サハラマラソン2021 ステージ4(82.5km) 中編
「熱が下がっていない状態でレース復帰は禁止」
とメディカルスタッフに通告され、これはヤバいかもと今レース最大の危機...。
もうそろそろかなとスタッフが熱を測りにきた。
「37.5度ね」
うわ…まだ37度台かと目の前が真っ暗になるが、
「うん、これならだいじょうぶ。」とスタッフ
「えっ?まだ37.5度ですよね?」
「37度なんて平熱でしょ?」
おおおおお、そうなの?私の平熱は35度後半だから、自分にはまだ熱があると思ってたんだけど、そうではないのねっ。
「ということは、レース復帰できます?」
「レース復帰するのであれば、今すぐここを出ないと時間的にまずいわね。」と、自分で判断しろとやんわり促すスタッフ。
「とりあえず、CP3に向かいます。」
「なら、CP3のメディカルスタッフにあなたのこと引き継ぎしておくわね。」と、そばで私たちの会話を聞いていた、昔、小さい頃に父の仕事の都合で神楽坂に住んだことがあるというメディカルスタッフが無線で私のことを連絡している。(注1)
「では、行ってきます。」
「ゴールで待ってるから。」とスタッフ。
そばで座り込んでいたフランス人選手が私に向けてサムズアップ👍する。俺の分まで頑張れというメッセージだと受け取った。
CP3に向けて出発する。
結局、CP2のメディカルテントでは熱があるってことで水をぶっかけられただけで、嘔吐や下痢についてはなんも処置されなかったよな?陽が沈んで暑さが和らげば、何とかなるかもと思っていたのだが、まだ嘔吐と下痢の状態は続くようだ....。
あたりはだんだん暗くなってきた。
サングラスをザックにしまい、ヘッドライトを装着する。
しばらくすると、背後に大会車両がずっとついてきていることに気がつく。200-300mくらい離れてついてきている車両のライトが私を照らしている。最初はCP2でのこともあり、私のことを気にかけてくれている?と思っていたのだが、よくよく観察していると、マーキングのそばにつけている蛍光ライトを回収しているようだ。
えっ?!それって?!
まさか、私、今、最後尾ってこと??
と、その後、その推測を裏付けるかのように、
「ハロー!」
って、やっぱりやってきちゃったよー。
スイーパーのラクダちゃん🐪
おおおおお、まさかの最後尾でございます.....orz
CP2出た時に休憩用のテントにまだ何人か他にランナーいるの見たよ。もしかして、あそこにいた人たちは全員リタイアってこと?!?!
おおおおお、まじか。
ラクダ2頭、若い男の子とおじさまがこれからの旅のお供となった。ああ、それに更に後から圧をかけてくる蛍光スティック回収する車もな。
まあ、仲良くやりましょうや。
間近でラクダの表情とか見るの初めてなんだけど、結構眠そうな顔してんのねー。ラクダを引っ張る若い男の子は流暢な英語を話す。独学で習得したらしく、砂場をスリッパで普通に歩いている。いつかサハラマラソンに出てみたいと言う。
おー、未来のアハンサル兄弟、エルモラビティ兄弟になるのね。
と、この状況なんだが、
ぶっちゃけ、1人になりたい、、、。
元気な時はいいんだけど、こんな体調の時に、お供がたくさんついてたら、めちゃくちゃ気を遣うやんけ。嘔吐するのにわざわざお断り入れたりとかさ。トイレもむっちゃ行きづらい、、。休憩したいとも言いづらい、、。
誰か前を歩いていたら、一気に抜き去って、彼らを引き渡したいんだが、、、。
って、CP3には20時30分までに到達しなければならないのに、このペースでは間に合わないかもしれない。まだ体調が悪く、スピードが上がらん。
やばい、やばい、非常にやばい。
結局、CP3まであと2-3kmか?ってところで、制限時間の20時30分を迎える。
終わった、終わったわ、、。
ほとんどギリギリで入り込んだCP2に1時間強も滞在していたことが悔やまれる。
CP3に着いて、給水スタッフに色々慰められたら、泣いてまうかもなー。
と、思いながら、21時前にCP3に到着する。
って、あれ?給水スタッフの人たち、いつも通りの対応しているけど?
「時間切れじゃないんですか?」
「時間切れじゃないわよ。」と給水スタッフ。
あれ?知らないうちに制限時間撤廃されたかな?それとも救済措置?
なんか知らんが助かったわー(注2)
CP3で少し休憩し、まだ何人かランナーがいる(=スイーパーがついてこない)ことを確認し、CP4に向けて出発する。タケシさんの正露丸か、CP1で服用した錠剤が今頃効いてきたのかはわからないが、体調が少し良くなった気がする。
よし、ここが挽回のチャンスだ。
CP4にさえ着いてしまえば、その後は時間制限が(晩御飯や睡眠のための時間が加わるため)緩くなり、その後のレース展開が楽になる。
こんな状況だから、少し焦りが出ていて、注意散漫していたのかもしれない。
スピードアップしてどんどんと歩みを進めるが、ある時から道標である蛍光スティックを見ることが全くなくなったのである。
しばらく経ってからそのことに気がつく。
あれ、蛍光スティック、そういえば見てない。あれって結構小刻みな間隔であるから、ここまで全く見ないってことはあり得ないよな?
