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2023年六月大歌舞伎夜の部遠征

関西と違って、東京は常に何かしら歌舞伎がある。歌舞伎座なんか、ほぼ年中歌舞伎公演があり、関西在住の私からしたら非常に羨ましい劇場である。
今回は、私の好きな役者さんお二人が兄妹役というのもあって、是非とも観に行きたい作品だったため、宙組東京宝塚劇場公演の遠征と併せて観に行った。ちなみに、宙組公演は前楽のマチネということもあって、退団者の皆様を観て大号泣しながら見終わった。

『義経千本桜』より『木の実』『小金吾討死』『すし屋』『川連法眼館』

『すし屋』は昨年の京都南座における顔見世興行で、四の切と呼ばれることの多い『川連法眼館』は2021年の南座での三月花形歌舞伎で観た作品。まだ歌舞伎初心者で当時はあんまり話のわかっていなかった作品だったため、今回の観劇はとても楽しみだった。

『木の実』『小金吾討死』

『すし屋』の話に繋がる大切な場面。この場面を見ずに『すし屋』を去年観た私は、
何故こういう展開に?
と観ながら「???」状態だったので、今回この場面が見られて良かった。(尚、その時は歌舞伎に少し慣れてきた頃だったので、イヤフォンガイドは使っていなかった。)
なんと言っても今回、片岡三代が勢揃いしているこの場面。目が足りない。

配役発表された際、「いがみの権太」を仁左衛門様が演じられることにたいへん驚いた。
にざ様といえば、私の中では松浦の太鼓の松浦さんだし、保名だし、とにかく美丈夫で高貴で懐の深く武士道に厚い人のイメージだったため、

権太…だと…?

状態。しかし特別ポスターが出た途端、あまりのカッコ良さに納得してしまった。

舞台上に出てきたにざ様は、権太そのものだった。
しかも、権太なのに好きにならずにいられない。
愛嬌たっぷりで、乱暴ながらも茶めっけたっぷりで、情に厚く、家族愛に溢れていて…
息子をおぶって親子3人でわちゃわちゃしながら帰っていく様子は、
にざ様もこんなあたたかいお父さんだったんだろうなぁ…
なんて思わせてくれる温かい家族像だった。

今年の三月花形歌舞伎で可愛い姿を沢山見せてくださった千之助さんは、若葉の内侍と六代君に仕える小金吾。
花形歌舞伎の写真売場で、外国人のお客さんに、
He is so feminine!!
と言わしめた千之助さんの、華奢ながら凛々しい武士の姿があまりに美しく、にざ様譲りの目元の涼しさに心ときめかずにいられなかった。
権太に煽られ、怒りのあまり肩で息をしながら刀に手を掛ける小金吾と、面白おかしく小金吾を煽って足で小金吾を制する権太の図に、謎のときめきが生まれてしまい、平常心では観られなかった。しかも、怒りに震える小金吾を宥めるのは、千之助さんのお父さんでにざ様の息子の孝太郎さん。なんと…豪華な…

『小金吾討死』の場は広い舞台いっぱいに追手が現れ、縄を使った演出と殺陣の息つく暇のなさに圧倒された。宝塚や現代劇の中での殺陣と歌舞伎の殺陣との違いとしては、静と動の強調だと思う。歌舞伎では静と動が殺陣の中でもハッキリ強調されている。宝塚でも、殺陣は台詞のやり取りのように指導されている場面が多いが、歌舞伎はより台詞のやり取りの様に感じられる。流れるように戦う小金吾の剣捌きが美しい。
滲んでいく血と儚い面影の小金吾。小金吾の死体を見つけてからの幕が降りてから首を切り落とす場。これが『すし屋』に繋がるのか…とやっと話の繋がりが見えた。

