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【小説1-6】スクールカースト下位だった私が、レンタル彼女になったワケ

「――えっ、会社を辞めたい?」

紗耶香さやかが相談を持ち掛けると、秋山は驚いたように声を高くした。
「もしかして、この間私が指摘したことが原因?」

そこには、珍しく困惑顔の秋山がいた。

その場しのぎの愛想笑いを指摘されたのは、つい先日のことだ。その時は紗耶香自身も、まさか会社を辞めたいと言い出す自分がいるとは思わなかった。

「原因っていうよりは、きっかけです」

「きっかけ? よほどこたえることを言ってしまったのかしら」

「いえ、そうじゃないんです。……長くなるんですが、お話聞いてもらっていいですか?」

「ええ、どうぞ」


と、秋山は話が深刻になるだろうことを察して、背筋を正した。きちんと相手の話を聞こうとする秋山の態度を見て、紗耶香はリラックスして話を始める。

「私、秋山さんがおっしゃったように、ずっと嘘の笑顔を作ってきたんです。最初は友人が欲しいっていう純粋な思いからだったんですが、秋山さんに指摘されてから、笑顔を盾にして無難に人と接していたってことに気づいてしまって……」

愛想笑いにポジティブな意味合いとネガティブな意味合いがあるとするなら、当初の目的は『友達が欲しい』というポジティブなものだったはずなのに、十年近く経った今では『嫌われたくない』というネガティブなものへと変わってしまっている。

そして、人から嫌われないように演じれば演じるほど、本当の自分をないがしろにしていることに気がついたのだった。

「だから、本当の自分で本音が言えるようにしたいんです」

「それで、仕事まで辞めるの?」

秋山が疑問に思うのも無理はない。

本音の自分だけで人と接するなんて、無理な話だ。誰もがその場に都合の悪い自分を隠して生きている中で、仕事を辞める理由にはならない。

「一度、リセットしてみようかと思って。私、不器用だから、今会社で見せている自分を急に変えたりできないんです。環境をリセットすればできそうなんですけれど……」

と、高校への入学と同時に、自分をリセットした過去を思い出す。

「――なにか、あてはあって?」

「特にありません。でも、心からの笑顔でないと通用しないような、自分を偽ることなく表現できるような場所を探しています」

紗耶香は辞意を表明しながらも、その理由は会社や仕事が嫌だとかいうようなネガティブなものではない。むしろ、その逆でポジティブなものだ。

きらりと光る紗耶香の瞳が未来を見つめていることに、秋山は気づいていた。

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