街なかの空き地に年7万人来場建てずに “原っぱ” で勝負する | 市街地の活性化基地/わいわい!!コンテナ2 佐賀県佐賀市(2017年掲載事例記事)
わいわい!!コンテナ2ってどんなところ?
佐賀駅から車で10分。佐賀城・城下町の一角として発展した場所で、現在も歴史的建造物が点在。かつて多くの人で賑わいを見せた「呉服町名店街」を歩いていると、突如として現れる4基のコンテナ。その周りには、芝生には元気に走り回る子どもたちの姿があります。「わいわい!!コンテナ2」と名付けられたこの空間は、実は4年前までは空き地。ここで、街なかに賑わいを取り戻すための社会実験をしています。
国内外の雑誌や絵本などが置いてある「読書コンテナ」、ワークショップなどで賑わうマット敷きの「交流コンテナ」、期間限定ショップや作品展示などが自由に開ける「チャレンジコンテナ」に授乳室完備の「トイレコンテナ」。街なかで「集う・出会う・発見する」ことができる、無料の寛ぎ“空き地リビング”です。
わいわい!!コンテナ2ができるまでのストーリー
STEP 01 こんな経緯から始まった
佐賀市民からの電話が縁で
「街なか再生」を手がけることに
始まりは2009年。佐賀市出身の建築家、ワークヴィジョンズ代表・西村浩さんにかかってきた1本の電話。「以前佐賀新聞の取材を受けた際に『子どもの頃遊んだ街なかが寂しくなり、何とかしたい』とコメントしたら、記事を読んだ佐賀市民の方から突然東京のオフィスに電話が。同じく街なかが今のままではいけない、ということを熱く話して下さいました」と西村さん。
この思いに突き動かされ、西村さんは度々故郷の佐賀に戻っては、市民有志の皆さんとまちづくりや佐賀の将来像について語り合ったそう。そして約1年後の2010年、佐賀市から正式に中心市街地の活性化に向けた実践プログラム「佐賀市街なか再生計画」策定の依頼を受けることになりました。
「市からのオーダーは、“何かを造るのではなく、『何とかしてほしい』”。ならば、 “空き地”に建物を建てるのではなく、“空き地”のままで価値を高めることができないか、と考えました」
STEP 02 社会実験として始動
住民、商店街、行政が一丸となった“原っぱ”作りへ
「空き地を空き地のまま原っぱにする」という今まで類をみない奇抜な考えは、簡単には理解してもらえず「では、実際に社会実験としてやってみませんか!」と提案した西村さん。「わいわい!!コンテナ2」の前身、「わいわい!!コンテナ」プロジェクトをスタートさせます。念頭においたのは「住民を巻き込むこと、コストをかけないこと、そして、プロジェクトによって起こる人の動きやまちの変化を検証すること」。まず地域の住民の方々、地元商店街の方々、NPO、行政が一堂に会して街なかの将来ビジョンを共有し、まちづくりの方向性や実践プログラムの検討を行っていく場として「佐賀市街なか再生会議」を設置し、お互いに自由に意見が出しあえる環境作りをしていきました。
それから街なかのある1角の“空き地”に拠点を絞り込みます。西村さんが“玉ねぎ戦法”と呼ぶこの絞り込みの方法論は、「まずは玉ねぎの“芯”部分=“核になる場所”で、集中的に街づくりに取り組んで中心部のエリア価値を上げ、それを周囲に波及させる」というもの。民間所有の空き地だったので、佐賀市が借地するという方法で、社会実験の舞台となる敷地を確保しました。
空き地は、規制の多い公園ではなく緑豊かで自由に遊べる“原っぱ”に。芝生は市内の造園業者さんで購入して地域の子どもたち、住民と一緒に張り、コンテナ前のデッキも住民たちとセルフビルド。コンテナは、地元の建設会社さんが社会貢献事業の一環として自費で製作(施工)、“コピー機を借りる感覚”でリースするという手法を構築しました。維持管理、運営は地元のNPOにお願いしました。依頼からわずか3か月後、2011年6月から1月までの8ヶ月限定予定で社会実験「わいわい!!コンテナ」は動き出しました。
STEP 03 未来につなげる事業内容
街の “基礎体力” をつけ、
子どもたちが安心して暮らせる地域作りへ
そもそも、なぜ“原っぱ”で“コンテナ”だったのでしょうか?「住民の皆さんたちとの話し合いを進めるうちに、かつて商業が集積していて建物がギュウギュウにつまっていた街なかは意外にも緑の空間が少なく、車が多くて危ないので暮らせないというお母さんの意見が多くて」と西村さん。子どもが暮らせない地域に未来はない、そう感じた西村さんは、まず車が入らない子どもが安全に遊べる”原っぱ“作りに着目しました。
