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緩和ケア病棟で‘聞こえてきたもの’

今日はちょっとシリアスな話をします。
入院と緩和ケア病棟の話です。だからというわけではないですが、今日は『デスマス調』です。

私は11月2日に緊急入院。11月30日までほぼ1ヶ月間入院していました。全国的にも名前が知られるような有名な病院ではないですが、地域の拠点病院となるような総合病院です。このところ2週間に一度、この病院の緩和ケア外来に通い、鎮痛剤を処方してもらっていたのですが、急に貧血がひどくなり、歩きづらさMAXになってしまったので、救急車を呼んでの緊急入院となってしまったのでした。

緩和ケア外来に通っていたので、入院も緩和ケア病棟なのですが、当初、部屋が空いてなくて、外科病棟の相部屋に入りました。最近は個人情報規制の関係もあるのか、各ベッドのカーテンは閉めっぱなしで、同じ部屋の人に挨拶をするような雰囲気もありません。そこで最初の1泊目を過ごしたら、たまたま個室が空きましたからと、差額負担なしで外科の個室に移動。その週いっぱいはそこで過ごすことになりました。リフォームしたばかりとのことで、広くて風通しも良い個室はとても快適で、それまで自宅のものがごちゃごちゃした狭い部屋で過ごしていたこともあり、すごくリラックスできました。

朝の8時半は医師の回診の時間で、毎朝、「これから先生の回診がありますので、患者の皆さまはベッド脇でご準備してお待ちください」とのアナウンスがあります。私が入院した日はたまたま祝日の前日で、祝日中に個室に移動したため、その外科の回診の様子を見ることはできませんでしたが、外科の教授回診というのは今もやはり、医療ドラマにあるように、その規模は様々ですが、大名行列のようなのだそうです。私はあくまで緩和ケア科の入院患者なので、緩和ケア科の医師が回診にくる訳ですが、担当医師ともう1人、助手的な医師が2人でやってくるだけでした。それがそのまま院内での権力の大きさを表してるのでしょうね。

というわけで、最初の一週間は外科の病棟で、日向ぼっこしながら、自然のゆるい風に吹かれて快適に過ごしていましたが、いよいよ緩和ケア科の病室が開いたということで、そちらに引っ越すことになりました。そちらは、当然の如く相部屋。外科病棟でも、ほかに空きがないということで特別に差額なしで個室に入れてもらっていた訳ですが、さすがに相部屋が空いていてそういうわけにはいきません。差額を払ってもこの環境であと3週間過ごせたらと思いましたが、差額を聞いたらなんと1泊2万円‼︎ 3週間もいたら40万円を超えます。そんなの払えるわけがない、、、。というわけで、泣く泣く相部屋に。でも、この値段だと、個室に入ってる人はそんなにたくさんはいないんでしょうね。

それまで、なんとなく緩和ケア病棟というのはみんな個室だというイメージをもっていたので、相部屋というのはちょっと意外でした。なんで意外なんだろうとも思うのですが、普通、緩和ケア病棟というと、もうがんを治すための治療としてはやれることがないと宣告された患者が残りの人生をできるだけ痛みなく、快適に過ごせるために入る病棟というイメージがあったので、そういう患者は個室に入れてもらえる設定になってるんじゃないかと思っていたんだと思います。

で、入院1週間目に外科とは違う階にある緩和ケア科の病室にお引っ越し。相部屋といっても2人部屋なので、それほど窮屈な感じはありませんでした。

病室に入ると、当然ながらベッド周りのカーテンは閉まっていて、どんな患者さんがいらっしゃるのかはわからなかったのですが、一応、「よろしくお願いします。今日から入る中村です。」と声掛けしました。しかし、その挨拶に誰も注意を向ける人はおらず、声が小さかったのかなとも思いましたが、看護師さんもまったくスルー。カーテンの向こうは静か。多分、患者さんは寝てたんでしょう。

しかし、そこで返事がないのは患者さんが寝てたばかりだけでもないようだと、すぐにわかりました。その後、隣のカーテンの向こうから聞こえてくる音が、そうしたことを教えてくれたのです。

