くらいの大きさで、背中が赤茶色っぽかった。黒くて細長い奴ではなかった。ごきぶりにも多様性があることを知って、なんだか人間界のいろんなことがバカバカしく感じられた。
ような気がした。

それで電車に乗って最寄駅から家まで歩いていたら、今度はクリーニング屋の前を歩くねずみと遭遇した。余談だがこのクリーニング屋はレインボーの看板を引っ提げており、そのボロボロな具合から相当長い間ここに店を構えていることが伺える。秋が深まる前にコートを出しに行ければ、と思っていたけれど、最近店の前を歩いていたら「〇〇党がいちばん!」(宗教系)「〇〇美術館の最新企画展!」(その宗教の傘下)みたいな「けたたましい」ポスターが店の外観を覆い尽くしているのに気づいてしまい、なんとなく気が引いてしまった。政治思想の違いで店を選ぶという点で「ああ、私も『市民』だなあ」と思った。

そんな人間の思想云々など見向きもしないねずみはこれまた呑気なやつで、親切丁寧にこちらが大きな足音で近づいても全然逃げようとしない。尻尾の長さはちょうど、「アロハ〜」と言う時の手の広げ方とおなじ、つまり小指と親指をぐいっと伸ばしたくらいで、からだは深い灰色の毛で覆われていた。ねずみと言えば世界で最もねずみのブランディングが上手いかのディズニーランドが有名だが、ウォルト・ディズニーはなぜこんな世間知らずな生物を夢の国の長として掲げてしまったのだろう。せめて実在しないユニコーンとか麒麟とかにすればよかったのに。

中学か高校かの国語の時間。ウォルト・ディズニーの生い立ちに関するあまりにも生々しい、夢もクソもないような文章を読んだ覚えがあるので、きっとねずみを採用したのも深い理由があるんだと思う。そう思いたい。
少なくとも国語の教科書で読んだ説明文には書かれていなかったと思う。

そんなことはさておき、家の外で見る赤いごきぶりは快活なメスのカブトムシにしか見えなかったし、政治思想の強めな「レインボー」クリーニング店の前をうろつくネズミは「毛の黒いハムスター」にしか見えなかったのが不思議だった。家の中、つまりウチという人間の居住空間、テリトリーの中に入ってきた瞬間になにかがダメになるらしい。

外で悠々自適に過ごしてもらうには構わないけれど、こちとら家を構えているのだから、勝手に侵入して来るのは困る。不衛生。立ち入り禁止。
そういうことなんだろう。

日本人はウチとソトに敏感とよく言うけれど、いわゆる害虫に対しても同じことを思うんだなと思った。

これまた余談だが、この秋はカマキリとの遭遇率も高い。
道端でふと足元に目線を落としていたらそこにはカマキリが、というシチュエーションがここ1,2ヶ月で2,3回はあり、そのほかは壁に捕まっていたり、今日は家の軒先にいるのを見かけたりした。こういう象徴的なことがあるとすぐにスピリチュアル的発想をしてしまう。なんせ(?)吉本ばなな氏のファンなので。

調べてみるとカマキリはギリシャ語で「預言者」という意味らしい。「神さまのお使い」なんだそうだ。これ以上書くと、あの「レインボー」クリーニング店を悪く言えない(どっちもどっち)感じがしてくるので控えておく。あとでこっそり調べて、また都合の良いように解釈していようと思う。そんなもんだ、世界なんて……。

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