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働いてくれている人たちとの「シェア」か、「システム利用料」か

#月次レポート研究所  です。

投資信託と少し離れた話題から始めさせてください。

チケット購入時の「システム利用料」


コンサートやイベントのチケット、チケットぴ○ 等でお買いになったことってありますよね?

数年前の話です。Jリーグを生観戦するための入場チケットを買う際、ネットで予約、コンビニで発券という具合で入手していました。その際、チケット代金とは別に「システム利用料」もかかっていたと記憶します。

ここ最近は会員特典等やQRチケットなのでこの「システム利用料」を目にすることはなくなりましたが、上記の記事の通り、今も「システム利用料」は存在しているようです。

例えば2020年広島東洋カープ先行販売の場合、「先行販売手数料」として各プレイガイドは手数料を上乗せしてます。

「先行販売手数料」なんてものもあるのですね、これは知りませんでした。

この先「先行販売手数料」は忘れてくださって大丈夫です。覚えておいて欲しいのは「システム利用料」です。

投資信託の話です。

Shimoyamaさんのツイートにある「こないだの件」。元ネタはリンクしません。Shimoyamaさんのツイートから探してみてください。

元ネタは「信託報酬は、0.3%以下を目安にしましょう。安ければ安いほどよいです。」という主張でした。この種の主張はあちこちで目にします。

モーニングスターさんも力説されていますね。

信託報酬は将来のリターン押し下げ要因

https://www.morningstar.co.jp/market/2021/1022/fund_01459.html

どうなんでしょうねえ、というのが僕の率直なところです。実感として持っているのは「あんまり関係ない」。

上の記事では「りんご」で喩えましたが、最近のお気に入りの喩えは「”コンサート”と”チケット”」です。

”コンサート”と”チケット”


”コンサート”は投資対象の実体、

”チケット”はその評価、

ということです。

”コンサート”は投資対象の目的、事業活動を通じて提供される価値、それを表現した業績や財務状態、さらにそこで働く人たちを喩えています。

投資信託で言うと、どんな会社に投資されているかそのポートフォリオが”コンサート”と呼ぶべきものだと考えています。

一方の”チケット”。これはそのコンサートに参加するために必要な代金、価格。コンサートが一つの会社だとすれば「株価」。コンサートが投資信託だとすれば「基準価額」が該当すると考えられます。

ここ数年ずっと感じていることは、株式投資や投資信託についてネットで目にする発信のほとんど、大多数は”チケット”の話で占められているなあ、ということです。”コンサート”に発信の重点を置いている人は非常に少ないね、って。

基準価額の上げ下げをファンドでトレース(僕も色々やってますけど)。これは”チケット”についてのお話です。そこには中身の話はほとんどありません。せいぜい、こんな会社が組入上位10社です、程度。その基準価額のトレースは直近1年とか3年とかの期間を取っているのに、組入上位10社はごく最近のものだけだったりすることが非常に多い印象です。”コンサート”に関心が向いていないから、なのでしょうね。

ネットの発信だけではありません。投資信託の月次レポートもそうです。基準価額が騰った、下がったの説明は、”チケット”のお話です。中長期的には”コンサート”の中身が”チケット”の価格を決めているのに、”コンサート”についての説明は極めて少ない。

月次レポートを読む人たちの関心事は”チケット”が騰ったか下がったかにしか関心が無いのだろう、そう決めつけているのだろう、そう推測します。

山口揚平さんの”デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座”(2008年出版)の「終わりに」の冒頭部分をもう一回貼り付けておきましょう。

 先日、とあるコンサートに行きたいと思い立ち、あわててチケットを取ろうとしたのだが、大変な人気ですでに完売していた。
 落胆したのだが、どうしても行きたかったので、やむなく初めてインターネットオークションでチケット落札を試みた。
・・・
結局、私はそのチケットを落札できたのであるが、そのときに気づいたのは、コンサートが自分にとってどのくらいの価値があるものなのかが重要なのであって、他人の出方を見て少しでも安くチケットを買うという考えは本来的に意味がないということであった。


さあ、ここで「システム利用料」のお話に戻りましょう。

インデックスファンド。この種のファンドにはベンチマークが必ず存在します。ベンチマークとなるインデックスが算出されるポートフォリオは、どの会社にいくら投資するか、それらを市場が決定します。一種の「システム」だと僕は思っています。ファンドを保有するために必要な費用は「システム利用料」と捉えることが出来ます。インデックスファンドというシステムの”チケット”を手に入れるための「システム利用料」ですから

安ければ安いほどよい

というのは当然の結論のように思われます。「どこのシステム利用料が安いか」を目を皿のようにして探し求める。

話が噛み合うことは無い。

では、アクティブファンドはどうでしょうか。アクティブファンドは投資先を探し出して、調査して、分析して、判断する。投資した会社を見守り、対話し、また判断する。それを繰り返しています。ファンドを運営するために「人」が働いてくれています(もちろん、インデックスファンドでもその運営のために人は働いてくれているのですが)。”コンサート”をより良いものにするために。より素晴らしい”コンサート”にするための演者を探し出そうと働いてくれているのです。そうすることで”チケット”の価格が騰っていくことを目指している。

ファンドの信託報酬は、ファンド運営のために働いてくれている人たちとの「シェア」という側面もあると思います。もちろん、基準価額が下がっている際はリターンが無い状態ですので、その期間も信託報酬は発生しますから「シェア」には当てはまりません。ただ、ファンド全体で大きなリターンがあった際も率が一定であれば、働いてくれている人たちの「シェア」は減ることになります。

何が言いたいか。投資信託の信託報酬(運営管理費用)を、「システム利用料」だと捉える人たち、と、働いてくれている人たちへの報酬と捉える人たち、とは価値観が決定的に違っている。埋められない溝があり、話が噛み合うことが無い。そういうことです。

「月次レポート」に関して。上述の通り、アクティブファンドは「人」、働いている人たちの話をもっと、もっと伝えるべきなんだと思うのです。自分たちの企画、運営している”コンサート”が如何に魅力的であるか、を。

”コンサート”の中身をロクに説明せずに、”チケット”価格は「今月末 xxxxx円になりました。先月末よりウン百円上昇しました(下落しました)。」という説明、報告に終始していては、働いている人たちが見えてこないのです。”チケット”の値段の上げ下げを説明しているから、自分たちの働きが「システム利用料」とドンドンと一緒くたにされてしまっている、と思います。

「相場」のことはほどほどに。
「人」「働き」こそ、たっぷり、盛りだくさんに。

アクティブファンドの皆さん、「相場(チケット)」ではなく「人」の働き(コンサート)を発信してください。

「人」の働きを重心に据えた月次レポートが次々と発信されることを月次レポート研究所は心待ちにしています。


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