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マイクロフラット展(2023.6)

マイクロフラット展
2023年6月14日(水)-6月17日(土)
10:00-18:00(最終日のみ16:00まで)
武蔵野美術大学 9号館地下展示室 (小)
主催:武蔵野美術大学 映像学科 山崎連基ゼミ+有志

会場風景

2023年度武蔵野美術大学映像学科4年山崎ゼミでは作品発表の機会を得た。
主に、実写やアニメーション、写真、メディアアート、インスタレーションなど、それぞれの軸を持ちながら、他領域への横断を試みる作家・クリエーター・アーティストが参加した。

会場風景

今年度の山崎ゼミの特長は、それぞれの表現形式がもつ自明性への再考と、その再考による表現形式拡張への指向にあるように思われる。

例えば映画・アニメーションなど劇場鑑賞を前提とした映像表現において、ある時間・ある特定の場所に縛り付けてることは、コロナ禍を経たニューノーマルな生活様式において、必然性を失いつつあるのかもしれない。

スクリーン設営中

一方で、展示作品を指向する作家にとって、ある一定の時間を含有しつづけながら作品に何らかの説得力を付与させる“映像”という手段は無視できない。

画面左は横5メートルのスクリーン
画面右は32インチディスプレイ

映像が「いつでも・どこでも」発表・鑑賞・視聴できる現在において、上映・展示というあり方に新たなアプローチで臨むことが今回の発表の小さな野心の一つであった。

ゼミ内での議論と、それぞれの作品としての独立性を加味して、今回の作品発表では、『上映作品としての上映スクリーン』と『展示作品としてのディスプレイ』が同一の空間に並置されることとなった。また展示作品については、各作家ごとにディスプレイと平面(910mm角のベニア12mm)を共通のマテリアルとした。

平面(ベニア)への色彩の塗布なども、作家の解釈によって行われた。

マテリアルとしての「ディスプレイと平面」は、それぞれの作家によってさまざまな解釈と利用がなされた。

全出展作家が展示作品と上映作品を同時に提示した。

それぞれの上映・展示作品には固有の時間軸がある。
それらは、長短ばらばらの時間軸だ。展示作品のディスプレイはひたすらその個別の時間を刻み続ける。

会場には横幅5メートルほどのスクリーンが設置された。(写真左側スクリーン)

一方、上映スクリーンでは、それぞれの作家が提出した映像を一つのプログラムとして提示している。上映スクリーンはその大きさも相まって、空間全体を掌握するが、その掌握時間はそれぞれの作品にとっては短い。なぜならば、出展作家毎に上映時間を分割・共有しているからだ。

上映スクリーンは「空間の全体」に大きく影響しながら、しかし上映スクリーンの「一部の時間」のみしか占有できず、
展示ディスプレイは「空間の部分」として常に存在しながら、そのディスプレイの「すべての時間」を占有している。

一部、プロジェクションのみを行う作家もいた。

ここに、今回の上映と展示の並置の野心が潜んでいる。
その野心は、ある種のテーマのもとキュレーションされた展覧会でもなく
あるいはアートフェアのような均質的な空間設計による発表形式でもない。

前者を中央集権的、後者を非中央集権的とするならば
その両方から距離をとった「脱中央集権」的な作品発表の形式が今回の野心の中心にある。

その具体的な方法が「ブルー」だ。

時折すべての画面が「ブルー」の画面一色になる。静かに共鳴・同期が試みられた。それは上映の巨大スクリーンも同様だ。その瞬間だけ、会場が青く染まり一つになる。

この『ブルー』は映像機器にとって最もフラットな時間である『ローディングタイム』を想起させる。その『ブルー』の瞬間にそれぞれの作品は一つの時間を共有して、また各々の作品の時間へと還っていく。

全ての作品が、「青い画面」が同時再生される

コロナ禍を経たニューノーマルにおいて、物理的に空間を共有することの意義は、改めて見直されている。かつて当たり前とされてきた価値観(テーマ)の共有による連帯や統制は、作品発表においてでさえ息苦しさを感じる。
他方、プライバシーを完全に保たれた集合住宅のような作品発表もまた、空間を共有するための制度でしかない。

上映と展示の並置の中でみえてきたことは、時間の分割と占有、全体と部分、それらが一瞬、同期することで同一の空間にある意味を獲得できるかもしれない点だ。映像によって変容する空間と、空間によって見出される映像。その野心の達成には、まだまだ時間を要するが、確かな可能性を示した。

そこに集った作家・クリエーター・アーティスは以下の通りだ。

橋村誠
スイッチ (2分25秒) / 小旅行 (7分34秒)
<スクリーン/ディスプレイ>以下同様
田中乃々華
習作 (2分23秒) / 習作 (2分23秒)


Hoi
HAPPY WEEKEND (1分1秒) / life(2分14秒)
橋本聖人
season 22(1分30秒) / season 22(1分30秒)
宮脇未羽
ここにはない、なにか(1分7秒) / ここにはない、なにか(15分30秒)
毛利華子
水の音色(2分35秒) / SHARE(4分15秒)
阿部俊明
浮標(3分22秒) / 浮標(3分22秒)
ライアン
帰国(1分45秒) / 登校(1分4秒)
森遥香
あぶく / あぶく(1分38秒)
Aya-num
Live-CHIKA(1分48秒) / Live-CHIKA(1分48秒)
宮本侑里
宣誓(28秒) / 宣誓(8秒)
平岡紗樹
だから、知らない空地で眠った。(1分12秒) / あきち【空地】(2分4秒)

また、会期の最後にそれまで上映スクリーンとして空間全体を掌握していた投影面へ「ブルー」のペンキを用いた出展作家によるライブペインティングが敢行された。

ライブペインティングは上映作品を上映しながら、その映像作品と各作家によるセッションの機会となった。会期の終わりを告げるにはあまりに最適なパフォーマンスであり、部分から全体への循環の可能性の萌芽があった。

ライブペインティング

今回の『マイクロフラット展』は映像で構成された空間が、それぞれの作品が離合集散しながら胎動する作品発表の機会となったといるのではないだろうか。
(山崎連基)

【出展作家】
橋村誠
Hoi
田中乃々華
橋本聖人
宮脇未羽
毛利華子
阿部俊明
ライアン
森遥香
Aya-num
宮本侑里
平岡紗樹

【会場設営】
阿部俊明
奥野亜衣子
佐藤玲
篠崎晴斗
武部里彩
田村明日葉
津川真保
中村伸哉
渡辺ひかり
川田侃央
丹羽蓮一郎

【映像システム】
篠崎晴斗

【設営指導】
土井伊吹

【タイトル】
山崎連基

【ポスター】
メインビジュアル:毛利華子
デザイン:田村明日葉

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