私が相部屋に引っ越したのがお昼頃。すごく天気の良い日でした。まだ11月初旬だったその頃は結構気温が高い日も多く、その日も20℃を超えていたと思います。そんな日の午後、一日で最も日が高くなると、南西に向いているその部屋は前に何も遮るものがなく、窓を閉めていると、部屋の中は蒸し風呂に。先週までいた外科の病室とは窓の方角が逆のようで、窓を開けてもちっとも風が吹き込みません。まるで真夏のようで、首元には汗。のぼせそうになってきたので、サーキュレーターを扇風機がわりにつけてもらいましたが、これが全く効果なし。そこで、エアコンの冷房をつけてもらいたいと頼んだところ、なんとなんと、この病院の空調というのは冬時期には暖房しか使えず、夏になると冷房だけに切り替わるから、今は暖房設定で23℃くらいにしてみるとか、そういうことしかできないというのです。でも、23℃の設定では、これだけ日差しが強いとなかなか部屋の中は涼しくならず、ずっと暑いまんま。これでは体力のないお年寄りなどは熱中症になってしまうのではないかとまじめに心配になりました。

病院だから、熱中症になってもすぐに対処できるんでしょうけど、そういう問題でもない。看護師さんたちもそれはわかっているにだけれど、病院の設備という大きい話だから自分たちの力だけではどうすることもできないという反応です。

もちろん、以前の日本の気候であれば、夏冷房、冬暖房と分けても良かったんでしょうけど、ここ10年ほどの日本の気候を考えたら、秋冬の夏日というのも考えとかないとだめですよね。こんなところでも、温暖化の弊害を突きつけられたわけです。

なんだか話が逸れてしまいました。隣の患者さんが挨拶に反応しなかったのは、どうやらただ寝ていたからというわけでもないという話でしたよね。

それがわかったのが、私が暑い暑いといって、サーキュレーターを看護師さんにつけてもらってた時のこと。風が私の方に届くように、風量と風向を設定して欲しいのですが、そもそもサーキュレーターは扇風機ではなく、部屋の空気をかき混ぜるものなので、ヘッドがぐるぐる回って、なかなか私に方向に風が当たらりません。
「もう少し左ですかね」「いや、ダメだ、当たらない。もう少し上向きなのかな?」「いや、これも当たってないです。」こういうやりとりを看護師さんと何回繰り返したでしょうか、あまりに私に風が当たらないので、次の瞬間、隣のカーテンの中から、ププッと笑い声が聞こえました。あ、隣の人も笑ってると思って、ちょっとその場の空気が和んで、私も隣に声かけしようかと思ったら、その笑いはカーテンの中にいたお隣担当の看護師さんの声だったと教えられ、隣の患者さんは自由に喋れない状態だということを知りました。私が姿も見えない状態で挨拶しても、反応できないのは当然なのです。

隣の方が女性であるということ以外、どういうご病気で、現在どういう状態なのかは教えてはもらえません。カーテンは閉じられたまま。彼女が今、寝ているのか起きているのか、私の声が聞こえているのかいないのかはわからない。かろうじて、寝息やいびきが聞こえるときは寝ているのかなと想像できるくらいです。

そして、サーキュレーターが何とか少し私の方に風を届け始めしばらくした頃。隣からなにやらうめき声が聞こえ始めたのです。意味のわかる言葉はなく、うー、と唸っています。それが痛みによるものだろうことは想像がつきました。その呻き声はしばらく続き、どんなタイミングなのかわかりませんが、2人の看護師さんがやってきて、何やら薬を処方している音が聞こえました。

「生理食塩水◯ml、、、」などと、多分、点滴で薬を入れているんだろうと想像できる言葉。この方は私にように自分で錠剤の薬を飲むことはできず、点滴で看護師さんに入れてもらっているのでしょう。常時、少しずつ決まった量の鎮痛剤が体に入っていくよう設定されているのか、看護師さんは、薬が現在どれだけ残っているか、その量を読み取っているようでした。

音からしか隣の患者さんの病状は想像できませんが、逆に音だけ聞こえてくるということが、変に色々な想像を掻き立て、その声の印象を強くします。
鎮痛剤に点滴と思われるものが処方されしばらくすると、そのうめき声は寝息に代わっていきました。

