落ちる実験(2022/5/7.お題:塔)

 君が塔から落ちるのはそれが初めてだった。
 それを止めようとして間に合わなかった私は、君の後を追って塔から落ちた。

 君が塔から落ちるのはこれで10回目だ。
 ようやく私が間に合って、伸ばした手が君に届いたと思ったら、私も一緒に塔から落ちてどちらも死んだ。

 君が塔から落ちるのはこれで20回目だ。
 今度は下で受け止めようとして、私は君の下敷きになって、君は頭から私に突っ込み、どちらも死んだ。
 
 君が塔から落ちるのはこれで30回目だ。
 また、どちらも死んだ。

 君が塔から落ちるのはこれで40回目だ。
 やっぱり、どちらも死んだ。

 君が塔から落ちるのはこれで10回目だ。
 わかっていると思うけど、今度も、どちらも死んだ。

 君が塔から落ちるのはこれで100回目だ。
 どうやっても、どちらも死ぬ。

 君は塔の上で私に問う。「何回目?」
 私は答える。「108回目」
「ちゃんと数えているんだね」
「もう止めなよ」
「だって、あなたがいつも止めてくれるから、一緒にいてくれるから、いつまであなたが着いて来てくれるのかって試してしまうの」
 そう言って、君はまた塔から落ちた。
 君が塔から落ちるのはこれで108回目だ。
 大丈夫だよ。私は何回だって君を止めるし、君が満足するまで一緒に死んであげるから。
 そうやって、君を追いかけて私も塔から落ちた。
 結局、どちらも死んだ。

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