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第7章「魔女の奇異な人生」精霊たちとの出逢い

「 もう一つの世界 」

おじいちゃんがいなくなってから、あっという間に冬になり、ほっぺが冷たくピンとする空気の日々になった。魔女は、学校でも家でも普通に過ごしていた。見た目は多分普通だけど、心の中はまだ消化できない事だらけで、「人は死んだらどこへ行くんだろう?おじいちゃんは、どこに行っちゃったんだろう?」そんな事を真剣に考えてて、どうしたらいいのかわからない状態にあった。そんなんだから授業とかにも集中もできず、授業中におじいちゃんと海に釣りに行ったこととか思い出していたら、そのうちその世界にどんどん入ってしまい、妄想の中でおじいちゃんと釣りをしたり、どら焼きの皮焼いてもらったりして、どっぷりその中で楽しく遊んだり、慰めてもらったりしていた。

外の世界の空気が動きだしたら、ぱっと妄想の世界から現実に戻る。周りの人に気づかれないようにその繰り返しをしていた。不思議なことに、その世界では、おじいちゃんは生きていて、過去の記憶とかではなく現在進行形で時が流れていて、妄想の世界の中のはずなんだけど、すごくリアルで、楽しくて、安心できるところだから戻ってきた後は、「そうだよね。こっちが現実だよね・・・。」と、いつも寂しくって悲しくなって涙が出そうになった。

だけど「またいつでも行けるし、またおじいちゃんにも会えるし」そう思うと「大丈夫!!」って力が湧いてきたりして一人で上がったり下がったりしながら過ごしていた。誰かに話したら、その世界がなくなっちゃうような気がして、誰にも気づかれないように、悟られないようにその世界のことは話さないことにした。

「 カラスのトモダチ 」

その世界へ行き来していたけど、それだけでは身体のやり場がなくなってきて、魔女は苛立ちはじめ、勇気を出しておじいちゃんに会いに行くことにした。家から自転車で40分くらいの場所に、おじいちゃんのお墓ができた。その墓地は、大きな公園になっていて、春になると梅の香りが辺り一面に拡がり、その後に桜の花がピンクの道のように咲き乱れる、おとぎ話の世界のようにきれいな大好きな場所だった。緑の芝生がきれいに手入れされた広場がたくさんあり、秋には落ち葉で道が埋め尽くされ、子どもたちが落ち葉の上をカサカサと音を立てて歩くのはお約束だった。

いつの間にか、その墓地に時間がある時こっそり通うようになっていた。おじいちゃんのお墓の所に座って、学校の話や、色んなことをおしゃべりすると、ものすごく落ち着いてリラックスできた。誰もいない墓地に座り込み、中学生の女の子が、一人で、ブツブツ誰かと話しているのは、なんとも不気味な光景だ。

お墓に腰を掛けてぼーっとしていると、カラスが近くの木にやってきて話しかけてきた。明らかに声色がおかしく私に喋りかけてくる。
「ねえ、私に話しかけてるの?」と聞いたらカラスが「そう。また来たね!」とそんな風に言うから、おもしろくって自然とカラスとおしゃべりするようになった。カラスは、最初は木に止まっていたけど、そのうち随分近くまできて色々喋りはじめた。

カラスにも人間みたいに、色々な性格のカラスがいるのがそのうち分かってきた。私に会いに来てくれるカラスは2羽だというのも分かった。そして、意外と一方的に話して夕暮れギリギリなると「もうお帰り!!」と私をまくし立てるように鳴いて森へ帰っていく。その言葉と話の内容は、すぐにわかる時もあるば、時間が経ってから「あ!!そういうことね」て後から訳すことができるみたいな時もあり、短い言葉の中にカラスとの大事なやりとりがぎゅっと詰まっていた。誰にも話せない世界の中で、カラスはいつの間にか大切なトモダチになっていった。

「 精霊たちとの出逢い 」

「今日もカラスに会えるかな?」そう思うと、ワクワクしてきてお墓に行くのが楽しくなってきた。カラスと言葉が通じるのが嬉しくて仕方なかった。それに、何か大事なことを教えてもらっている時間のような感じがして、まるでお教室に通う気持ちで一年くらいは通っていた。

そんなある時、私の頬をまるでおじいちゃんが撫でてくれているように、風が通り過ぎた。その瞬間、胸が熱くなり涙が込み上げてきた。「なに?だれ?」風が、私が慰めてくれたのをはっきり感じた。その時の空気の密度の濃い感じと、感じたことのない暖かさを思い出すと今でも鳥肌が立つ。そして風が意志をもって私の周りで遊んでいる。そして、木がざわざわと笑いかけたりし始める、そのうちに鳥たちも集まり、まるで歌を歌っているように鳴き出す。風や木々、鳥、そういう者たちが奏でる音が、細かい音の粒のようになり私の体の中に入ってくる。すぐ目の前の葉っぱがくるくると回り始め、小さな竜巻が葉っぱたちを運んでダンスをしているようにあっちこっちに動き回る。

怖さは全くなかった。その世界は、とても優しくて、安心できる、美しい世界だった。精霊たちとこうして魔女は出逢った。

精霊・・・精霊は自然界に存在するエネルギー体。木の精、妖精、水の精、風の精、火の精、雪の精、花の精、木々それぞれにも宿る。精霊が宿る森は豊かである。精霊たちがいるおかげで、森や川、海、空、自然界は調和され成り立っている。精霊が住めなくなってしまった森や、川、海はやがて滅びていくだろう。

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