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精神科医療の問題点

この記事には、精神科や心療内科であたりまえのように行われている薬物療法の「長期投与」「多剤併用」「薬の効果」について問題提起し、メンタルヘルス関連の悩みや困りごとを抱えている方に、薬物治療以外の選択肢を検討するきっかけにしていただきたいという願いが込められています。

投与しても効果のない薬を飲み続けることに警鐘を鳴らしていますが、薬そのものを否定するものではありません。私もこれまでの人生で何度も薬の恩恵に預かってきた一人です。つまり、薬を極端に否定するわけでもなく、盲目的に信頼しているわけでもありません。それを念頭にお読みください。

架空事例

突然ですが、あなたは診療所の待合にいます。

「5番の番号札でお待ちの方、診察室へどうぞー」

女性看護師が診察室から出てきてあなたの番号を呼びます。中に入ると、白衣を着た医師が、電子カルテのモニターを横目にあなたに挨拶をした後、質問を始めます。

「体調はいかがでしょう?頭痛と咳はどうなりましたか?」

あなたは、3日前に、頭痛や咳の症状が出たためこの内科を受診し、風邪と言われて去痰薬と頭痛薬が処方されました。「3日分、飲んでみてください」と言われ、飲み続けましたが咳や頭痛は大きくは改善していません。

「はい。どちらも飲んでいますがまだ症状が残っています。咳が出ます」

「頭の痛みも続いているんですね?」

「はい」

「お薬の副作用はありませんか?」

「倦怠感がありますが、これは風邪の症状かもしれません」

「そうですね。熱はないようですし、おそらく風邪の症状でしょうね。では、また同じ薬を7日分出しておきますね。それから整腸剤と感冒薬も出しておきます。それで様子を見てください。お大事に」

「はい。ありがとうございました」

あなたは、診察室から出て待合の椅子に腰を下ろしました。

---事例ここまで

さて、実際に医師からこのように対応されたら、あなたはそのまま素直に処方箋を受け取るでしょうか?

ここまでであれば、まだ「受け取る」という人もいるかもしれません。
では、もし受け取るとしても、その7日後にもやはり大きな改善なく受診した際、「症状お変わりありませんか? それでは次は14日分出しておきます。それで様子を見てください」と対応されたらどうでしょうか?

おそらく「本当にただの風邪なのでしょうか?」と医師に確認をしたり、この医師は避けて他の病院に行くなどするのではないでしょうか?症状に対して処方をしたのに、その症状が改善していなければ、診断を疑ったり内科的検査を追加したり、他科への受診を促したりするはずです。
もちろん、これは架空のストーリーです。こんな診療行為をする内科はないでしょう。

でも、実際に精神科医療の世界では、同じようなことが日常的に繰り返されているのです。

精神科を受診したことがない人にはピンとこないかもしれません。
それでも決して大袈裟な話ではありません。
実際の精神科では、「14日分」とか「1か月分」の処方が繰り返されています。

効果が感じられないことを伝えれば、「では増量してみましょう」とか「このお薬を追加してみましょう」などと、薬の量や種類が増やされることも日常茶飯事です。中には、薬の副作用を新たな薬で押さえるという発想で、さらに種類が増えることだってあります。

これらの事実は、精神科における薬の長期投与とか多剤併用という問題としてこれまでにも指摘されていることです。場合によって数十秒とか、ほんの数回の会話のやりとりで薬が処方され「また次回」となるのです。精神科を受診する方の多くが、日常生活に悩みを抱えているはずですが、診察場面で質問の多くは体調や不安感のことばかりで、患者さんの生活や仕事のことに時間を割く医師はほとんどいないでしょう。

さらに一部の診療所では、患者さんと対面することなく「いつもの薬をください」と受付で言えば、処方箋が発行されてしまいます。もちろん、診察をせずに処方箋を発行する行為は法律違反です。そんなことが許されるなら、医療機関ではなくても本人確認ができる自動販売機さえあれば十分です。

話が逸れましたが、何が言いたいかをあらためて説明します。

もし、この記事を読んでいる方が、今精神科で薬を処方されていて服薬もしているけれど、でも改善が見られないのであれば、「今の治療は本当に必要なのか?」「これを続けていて改善するのか?」と疑ってほしいのです。

これから受診をしようとしている方、受診すること自体を止めるつもりはありません。一時的な服薬を否定するつもりもありません。ただ、精神科では、多剤併用や長期投与が当たり前のように行われているのです。ぜひ、服薬以外の選択肢も頭の片隅に入れておいてください。