またしばらくすると、夕食の時間になりました。病院の夕食は18時過ぎ頃からです。メニューについては、以前の病院食に関する投稿に書いた通りですが、夕食の時間になっても、隣の患者さんには配食がなされず、その後も食べている様子はない。それは翌日の朝食も昼食も同様で、この方はもう食事も口からは取れていないということが、状況から理解されてきました。ずっと寝たきりで食事もできず、発する言葉といえば、うめき声の中にたまに「痛いよ〜」という言葉が混ざるくらい。体を自由には動かせないようで、看護師さんがきまった時間に寝返りを打たせにやってきますが、女性の看護師さんが2人がかりで持ち上げてもやはり寝ている患者を動かすのはなかなか大変そうで、毎回患者さんは、体を無理に動かされる痛みで悲痛な叫びをあげていました。時々、痰が詰まって苦しそうな音も聞こえます。それは昼夜を問いませんでした。

クオリティオブライフを高めるために、痛みをとり、快適に残りの人生を過ごせるようにというのが緩和ケアであるというイメージをもっていたので、この隣の患者さんの声から想像される状態というのは、これまでの緩和ケアへのイメージを覆すものでした。

この患者さんは、これ以上たくさんの鎮痛剤を処方すると命の危険もあって、どうしても痛みでうめく時間ができてしまうのだろうか?
看護師さんたちはそういう個別の患者についての話はできないので、それも想像でしかありませんが、、、。

それにこれは友人から聞いた話で、事実確認はしていないのですが、麻酔などが効いていて痛みを感じていないときでも、体自体は痛みを発するような状態にはあるわけだから、患者が無意識に「痛い」という言葉を発していることがあって、痛いと言っていたからといって、その本人が痛みを感じているかというと、そうとも限らないんだというのです。だとしたら、隣の患者さんも、うめいていても、まだ薬が効いていてそれほど痛みを感じてない場合もあるのかもしれません。

しかし、私の耳に聞こえてくるのは辛そうなうめき声と、それがおさまった時の寝息、寝返りの時の叫び、体を拭いたりしてもらうときの言葉にならない声。そしてあとは無言の時間だけ。それが私に見えている、というか、聞こえている彼女の現実です。鎮痛剤で夢とうつつの間を彷徨う彼女にとって、現実がどういう風に感じられているかはわたしにはわかりません。

緩和ケア病棟という、多くは末期がんで先は長くないとされた患者さんが(多くの場合、ご本人も死を覚悟している場合が多いであろう患者さんが)入院している病棟の相部屋に入り、他人である患者さんのそうした様子を目の当たりにする体験などそうそうあるものではないでしょう。緩和ケア病棟の病室に引っ越してから24時間。聞こえてくる音に私は参っていました。

自分も大変な状態にある人間が、隣に、寝たきりでうめき声をあげる患者さんの声をずっと聞きながら過ごす入院生活って、、、。

私自身は死の覚悟をしているわけでもなく(おまえはすでに死んでいるとかつて言われたことで、死の覚悟を通り越してしまったわけですが)、貧血が良くなり、少し歩きやすくなったら、また退院して自宅で過ごすつもりで入院してきているので、そうした患者さんの様子もちょっとは客観的に見ることもできましたが、自分がそれに近い境遇の患者さんがこうして相部屋になったら、どう感じるのだろうと心配になりました。こんな私ですら、しばらくの間は不安になったわけですから。ほかの相部屋の患者さんはどうなんだろうと、、、。

私がそんな不安を看護師さんに訴えると、翌日、部屋を個室に変えましょうか?と言ってくださったのですが、ほかの患者さんも相部屋で我慢しているのに、わたしだけ特別に変えてもらうのも悪いと思い、せっかくの申し出でしたが断り、相部屋を続けることにしました。それに、不思議なことに、数日経つうちに、私は隣の患者さんの声を聞くのに慣れてきていたのです。引越し初日はテレビのイヤホンがなく、まったくほかの音がなかったので気になったのもあったのかもしれません。3日目にイヤホンが届き、テレビの音が混ざるようになってから、気になる度合いが減りました。テレビの音による緩和と慣れと両方あったのでしょうが、結局そのまま3週間をそこで過ごしたのです。最後の方は隣の方の声よりも、日当たりによる部屋の暑さの方が苦しく感じたくらいでした。

