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小説|ハロゲンワークス(1)

ーーーー……け、て。


「ーーーー……」

すぅ、と少女は瞳を開ける。
もう、何も聞きたくないと、思っていたのに……ーー。


深く暗い闇の中、少女は人の気配を感じて洞窟の入り口に顔を向けた。
入り口には頑丈な檻が施されており、何人も逃げられないような強力な封印術がかけられている。
産まれてすぐに閉じ込められてから、何百年もの時が過ぎた。
人々は自分を恐れ、拒み、近付こうとする者などほとんどいない。
それなのに……。

「…………だ、れ……?」

少女のか細い声が疑問を投げ掛ける。
暫く間があってから、その人物の声が聞こえてきた。

「……あぁ。まだ、こんなところに居たんだ」

声の主の顔は、逆光でよく見えない。声から察するに、若い男の人のようだ。フードを被ったその中から、金色の髪が覗く。

「さあ……おいで。僕が外に出してあげる」

少女がゆっくりと顔を上げた。肩にかかっていた薄紫色の長い髪が反動で地面に落ちる。生気を失ったような瞳に光が宿った。

「……ーーーー」

少年が再び口を開く。だが、それと同時に眩しい光が少女を包み込み、少年の言葉を遮断する。
最後に見えた少年の口元は、三ヶ月形に奇妙に歪んで見えた。


◇ ◇ ◇


ーーーー大丈夫だよ。


ひっく、ひっくと泣き声を溢していた少女の耳に、誰かの声が響いた。

『……だ、れ…………?』

ーーーー泣かなくていい。

声の主は、少女の頭をふわりと撫でた。だが、少女にはその者の姿を捉える事は出来ない。
少女が盲目なのではない。本当に、姿が見えないのである。

『……誰も、いなくなっちゃった……のっ。みんな、私をばけものだって言って、とても冷たい目で見て……きて……っ。こわい、こわいよ…………っ』

ーーーーうん。怖くて、寂しかったんだよな。

声の主は、安心させるように声の調子を更に和らげた。

ーーーーでも、もう大丈夫。俺がいる。これからは、寂しくないように、俺がお前の傍にいるから。だから……ーー。

少女は、目を見開く。
……本当に一瞬だけ、語りかけてくるヒトの姿が見えた気がした。
エメラルドグリーンの瞳をした青年が少女に向かって柔らかい笑みを浮かべる。


ーーーー……もう、泣かなくて大丈夫だよ。


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