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夕暮れの砂浜で、ウミガメと過去に出会う

ある日の夕暮れ。千葉の行き慣れたとある海辺へ。
風が凪いで波は柔らかく静か。夕焼けが、水面に鏡のように映っている。
空と地面の境い目が曖昧になる。「ウユニ塩湖ってこんな感じかな」と思いつつ砂浜を漂い歩いていた。

この日ここにきたのは、親戚の一周忌でお線香をあげにきたから。前の年、突然亡くなったおじいさん。一緒に歩いた数少ない記憶を思い出しながら、砂浜を歩いた。思い出している間は、故人は生き返り、死の世界は遠のく。だから私は、思い出すことがいわゆる供養なんだと思っている。

そこを散歩していたおじさんと、何気なく会話を交わした。話しているうちに、さっきお線香をあげてきたおじいさんの息子と友達同士だったと判明。何十年も前のまだ子どもの頃に、この砂浜に巨大な鯨が打ち上げられて、2人で鯨の肉を取りにきたなんてエピソードも聞いた。

歩くうちに、ふと浜辺にウミガメがいるのに気がついた。口から泡と血をふいている。しばらく傍で様子を見守ってみて、助けたいと思ったけれど、素人の自分にも、もう助けるのは難しい段階とわかる。
このウミガメさんは、なぜこの浜に打ち上げられ、自力で海に帰れずに、生と死の境い目にいるのだろう?
海を漂うプラスチックを食べて調子が悪くなっちゃったのか。シャチやサメに食べられそうになったのか。それとも寿命なのか。

この日の海は、すべての境い目が曖昧だった。
空と砂浜。
過去と現在。
生と死。

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