先にも書きましたが、これは私の「緩和ケア」というものに対するイメージを変えるものでした。緩和病棟は個室ばかりであろうという思い込み。ほかの病院での緩和ケアの病棟はどうなっているのかわかりませんが、どうなんでしょうか?
緩和ケアを受ける患者はみな症状が緩和され、にこやかに日々を過ごせているだろうという漠然としたイメージは崩れていきました。
でも、よく考えてみればそうなのです。がんを治す治療にだって限界があった薬物治療の世界では、緩和ケアだって限界があるはずなのです。

ただ、ほかの相部屋の患者さんはやはり高齢者が多いようで、中にはちょっとボケている方もいるようでしたから、そういう方には、相部屋の方の病状まで気になることもなかったりするのかもしれません。そして、それが救いでもあります。
私の入院中も、どこの病室の方かはわかりませんが、毎朝、6時の起床時間が過ぎると、8時の朝食までまだかなり時間があるのに、早く朝食をくれとナースステーションに行って訴えているおじいちゃんの声が聞こえていました。看護師さんがまだ時間じゃないからと何度言っても、お腹が空いたと聞かないで、早く出せと言い続けている。またあるときは、朝食時間にナースステーションにやってきて、「朝食はどこで食べるの?」と尋ねている。看護師さんが「お部屋でね。」と言うと、「あそこは違う、ここで食べる。」と言い張って、何度言っても聞かず看護師さんを困らせる。看護師さんも最後には少し怒り出して、「だからここじゃ無いのよ❗️」とブチ切れている。そういいうやりとりは音だけ聞くと、毎朝の日課のようでもあり、ちょっと微笑ましくも感じられました。

そういう状況の中での相部屋問題。相部屋を嫌がる患者さんは他にもいるようですが、その訴えはそんなに切実なものではなさそうだというのは、看護師さんの口ぶりからかんじました。けれど、それは、看護師さんたち自身がそういうキツい状況に慣れていかないと気持ち的にもやっていけないから、患者にも無意識に慣れを求めているのかもしれません。でも、それはあくまでも無意識の領域のことのように思えますし、実際、患者さんがどう思っているかは謎のままです。

手厚い看護や介護が必要な緩和ケアの病棟は比較的ベテランの看護師さんが多いようで、実際に大変そうでした。看護師も予算も不足しているのか、16人入れる入院病棟で(私がいたときは13人入ってたそうですが)、夜勤の看護師さんは2人。夜中でもナースコールは鳴るし、大変な仕事です。看護師さんたちは頑張っている。疲れてもいる。なかなか、相部屋がどうだとか考えている暇も余裕もないのだと思います。

そんな状況で、やはり印象として残るのは、空調設備の問題にしても、緩和ケアが個室でないことにしても、病院の設備の問題というか、経営の問題というか、それにどのくらい国の医療行政の貧しさが関わっているかという、現場の人間が頑張ってもどうしようもないもっと大きな問題です。

緩和ケア科というものがまだそれほど普及していないという状況でもあり、入院患者の病室をほかの科と差別化するべきかどうかに議論もなされていないのでしょう。

また、空調や、以前にも書いた車椅子が充実していないという点など、病院の設備の問題は予算不足ということでしょうか。このところのコロナ報道で、日本の医療の脆弱性がポロポロと明らかになっていますが、一方で国民健康保険の保険料は驚くほど高い。それだけ国民から保険料を取って、そのお金は何に費やされているのか、、、。その配分に間違いはないのか、、、。いろいろと疑問が湧いてきます。

緩和ケア病棟の相部屋問題のことだけを書こうと思いながら、また話が広がってきそう。私の悪い癖です。というわけで、今回はこの辺にしようと思います。

でも、みなさんのこれまでの緩和ケアへのイメージはどんなものでしたか?
そして、緩和ケア病棟の相部屋というのはどう思われますか?

もちろん、患者さんにもいろんな病状に方がいて、たまたま私の隣にいた方が、痛みの強い患者さんだったのかもしれません。それに、他の病院での病室がどうなっているか、そのへんもわからない。そのうえで、どう思うかを考えるしか現時点ではできないので、もう少し、緩和ケアの現場について調べたいなと思ったりしています。
ただ、今はちょっとそういう余裕がないので、機会があればって感じです。
緩和ケアについて詳しい方、興味のある方、情報やご意見くださるとありがたいです。

では、また長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。

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