文春の閉会式スクープについて思うこと

先日、週刊文春のスクープとして、宝塚歌劇団から20人が、閉会式に出演する、という記事が出ていました。

まあ、週刊誌のスクープで、歌劇団公式もまだ何も発表していないので、正直、この話題に触れて良いのか、とても悩みました。

ですが、真偽のほどは、現段階で定かではないにしろ、

私は、閉会式に宝塚歌劇団として出演させる、このことに、非常に反対です。

今回、少し長くなりますが、私自身の備忘録も兼ねて、反対の理由を書いていきたいと思います。

もちろん、あくまで一個人の意見ですので、生暖かい目で見守ってくだされば、と思います。

とても長い文章なので、結論をお読みになりたい方は、3章までスキップをお勧めします。


1. オリンピック憲章

オリンピック憲章は、毎年のようにバージョンアップされています。

そのうち、ここでは、最新の、昨年7月から有効の憲章を参照しながら、論を進めたいと思います。(上記リンクよりPDFでご覧になれます。)

オリンピック憲章が定める項目で、今回特に取り上げたい問題は以下の通り。

オリンピックの根本原則より

6. The enjoyment of the rights and freedoms set forth in this Olympic Charter shall be secured without discrimination of any kind, such as race, colour, sex, sexual orientation, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth or other status
このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やその他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確実に享受されなければならない。

第4章より

27 NOC(各国の大会組織委員会)の使命と役割 より

5. In order to fulfil their mission, the NOCs may cooperate with governmental bodies, with which they shall achieve harmonious relations. However, they shall not associate themselves with any activity which would be in contradiction with the Olympic Charter. The NOCs may also cooperate with non-governmental bodies.
NOC は自身の使命を遂行するため、 政府機関と協力することができる。 その場合、 調和のとれた関係を構築しなければならない。 NOC はオリンピック憲章と相容れない活動には一切関わってはならない。 NOC は非政府団体とも協力することができる。
6. The NOCs must preserve their autonomy and resist all pressures of any kind, including but not limited to political, legal, religious or economic pressures which may prevent them from complying with the Olympic Charter
NOC は自律性を確保しなければならない。 また、 オリンピック憲章の遵守を妨げる恐れのある政治的、 法的、 宗教的、 経済的な圧力、 その他のいかなる種類の圧力にも対抗しなければならない

28 NOCの構成 より

4. Governments or other public authorities shall not designate any members of an NOC. However, an NOC may decide, at its discretion, to elect as members representatives of such authorities
政府またはその他の公的機関は、 いかなる NOC の委員も指名することはできない。 しかし、NOC は自らの裁量でそのような機関の代表を NOC の委員に選出すると決めてもかまわない

では、以上の項目とJOCあるいは日本政府の動きについて、見てみたいと思います。

2. JOCと日本政府

上から順に、1つずつ確認していきましょう。

2-1. オリンピックの根本原則 第6項

この項目では、人種、肌の色、性別などなどに拠らず、いかなる差別も受けない、ということが定められています。

では、開催国の日本ではどうでしょうか。

例えば開会式。華々しい演出の裏で、セネガル出身の黒人演奏者が、急遽開会式の出演を、一方的にキャンセルされた、ということは、皆さんの記憶に新しいと思います。

So ashamed. I feel good that I’m no longer performing at the Tokyo Olympic Opening Ceremony👍🏽 Proud to be black 🙌🏾✌🏽✌🏽🇸🇳...

Posted by Latyr Sy on Thursday, July 22, 2021

拒否の理由は、彼がアフリカ人であること。

他にも、例えば今年5月に盛んになった、LGBT理解増進法についての運動。

国会でLGBT新法が提出されなかったことに対する、大規模な抗議運動でした。

LGBTをはじめとする性的マイノリティは、例えばアウティング(自分のセクシュアリティが、本人の了解なく他人によって暴露されること)により、就活で採用を断られたり、いじめを受けたり、過去には自殺事例も発生しています。

このようなことを防ぐためにも、差別禁止法、最低でも理解のための法律の制定が急がれます。

が、自民党内では、以前から性的マイノリティ蔑視の声が

また、組織委員会前会長の森喜朗氏が、度重なる女性蔑視発言を行ったことも皆さんご存じの通りです。

このことが、宝塚歌劇団の出演とどうつながるか、疑問に思われるかと思いますが、もう少しお付き合いくださいませ💦

2-2. NOCの使命と役割

NOC(ここではJOC)は、政治とは一定の距離を取ることを、先の引用のように、求められています。

ですがどうでしょうか。

先ほど申し上げた開会式。

黒人差別だけでなく、その演出に、実施こそされませんでしたが、ホロコーストを扱った内容も盛り込まれていた、ということでした。(今回は、その演出家の批判をするつもりはありません。)

差別的、問題がある、となってその演出も取りやめたのでしょうが、

では何故直前になるまでに、オリンピック憲章とはかけ離れた演出が認められていたのでしょうか。

また、前会長の森喜朗氏は、政界から引退したとはいえ、かつての権力者に政治権力はいつまでも残るものです。安倍晋三氏等自民党の重役に近い、そのような人を、組織委員会の重役に置くことには、オリンピックの政治利用の側面が色濃くなるという意味があります。

2-3. NOCの構成

憲章に記載の通り、政府や公的機関には、NOCの委員を指名することは出来ません。

一方で、内閣には、オリンピック担当大臣なるものが任命されています。

内閣の大臣の任命は全て内閣総理大臣が決定します。

もうお分かりだと思いますが、

内閣総理大臣がオリンピック担当大臣を任命している時点で、例え五輪担当大臣が、組織委員会を支援する立場であるとはいえ、

政治権力が働いてしまう構造になっている。

確かに憲章自体には違反していませんが、政治権力との一定の距離を取ることを求められていることについて、グレーゾーンといえるのではないでしょうか。

3. 結局何が言いたいか

結論を申し上げますと、

オリンピックに日本政府の多大なる影響が及んでいる中で、宝塚歌劇団が閉会式に出場することは、

今後の政治活動に於いて、宝塚歌劇団が政治利用されることを認めるとすることであり、

一人のファンとして、そして芸術に少し携わる者として(芸術など文化の発展を政治利用から守るという観点で)、反対です。

差別等は、政府のプロパガンダとしてはとても有用であり、その手段として、芸術が利用されたことは、第2次世界大戦等からよくわかることです。

戦時下の宝塚歌劇団の、政府の方針を支持する演目

宝塚の歴史を語る上で、戦時下の政治利用された演目の数々は、アンタッチャブルなことかもしれません。

ですが、閉会式の出場を認めた場合、いずれ宝塚が再び、戦時下のように、暴走する政治権力に利用される時は来ます。オリンピック運営に、これほど政府の影響力が無視できない現状があるからです。

出場を認めなくとも、政治利用の時は来るかもしれません。

しかし、宝塚を政治権力から守る、ということは、

文化の自由な発展に繋がり、

絵空事じゃない、中身のある「夢」や「希望」を守ることが出来る。

そのように感じます。

長くなりましたが、文春のスクープが真実なら、以上の理由から、宝塚歌劇団の、オリンピック閉会式への出場を、反対します。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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