薬の有効性

もう少し、薬の話をしましょう。

精神科の薬がどのような方法で「効果がある」と判定され、販売されているか、そして患者さんに処方されているかご存知でしょうか? 通常、新しい薬は、厚生労働省の認可がおりた後でも、有害事象が想定より多く発生していないか、効果が期待したように出ているのかなどを調べるために一般診療において各患者さんに個別に許可を得て調査を行います。それを第Ⅱ相試験とか、第Ⅲ相試験などと呼びます。
そして、それらの調査は、薬を投与するグループと、偽薬(プラセボ)を投与するグループに分け、それぞれのグループの患者さんに、質問紙調査を行います。その得点が投与前と、投与後(例えば、2週間とか6週間)でどの程度変化するのか、その変化は両グループに差があるのかを検討します。

プラセボは、投与する薬と同じ形状をしたでんぷんなどの成分で作られています。なので、薬剤投与群には出て、プラセボ群には出ない効果があれば、それが調査対象となっている薬の薬効ということになるわけです。

そして、処方される患者さんも、処方する医師も、目の前の薬が「ホンモノなのかプラセボなのかわからない」状態で調査を行う方法を二重盲検法(ダブルブラインドテスト)といいます。この方法であれば、「薬を飲めば何かが変わる」「薬には効果がある」という患者さんの期待による心身への影響や、そもそも何か薬のようなものを体内に取り入れる時に生じる身体の反応による影響を、本来の薬の効果と分けて考えることができます。プラセボ群にも起きる変化を差し引いた変化が、本来の薬の効果というわけです。
このダブルブラインドという調査方法自体は、精神科に限った話ではありません。ただ、精神科が他の科と異なるのは、評価のための指標が、ほぼ患者さんの自己報告という点でしょう。医師や調査スタッフがチェックする方法もありますが、それでも参考にするのは患者さんの報告なわけです。この問題については、本筋を外れますので別の記事で触れることにします。

下の図は、レクサプロ(エスシタロプラム)という比較的新しいSSRIという種類の薬の「臨床的効果」を調べるために追加で実施されが試験結果です。図1は、社交不安症の患者さんを対象にした調査結果、図2はうつ病の患者さんを対象とした調査結果です。図を見ると、薬を投与されたグループ(赤線)の質問紙の得点が、投与後数週間で減少していることが確認できます。
※実際には他のグループも設定されていますが、説明の都合上省略しています。

https://medical.mt-pharma.co.jp/di/file/dc/lex.pdf (田辺製薬のサイトで公表している資料)

ただ、これを持って「効果があった」とすることはできません。問題はプラセボ群と比較して効果があるかどうかです。そこで、プラセボ群(青線)を見てみると、、、なんと、同じように投与後に減少しているのです。

図1でも、図2でも同じような結果になっていますね。

ところで、報告では図1については「効果なし」あるいは「有効とは言えない」という結論となり、図2では「5%水準で有効と言える」という結論です。見た目にはほとんど差がありませんが、統計的には有効と判定されているわけです。

また、たとえ統計的に有意差が検出されたとしても、それが必ずしも臨床的な効果とは言えないのです。
これは統計的有意差と臨床的有意差の問題として議論されています。話が逸れるので、この問題については別の記事で解説する予定です。

さて、ここまで読まれた方、どんな感想をお持ちでしょうか?
「プラセボの効果ってこんなにあるのか」
「それでもプラセボよりも改善しているじゃん」
「こんなわずかな差なら、プラセボでいいじゃん!」

いろいろな感想があると思います。もちろんいろいろな見方があって当然です。
ただ、この記事を読んで、改めて目の前の薬を服用することの意味について問い直すきっかけにしていただきたいのです。その結果、服用することのメリットが大きい方もいるはずです。繰り返しますが、極端に薬物治療を否定しているわけではありません。

そして、薬に頼る以外の選択肢を知りたい。服薬以外の解決方法を検討したい。服薬は最小限継続しながら、でも他の方法についても考えたいなどと希望される場合には一度ご連絡ください。精神科医療領域におけるREONカウンセリングの役割がそこにあります。

参考文献
仁藤二郎・奥田健次・川上英輔・岡本直人・山本淳一 (2021). 精神科臨床における応用行動分析学の実践と研究 行動分析学研究, 35, 187–205.

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