『すし屋』

昨年に引き続き、お里さんは中村壱太郎さん。壱さんのお里さん、昨年からずっと思っているが、あの可愛さはどこから生まれているんだろうか。
弥助が大変そうに抱えている酢桶を軽々と持ち上げ軽々と運んでいる姿に、昨年もときめいたが、また一層可愛くなっているお里さんは可愛いの権化だった。
弥助にベタ惚れで、「お里と呼んで」と練習させているところのお里さんの「エッヘン…」があまりにも可愛すぎる。
そんなお里さんのベタ惚れ状態のところに権太が帰ってくるもんだし、権太は弥助とお里さんの関係に色々口を出すもんだから、お里さんも頭に来て、
お里:兄さん。びびびびびー!(ぷんすこしながら引っ込んでしまう)
権太:(呆れ顔)
心臓が…もちません…好きなお二人が兄妹ってだけでも心臓がもたないのに…
びびびびびーで叫ばなかった私を褒めてください。

母様に泣き落としにかかる権太の悪そうな企み顔。調子良さと「芝居」の塩梅が憎めない。客席からしたら、権太が何事か企んでいるのは百も承知なのに、愛嬌たっぷりで憎めない。
父親の帰宅に慌てふためく母子も可愛らしい。

去年同様に印象に残っているのは、弥助と一緒に寝ようと色々言葉をかけ続けるも、何にも返さない弥助の方を見ながらシュンと悲しげに1人寝るお里さん。可愛いのに、切なくて、弥助の気持ちもわかるんだけど…となってしまう。お里さんの可愛さは正義。

また、今回やっと話の筋がわかって印象に残っているのは、内侍と六代君(偽)を連れてくる権太と、引っ立てられる時の権太と夫婦のやり取り。あんなに苦しそうに「芝居」を続ける権太も、権太の妻も、たぶん幼過ぎて理解しきれていない息子も、『木の実』でのひと時を思い出すとあまりに苦しい。
父に斬られてようやく権太の真実が顕になった時に、『木の実』での息子の笛が鍵になっていたのは、あまりにも悲しすぎる。
息も絶え絶えな権太が最期のときを、お里さんに優しい笑顔を向けながら何事か呟き、お里さんも権太の腕をさすりながら健気に頷いているのもとても印象的だった。

前半戦だけでもう既にチケット代と遠征費の元が取れてしまったくらいに濃く熱い時間だった。

『川連法眼館』

2年前に観た時は、義経が壱太郎さん、静御前が米吉さん、源九郎狐は橋之助さんだった。
話があんまりわからないながらも、どの場面も印象に残っていたため、今回は色々と思い出しながら観ていた。
松緑さん演じる源九郎狐は、鼻の下のところに紅がさしてあって、
あ、狐ちゃんだ!とわかるお化粧があまりにも可愛らしい。親狐との別れを惜しんで悲しそうに鼓に擦り寄ったり、おいおい泣いたり、くるくる回ったりと、物凄く体力を使うであろう動きの数々が可愛らしく愛おしい。
3人の悪僧相手に大立ち回りを演じているところも可愛さ全開で、鼓を大事に扱う源九郎狐があまりにも愛おしすぎる。

亀井と駿河は四の切の中でも特に好きな役で、亀井が花道をドタドタと通って行くところは、初めて観た時の高揚感が蘇った。
亀井、駿河、忠信で見得を切るところも3人ともかっこいい。

あっという間の1時間15分だった。

ところで、この場面の最初の方に、台詞は忘れてしまったが岩融の名が出てきて、とうらぶファンとしてはつい反応してしまった。それもそうだ。義経と武蔵坊弁慶。弁慶の愛刀岩融。様々な刀を集めつつも、岩融のことを褒め称えていた弁慶の逸話を思い出しもした。

おしまい

来月は新作歌舞伎刀剣乱舞と七月大歌舞伎『菊宴月白浪』を観に東京へ遠征する予定。
来月は珍しく、歌舞伎だけのための遠征。生憎宝塚のチケットは取れなかった…

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