と、地面をヘッドライトで照らす。
砂場じゃないから少しわかりづらいけど、でも、既に通過した選手達の足跡も全然ないよな?
後ろを振り返る。
CP3を抜ける時に何人かランナーがいたが、流石に誰か1人くらいはこっちに向かってきてよさそうなものだが、辺りは真っ暗な闇が広がる。
もう一度、ヘッドライトで周辺を照らし観察する。そして、結論を出す。
うん、これはコースアウトして、ロストしたようだね。
コースアウトした場合、肩に装着しているビーコンが大会本部にアラートを出し、そして大会本部が、その選手の一番近いところにいる車両に連絡し、その車両が選手を迎えに行き、コースへ戻すということが行われる。
過去にも何人か日本人選手も経験している。
って、大会車両が迎えにくる気配がしない。
コースアウトでアラートを出す基準って何だ?どのくらいコースを外れたらアラート出るんだ?そもそも、私はどんだけコースを外れてるんだ?
ついにこの時が来たようだな。ポチッ。
ビーコンのSOSボタンをついに押したったわ!
その場を動かず、しばらく待つ。
あ、もしかして、SOSボタンは長押ししなきゃいけないんかな?と、SOSボタンを長押ししてみる。ついでに、もう1回、ポチッとしてみる。
緊急事態なんだから、何回押してもいいよね、念の為、念の為。
いやー、来ないね。
大会車両が来る気配ないね。
と、CP3に入るちょっと前くらいに、スイーパーのおじさんの携帯電話が鳴り、誰かと通話し始めたことを思い出し、iPhoneを取り出し、機内モードを解除した。
おおおおー、電波入ってるー。
って、まずやったことが、日本にいるサンドネジャックへのメッセージ送信。
「ワイ、ロストしたくさい。」
今にして思えば、他にやることあるだろ?ってその時の自分に突っ込みたいわな。無意味にサンドネジャックの面々を心配させただけやん.....。
と、車両が5-6台くらいこっちに近づいてくる。やった、ついにお迎えが来てくれたのね。助かった!おーい!と手を振りながら、車両に近づく。
先頭車両が止まり、運転席の窓が開いた。
「どうしたの?何かあった?」と、大会スタッフが尋ねる。
「え?SOSボタン押したから、それで来たのではないんですか?」
「いや?何かトラブルでもあったの?」
なんと、CP3を撤収し、次の場所に向かうたまたま通りがかった給水スタッフ達の車両だったのである、、、。
コースアウトしてロストしてしまったこと、ロストしたけど大会車両が迎えにこないこと、ビーコンのSOSボタンを押下したことを話した。
すると、「わかった、ちょっと待ってね。」
と、車から降り無線で大会本部と話し始めた。
「レナ?」と後部座席から私の名前を呼ぶ声がする。あっ!ヴァレリー姐さんだ!「事情は後ろで聞いてたわよ。私たちがコースに戻れるようにするからね。」と相変わらず頼もしい姉御である。
ドライバーのお兄さん(名前を失念)は無線で話している内容が聞かれたくないのかちょっと離れたところで会話している。その間、車両のそばに座って待つ。ヴァレリー姐さんは車から降り、私の横に座り、大丈夫だからと言いたげに、私の腕をさすっている。
現在地を確認し、1番近くにいる車両(恐らく蛍光スティックを回収している車両)が私を迎えに来て、コースに戻す。
それだけのことだと思っていたのだが、何だか雲行きが怪しくなっている。
ドライバーのお兄さんが持つトランシーバーから、パトリックらしき声が聞こえてくるが何を話しているのかは分からない。
悪戯に時間だけが過ぎていく、、、。
対応にもめているのか、会話を聞いている他のスタッフ達がいちいち怒ったり、呆れたりなんかして反応している。横に座っていたヴァレリー姐さんも、他の女性スタッフを呼び、私に紹介し、隣に座らせて私のお守りをさせ、その話し合いに参戦しに行った、、、。
なんか、大ごとになってますか?
大会車両が迎えに来て、コースに戻してくれるって話がどうやら一転したようだ。
ヴァレリー姐さんが戻ってきて、「制限時間の心配をしているのは分かってるわ。コースは北方向だから、先に歩き始めていていいわよ。後から私たちが追いかけてきて先導するから。」と言う。
えっ?先に行くのはいいんですが、どういう話になってますの?
