ホラー小咄「選択肢」

不思議な夢を見たので書きました。
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「人生は選択肢の連続だ」と誰かが言う。
であれば、もし選ばれなかった未来を選んだらどうなるんだろう。

【ホラー小咄/選択肢】

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私は受験会場に向かうために、バス停でバスを待つ。
その間さえも時間が惜しい気がして、用語集を開きながら必死に単語を頭に詰め込んでいく。
中々、来ないな。バス遅いな。
実際にはそれほど時間は経っていないのだろうけど、定刻を過ぎても中々来ないバスにイライラしていた。

その時だった。

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Q歩いて行きますか?
1.待つ
2.歩く

足元にはメッセージウィンドウが、頭上には選択肢が表示されたのだ。

なんだこのボタンは。
こんなのありえないじゃないか。

そう思い無視を決め込むが、世界が停止したかのように人も車も動いていないようだ。

これを押せばどうにかなるのか?
うーんと思いつつ、今の状況について考えてみる。

今の私は受験会場に向かいたい。
このバスの停留所の近くに受験会場があるので、バスで行く選択をした。
ただ歩くとなると30分以上かかってしまう。

そうなるとバスで行く選択の方がいいはずだ。

そう思い、恐る恐る「待つ」の選択をした。

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その瞬間、世界は色を取り戻し、人や車も慌てて動き出す。その様子はまるでよーいどんで一斉に走りだしかのような、陳腐な表現だけどそんな感じがした。

その時、ちょうどバスが来たため、慌ててそのバスに乗り込んだ。

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バスの車内はガラガラで、数人の乗客が乗っているだけのようだった。


子供連れや杖をつく老人、サラリーマン、そして男子学生。年齢も世代も性別もバラバラのようだ。


私はその中で、男子学生の後ろに座ることにした。

席につき、再び用語集を開く。
さっきの続きはどこだろうと思いながらパラパラとページをめくっていると、男子学生の頭がふと視線に入った。

髪色は綿菓子のような白色で、ふわふわしてて美味しそうだな。

などと思っていると、男子学生がグルンとこちらを向いた。

そして不思議な言葉を吐く。

「まさか、キミもチェイサーなのか?」

その言葉に頭上にはてなマークを浮かべていると、学ランを着ている彼は「いや、まさか」だとか「いや、ありえない」だとかぶつぶつ言う。

そして何かが視線に入ったのか、慌てて停止ボタンを押すとこちらの腕を掴んだ。

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持っていた用語集を落としてしまう。

慌てて用語集を拾い上げカバンの中にしまい、男子学生に抗議をしようと口を開いたその瞬間だった。

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Q男子学生について行きますか?
1.はい
2.いいえ

再び、足元にはメッセージウィンドウが、頭上には選択肢が表示されたのだ。

また選ばされるのか?
直感的にそう思った。

ただ「はい」を選んだらどんな未来が、そして「いいえ」を選んだらどんな未来があるのだろう。

しかし私は男子学生に一言文句を言いたかった。
なんでいきなり腕を掴むんだと、用語集を落としてしまったではないかと、文句を言いたかったのだ。

だけど男子学生の意図は、私の足元にいる謎の気配で不思議と分かってしまった。

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「行カ…ないデ」

「行カない、デ!」

「行カないデ…ヨ!」

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なんだこの化け物は!

顔はぼんやりとしており、姿形はよく分からない。
しかし髪型や服装は私とどこか似ているようなそんな化け物が、私の足を掴んでいた。

まるで逃がさないと言っているかのよう。

私は途端に恐ろしくなり、慌てて「はい」を選択し、停止した世界から逃げ出した。

運良く停止したバスから慌てて飛び降りる。

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降りたバス停の近くには公園があり、男子学生はその中に入る。

いつのまにか、繋がれていた手は離されていた。

私も男子学生の後を必死についていった。
もうどうせ、試験には間に合わないだろうという諦めの感情を伴いながら。

と、その時。
男子学生は公園内で綺麗に咲かれていたチューリップ畑の近くに腰を下ろして、口を再び開いた。

「ねぇ、キミ知ってる?」

「…何がですか?」

「こことは違う次元が存在していて、そこにも僕とキミが存在していて同じような生活を送っているんだ。ただし、言動や容姿などは違ったりするけど」

あぁ、そんな話は聞いたことあるな。


取った行動や紡いだ言葉などによって、当然起こる未来も変わってくる。

もしこんな行動を取っていたらなどという、IF-ANDの世界がまた別の次元にあるのだとか。

はたまたこんなことも思い出した。

本来あるべき未来を阻止しようとして過去を変えすぎると、本来あるべき未来よりも最悪な未来が来てしまうこともあるのだとか。確かバタフライエフェクトって奴か?バタフライ効果ともいうらしいが…。

そんな曖昧な知識を披露して違っていたら恥をかくだけなので、敢えて全てを話さず、ただ黙って頷くだけにとどめた。

「そっかありがとう」
男子学生は柔らかい笑みを浮かべた。
そして「でもさ」と言葉を続けた。

「行動を取った後で、あるいは言葉を紡いだ後で、もしこんな行動を取っていたらだとか、こんな言葉を紡いでいたら、って考えることはない?」

「最悪な結果ならそれより少し改善した未来が待っているかもしれないし、あるいは今より最悪な結果が待っているかもしれない」

「だから僕は思うんだ」

「人生は選択肢の連続だってよく人は言うけど、それっていろんな次元を飛び移りながら死に向けて選び続けているだけだって」

「でもね、それと同時に思うんだけど」

「選ばれなかった未来ってどうなるんだろうって」

選ばれなかった、未来?
一体なんの話をしているんだ。

「僕はキミと同じく、選択肢が表示されて常に選ばされている。その特権なのか、他の【死を追うもの(チェイサー)】の選ばれなかった未来の姿を少しだけ見ることができるんだ」

「恐らくあの乗っていたバスがどこかに激突して、大規模な事故を起こしたんだろう」

「別次元のキミはあのバスに取り残されたまま彷徨い続けているんだ」

「つまり、足を掴んだ彼女は別次元の本来あるべき未来のキミなんだよ」

男子学生の話は支離滅裂で、難しい言葉も多くよく理解できない。
言葉の意味を理解しようと、男子学生の言葉を噛み砕きながら理解しようとしていた時だった。

公園内に設置された大スクリーンで、速報を伝えるニュースが映し出された。

「先ほど、〇〇会社が所有するバスが大規模な事故を起こしました。」

「ルートは〇〇から〇〇までのバスで、事故現場は〇〇です」

「今もなお乗客数名が車内に取り残されており、懸命な捜索活動が続けられている模様です」

画像:ぱくたそ様

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