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小説|ハロゲンワークス(11)

「……あぁ、純血種の子も一緒でしたか」

純血種……初めて聞く単語に戸惑いながら、紫苑は後ろを振り返った。

「フレアさん……?」

するとそこに、空中からフリージアがふわりと紫苑の隣に着地する。羽衣を纏って宙を舞うその姿は、天女という表現がよく似合っていた。
『自ら創造したモノに力を宿す』。フリージアの能力だ。
飛燕を待っている時に本人から聞いた。
自分で一から作り上げたものでなければダメらしいが、唯一得意だという裁縫以外ではこの能力は発揮出来ないのが難点らしい。まぁ、羽衣を編めるだけで十分凄いと思うけれど。

少しだけ驚いたようにこちらを見る紫苑に、にこり、とフリージアは微笑んだ。

「飛燕なら、紫苑さんと一緒にいた龍の子に預けてきたから安心してね。それに、あれは飛燕にとって仮初めの体だから、この樹さえ無事なら、彼は大丈夫」

そう言ってフリージアは金髪の青年に視線を向ける。口元は微笑んだままだが、普段の彼女にはない緊張感が走る。

「……その樹から離れて頂けませんか?」
「ーー申し訳ありませんが、それは出来ません」
「"それ"は私達にとって大切な樹です。貴方に傷付けられる為に存在してるのではありません」
「……おかしな事を。先に我々を傷付けたのは彼ではないですか」
「………………」
「飛燕によって望んでもいない力を与えられ、永遠に近い時を生き続けなければならない。……同じ純血種の貴女にならば、この苦しみが理解出来ると思うのですが」
「お言葉を返すようですが、飛燕から力を奪っていったのは貴方達のほうでは?これでは逆恨みです」
「逆恨みではない。これは、望まぬ力を与えられた、我々の最後の抵抗なのです。……ーーーー全ての能力者に"死"を」

ぴくり、とフリージアが反応する。普段の彼女とは違い、険しい表情を浮かべて彼に問う。

「……その"全て"の中には貴方達も含まれているの?」
「えぇ、もちろん。我らは世界の破壊を求めています。だからこうして、何十年とかけてハロゲンの森に能力者を集めたのですから」

能力者だけの森がある、と。差別を受けた能力者達にとって救いの言葉となったこの噂は、能力者をハロゲンの森に閉じ込めて、この森ごと破壊する為だった、なんて。
ーーーーそれは、なんと残酷な事なのだろう。

「どうして、そんな事を……」

紫苑の言葉に彼は瞳から光を消した。

「ーーーー恨んでいるからです」

彼の憎しみの籠った眼差しが、紫苑を射抜く。

「人と違うからという理由だけで、能力者を差別する人間達も、そんな彼らに立ち向かいもせず、されるがままの能力者達も。そして、この世界を産み出した、飛燕も。何もかも全て、憎くて仕方ないのです」

だから、壊すのだと、彼は言った。
ハロゲンの森に住む能力者達を壊し、無能力者の住む世界も破壊する。そして、また最初からやり直すのだ、と。
青年は紫苑に目を向ける。じっと彼女を見てから、視線をフリージアへと戻した。

「我々は明日、この森もろとも能力者達を破壊しに来ます。飛燕に止められては、私では敵いませんので、こうして、彼の動きを封じさせて頂きました」

樹に設置されてる装置。これは強い電磁波を放ち、飛燕の力を封じるものだという。力を使おうとすると、脳に直接高電圧がかかり、彼を苦しめる。

「ーーーーどうか、邪魔をなさらないように。これは、全てを正常な世界に戻すために、必要な事なのです」

レイドは感情のない瞳で紫苑を睨む。ビクリ、と紫苑の肩が揺れた。

「ーーーー本当は、飛燕の巫女である貴女を倒すのが一番なのですが……」

青年は紫苑に手を伸ばす。紫苑が動けずにいると、フリージアが彼女の前に出て視線を遮った。
フッと彼は笑って、手を降ろした。

「それだと神の逆鱗に触れてしまいそうですので、今はやめておきます」
「………………」

青年からは紫苑の姿は見えないが、彼は紫苑に向かって微笑む。

「ーーーー私の名はレイドと言います。また明日お会いしましょう。紫苑さん」

その言葉を残し、彼は音もなくその場から姿を消したーーーー。

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