「コンパス持ってるわよね?」とヴァレリー姐さん。えっ!?こ、コンパス!?あるにはあるけれども、びとーさんの100均のやつですわ。まさかのここで抜き打ちチェックもどき、、、(注3)
「iPhone持ってるなら、iPhoneのアプリでもいいじゃない?」
と助け舟を出すお兄さん登場。
手に持っていたiPhoneを操作し、コンパスアプリを見せる。
ヴァレリー姐さん、私のiPhoneで北方向を探し、
「ずっとこの方向に進んでいけばいいわよ。」と、そんなところに「いや、北西だよ。」とか給水チーム内で論争勃発だ。
ちょっと道に迷っただけなのに、なんでこんなことになってますの....(涙)
終わった、これ終わったわ。
元はと言えば、ロストした私が悪い。
だけど、その後の大会本部の対応がグダグダじゃありませんこと?たまたま通りがかっただけの給水チームの人たちが翻弄されてませんか?
と、給水チームに遭遇して1時間ほど経過した頃、ついに答えが出たようだ。
「レナ、車に乗って!連れて行くから!」とヴァレリー姐さん。
「え?え?車が先導して、ランナーは歩いてついていくんじゃないの?」
「パトリックからGOが出たから問題ないわ。もう時間がないでしょ。」
確かに、大会本部とのやり取りでかなりの時間をロスしている。
給水チームの車に乗り込んだ。
真夜中のサハラ砂漠を車でかっ飛ばす。
「ここよ、ここで下ろしてあげて」と後部座席のヴァレリー姐さん。
下された場所がCP3からどのくらい離れているのか、そして、CP4までどのくらいの距離があるのか全く見当がつかない。ガーミンをつけてはいるが、もはや距離を知らせる意味をなさなくなった、、。(注4)
「ここからはあなたの力で頑張るのよ。CP4で待ってるから。」
「ありがとう、みなさん、本当にありがとう。」
ヴァレリー姐さん達を乗せた車両はCP4に向けて去っていった。
今度は道標の蛍光スティックは絶対に見逃さない。CP4まであとどれくらいあるのか全く分からないので、とにかくスピードをあげるしかない。気がつくと、嘔吐とか下痢とかそんな症状が消えていた。今にして思えば、今大会で一番スピードが出ていた時間帯ではなかろうか。
目の前にスイーパーのラクダが見え、どんどん近づいてくる。
「おーい!」
「一体、どうしたの?何があったの?」
「コースロストしてたんだけど、何とか戻ってきた。」
スイーパーのラクダを後ろから追い抜くのは私が初めてじゃない?(なーんてw)
「時間がないからスピードあげていくよー」
とスイーパーを置き去りにし、どんどん先に進んでいく。
「ロストしてたんだってー?」
と、蛍光スティックを回収している大会車両もやってきた。
(いや、つか、何であんた迎えに来てくれないかなあ?💢)
色々言いたいこと、聞きたいことはあるが、とにかく、CP4の関門に間に合うことが先決だ。
無言でひたすら歩く、歩く、歩く。
その空気を読んだのか、スイーパーは少し後を黙ってついてくる。
が、無情にも制限時間の1時になってしまった。
その地点がCP4まであとどのくらいなのか全く分からない。見渡す限りではCP4の影も形もない。
終わった、、
終わってしまった、、
まさかこんな形で終わってしまうとは、、
でも、最後までしっかり歩くよ。
1時30分頃にCP4に到着する。
すると、給水スタッフ総出で拍手しながら私を迎えているではないか。
あ、これ終わったやつな....。
と、一瞬思ったが、「ブラボー!」「よくやった!」「やったね!」と歓声が上がり、大盛り上がりだ。ヴァレリー姐さん始め、道中で会った給水スタッフもいる。CP4で休息を取っているランナー達の視線が私に向いている。
「あれ?タイムアウトじゃないの?」
「何言ってんの?ここでゆっくり休んでCP5に向かうといいわよ。」と姐さん。
また知らないうちに制限時間撤廃されたかな?それとも救済措置?
なんか知らんが助かったわー(注5)
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注1)CP3に着いたら、メディカルスタッフはいなかった、、。
注2、注5) ロードマップ記載の制限時間で動いていたが、実際はスタートが30分程遅れていたので、制限時間もその分ずれ込んでいたことに気がついていなかった。
注3)テクニカルチェックの日にチェックを行うのは給水スタッフ。
注4)ロスト時の顛末をガーミンが全て記録していた。CP3は38km地点のところで、歩き出して1kmくらいからコースを外れ始めていることがわかる。結局、南に5km逸れていた。
51km手前のところで下され、そこからは必死で早歩きしたことがわかる。
【お断り】レース中、実際に起きたことを書いていますが、メモ書きなどして記録をとっていないため、話がチェックポイント、またはレース日で前後している可能性があります。これはこの時ではないよ、とご指摘頂いたら、レポートを全部書き終えた後に再編集し直します。
サポートして頂けると単純なのでものすごく喜びます。サハラ砂漠の子供達のために使います。