「イメージはドラえもんの“原っぱ”。土管=コンテナがあって、自由に子どもたちが遊び回っているような。もちろん、戦略はきちんとあります(笑)。空き地は放っておくとすぐ駐車場に。かといって店舗を作ってもなかなか人はこない。“原っぱ”の維持管理、活用で住民を巻き込み、どんどん人が来る“動機”を作っていく。“原っぱ”は、街なか再生の“肝”だと感じていました」と西村さん。
また「不動産ではなく動かせる“動産”の可能性に興味があった」西村さん。可動、再利用でき、固定資産にならないため税金面でも有利な“コンテナ”に以前から注目していたといいます。今回の実験で原っぱに置くことにしたコンテナには300種類の国内外の雑誌や絵本を常設。「子どもたちだけでなく多世代が自由に寛げる空間をめざしました」と西村さん。
立地は、昔ながらの賑わいがなくなり、夜の飲み屋さんや空き地が点在するようになった場所。「特に平日昼間の人通りが少ないこの界隈に、安全・安心な拠点を確保することで人を集め、ゆっくり街なかに滞在してもらうことで時間を消費させ、街なか居住のニーズを高めていけるか。イベントのような一時的なものではなく、いかに日常的に持続的に人を惹きつけられるか。街の“基礎体力”をつける実験でした」
STEP 04 社会実験から更なる展開へ
コミュニティは“発生”するもの
これが、街なか再生の“鍵”に
そんな西村さんの思惑が見事功を奏し、最初の実験終了(2012年1月)までの8か月間で1万5000人が来場。来場した人へのアンケートでは9割以上が継続を希望しました。即継続が決まり、同年6月「わいわい!!コンテナ2」がスタートしたのです。
「わいわい!!コンテナ2」では、もともとアーケードが架かっていた歩行者専用道に面した“空き地”に場所を移し、前出の4基を設置。交流コンテナやチャレンジコンテナでは、近くの英会話学校の講師が行う無料の英語イベントや、市民が集まってコーラスグループも発生。「こちらがコミュニティを作るのではなく、自然にコミュニティが生まれる環境作りが大切なんです」と西村さん。
人が集まる環境を作れば、自然と周辺には商売が生まれる。現にラーメン屋さんやバー、Tシャツのプリントショップなどが続々と出店しました。「するとエリアの価値が自然と高まっていき、街なかに賑わいが戻る。この変化こそが実験当初からの狙いでした」。その際一連の流れを“集中して”変化させることが大事。「小さなエリアだからこそ変化に住民も気づきやすく”あそこ変わったよね!行ってみようか“とリピート、定着につながっていくんです」
STEP 05 展望
実験から4年で集客は約5倍に!
“裏を表に” 街なかの賑わい継続中
実験当初1万5000人だった来場者数は2年後には3万人と倍増、4年目の昨年には約7万人に達しました。
さらに西村さんの挑戦は続きます。今度は自らが空き地を借りて、シェアードワーキングオフィスとカフェ、西村さんの会社の佐賀事務所を併設したコンテナ「マチノシゴトバCOTOCO215」を開設。オープン3年目になる現在、10席あった固定席は全て埋まり、カフェは市民の憩いの場となっています。
また昨年はエリア内に空き店舗を所有するオーナーさんと交渉して、シャッターが閉まったままだった空き店舗を期間限定で希望者に貸し出す「街なかオープンシャッタープロジェクト」を実施。11件の物件に対して42件の応募があり、このイベントがきっかけで、実際に本格的に商店街で出店した店舗もあるそう。
状態の良い店舗がすべて埋まってしまったため、今年は道路空間を活用。「ひなマルシェ」と名付け、週末限りのマルシェ=市場形式に。小さな路面だって立派な街なか再生の武器です。
街なかを縦横に網の目のように走る「クリーク」も、実は佐賀ならではの“お宝”。街なかに船着き場を作り、和船やカヤックで川下りするフィールドワークを実施しています。「家の“裏”を流れていたクリークが、一気に“表”舞台に。裏を表に変えれば、街の価値も変わるんです」
呉服元町の一角で生まれた“原っぱ”が、どこまで豊かな緑を育んでいくのか。「行政に寄りかかるのではなく、民間が力を合わせて小さな成功を積み上げていく。今後も佐賀の街なかを“わいわい!!”させるため、どんどん仕掛けていくつもりです!」。挑戦の手を休めない西村さん、佐賀市の動向にこれからも大注目です。
(Writer 西郡 幸子)