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小説|ハロゲンワークス(13)

その夜。フリージアは菖蒲と橘に事情を説明し、明日についての行動を委ねた。
ハロゲンの森に集められたのは能力者を全て根絶やしにするためで、明日ここにいれば皆に危険が及ぶ。街の人々にも、菖蒲達にも、出来れば今日中にこの森から離れてもらうのが一番良いと思った。

だが。菖蒲はキッパリと言い切った。

「私はここに残るわよ」
「でも……」
「だって、そのレイドとかいう奴の話からすれば、いずれ外の世界の無能力者をも殺すつもりなんでしょう?なら、ここを離れた所で何も変わらないわ。だったら私は、ハロゲンワークスとして、この森を守る」
「僕も同じ。……それに、飛燕はこの森から離れられないんだから。僕らが飛燕を置いていくなんて出来ないよ。……誰が何と言おうと、飛燕は僕らの恩人だから」
「ーーーー……」

2人の意志を聞いて、フリージアは微笑んだ。

「……うん」
「でも、ともかく、住民は安全な所に避難させとかないと」
「でも、この森で安全な所なんてある?」
「………………」

3人は沈黙する。レイドは森全体に仕掛けを施しているはず。街中の人々が安全に避難出来る場所なんてどこにも……。

「………………図書館」

静かに、フリージアが言った。

「図書館の屋上。そこに防護の布を貼るよ」
「屋上って……。そんな広い場所全体を覆う布を今から縫うわけ?!間に合わないわよ!!」

フリージアの能力は、一から自分で作り上げたものでないと発動しない。期限は明日。時間が足りなすぎる。

「ーーーー大丈夫」

だが、フリージアは微笑んだ。両の手を胸の前で結んで、瞳を閉じる。

「……私の能力は、『願い』でもあるから。こうなって欲しい、って願いを込めて創るものに、力が宿るの」

ーーーーすると。

ぽわ、ぽわ、と、フリージアの周りに光が集まってくる。その光はフリージアに触れると、羽の生えた小さな妖精の姿へと変わった。光の来た先を見ると、この家の庭。それは、フリージアが植えた種が芽吹き、花を咲かせ、綿毛となったもの達だった。
フリージアは瞼を開く。

「ーー……布を繋ぎ合わせるのは、彼らが手伝ってくれる。だから、心配しなくて大丈夫」

真っ直ぐにこちらを見つめる彼女に、菖蒲と橘も、頷いた。

「…………分かった。住民の避難はフレアに任せるわ」
「僕らは、装置を破壊しに行く。飛燕は止めても戦いに行くだろうから、……せめて、あの苦しみだけでも取り除かないと」

龍が連れ帰ってきた飛燕の手首には、鎖が繋がれていた。斧で斬ろうとしても全く壊れず、能力でもびくともしなかった。あれがどういう仕組みのものなのかは分からないが、鎖で手首を繋がれたままではろくに動く事も出来ないだろう。

「……レイドは自分の能力で街を破壊するつもりだろうから、奴も何らかの準備が必要なのかも。少なくとも、奴が言った明日までは、何もして来ないはず。それまでにこっちも備えよう」
「ーーーー橘。……あんま無理は……」
「今無理しないでどうするの?……死んでから後悔なんて、俺はしたくないから。ーー菖蒲には、分かって欲しい」
「………………」

菖蒲は一瞬傷付いたような顔をして……でも、真っ直ぐこちらを見る橘に、折れたみたいだった。

「ーーーー分かった。でも、……死んだら許さないから」

すでに怒ってるだろ、と思いながら、橘は頷いた。

「じゃあ、解散ね。また、明日」

明日、という言葉が今はとても重い。だが、3人はそれぞれに頷いて、別々の場所へと別れた。
明日、また。何でもない日常を取り戻せるようにーーーー。


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