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【読書感想文】GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代/アダム・グラント

今回もある経営者の大先輩からおすすめいただいた一冊です。
この一冊は、もしも私が人生の中で読む機会を得られなければ、自分の一部にうんざりしたまま生きることになったと思います。なぜなら、私が「ギバー」と呼ばれるタイプに寄っていて、たくさんのテイカーにしてやられてきた事実があるから。してやられる度に自分にうんざりしてしまうのです。ギバーにとってこの本は、思い当たるところ満載で、これまでの自分に寛大になれる一冊です。

人間の3つのタイプ

ギバー:人に惜しみなく与える人
テイカー:真っ先に自分の利益を優先させる人
マッチャー:損得のバランスを考える人

正直なところ、読み始める前は自分のことをテイカーかマッチャーであると考えていた。ただ、周りの人が私のことをギバーだというので、そんなにいい人じゃないと思うけど…と思いながら読み進めることに。
著書は9つのパートに分けられて、ギバーが食い物にされない方法をわかりやすく手解きしてくれている。

ギバーであると自覚するエピソード

ある会社に勤めていたとき、そこの人事担当者が外部の方へ声高に言ったことが疑問だった。「うちの会社は掃除当番とか電話担当とか存在しないんですよ!みんなが時間のある時にできる人がやる制度にしていて、それなのにうちのオフィスはこんなにきれいでしょう?」

実情は全く異なっていて、ほとんどのメンバーがそれらの雑務を他人に押し付け、オフィスは汚れ、ゴミ箱のごみは溢れていたのだ。みんなより早く来て、あるいは残業の後に日付が変わってから、机の上の消しゴムかすを集め、飲みかけのペットボトルの中身を流しに捨てに行き、置きっぱなしの来客へと出したお茶を処分し、掃除機をかけ、机をふき、ゴミを集めてゴミ捨て場まで持っていくのは、ごく限られたメンバーだけだった。
オフィスにかかってくる電話も同じで、多くの人間は何度コールが鳴ろうが気にも止めない。

そうして、自分の業務に集中することで、どんどん出世していく他人を横目に見ながら、でもオフィスが汚かったらみんなが仕事しにくいから…、でも電話を取らなかったらお客様が待っているから…そんなことを考えていた。
実際、人事へ相談したこともあるが、「やらないって決めるという選択肢はできないの?」と言われて驚いた。だって、役割分担してやる仕組みを作れば、業務の一部ならみんなもやることを知っていたから。私は毎日イライラしながら過ごしていた。

この私のエピソードはなかなか面白い。著書を読めば、ギバーがテイカーに相談したということだったのが理解できる。さらに、著書では「職場にギバーはめったにいない。」と書かれている。

実在する人を思い浮かべる

著書の面白いところは、読み進めながら、これまで関わってきた人を3つに分類していけるところにもある。

テイカーは非常にわかりやすくて、裏表があったり、上司に取りいるために必死だったり、お礼をあまり言わない人が多い。著書では、「テイカーなら、得られる利益が損失を上回る場合に限り、相手の有利になるように協力する。」と紹介されていて、実際、普段助けてくれないテイカーが大きくなりそうな案件を引っ張ってきた時だけ協力してくれたことがあった。
同様に生産性の低いテイカーもわかりやすくて、相手の時間を我が物顔で使おうとする。

マッチャーもまた面白い。とにかく正義感が強いような感じがするのだ。マッチャーは常に公平という観点に基づいて行動するので、テイカーに成果を横取りされたときなんて大変で、5時間も愚痴に付き合ったことだってある!基本的には、話を聞いたり、手伝ったりすることが多いため、マッチャーの友人たちはギバーにとってもいい人な場合が多いのではないだろうか。

もっとも成功する人も、もっとも成功しない人もギバー。
生産性の低い「いい奴」がたまにいて、私たちは大抵の場合は仲が良くて、用事がなくても会うし、何年ぶりであろうとも、会えばすぐに温かい時間を過ごせる。でも、本当はこんな「いい奴」こそ、もっと幸せになって欲しいといつも願っている。
そして、著書では、ギバーがイライラしたり、うんざりしたり、みな愛想が良いわけではないことにも触れており、(私も納得できなくてイライラ過ごす自分はギバーではないと思っていたわけだが)読み進めるうちに、その人の基本スタンスがギバーなのかどうかを見ることが必要らしいことに気がつく。

他人からの評価は相手によって全く異なる

実は、ある会社で働いていたときとフリーの今では、他人からの評価に違いがある。その「ある会社」では、社内評価は最後まで低いまま終えている。
たとえば、入社後なんの実績もないメンバーが出世していく中で、最後までやりがいのある仕事ではなく誰もやりたがらない、利益は上げにくいが作業量が膨大な業務ばかりがまわってくる。著書を読めば、いかにギバーの少ない組織なのかが思い出され、反対にギバーを装ったテイカーの多かったことだろう。大抵のギバーを装ったテイカーは、「できる人にどうしても業務量が偏っちゃうものだよね」と言って、成果を上げやすい業務にうまく舵を切っているのだ。なんて自分は要領が悪いのだ、そう思ってうんざりする日々を過ごしながら、うまく成果が出てくるものもちらほらあることに気がついた。

思い返せば、社外の担当者がギバーだったときは世界が広がる。ギバーたちは、自社のリソースも必要と思えば使えるように社内で掛け合い、社外の人間とも一緒に考える傾向があった。業務はさておき、最も印象に残っているのは、私が様々な事情で退職するときに、社外のパートナーたちが新しい仕事を提供しようとしてくれたり、実際に一緒にやろうと声をかけてくれたのだ。このとき働いていた会社では誰もそんなことを言わなかったのは、私の人望がなかったせいもあるのだろう。
これは私の名誉のために(笑)これまで他の会社を辞めることになったときは、どの会社でも次の先を紹介してくれようとしたので、やはりこのエピソードを生み出したある会社では、極端にギバーの少ない職場だったと思うことにしている。

一方で、テイカー×テイカーの熾烈な営業会議を前にして、私にはできそうにないなと思ったけれども、効率よくやっているテイカーに教えてほしいとお願いしたこともあった。そんなとき、テイカーは自分の素晴らしさを誇らしげに話してあとはできるでしょうと言わんばかりなのだ。
最終的にテイカーの多い職場では、外に学びに出かけるしかなくなるため、せっかくたくさんの人が一緒に働いているのにお互いの成長を促進することが叶わなくて、これも悲しかったことを思い出す。テイカー同士であれば、闘争という形で高めあえるのかもしれないが、基本スタンスがギバーの場合はちょっと難しいように感じる。誰かを蹴落としてまで手に入れる利益の価値がうまく飲み込めないからだ。

そして、これ以上はこの場所では成長できる余白が無さそうだと悟ったとき、関わる人を整理する必要があるような気がした。それで、今後も仲良くしたいと思う人や裏表のない人、これまでに成果や時間、金銭やそれ以外のなにかを奪われたことのない人だけと付き合うように心がけたことで、気づけば今現在、周りには圧倒的にギバーが多い。
今、お取引のある会社やたまに会う友人はギバーかマッチャーがほとんどで、たまに会うテイカーもある程度距離を置くことで気持ち的にずいぶん楽になっている。

おかげで、フリーになった今は、テイカーに成果を横取りされて嫌な気分になることもないし、ありがとうをたくさんもらえて暖かい気持ちになる日が多い。いろんなテイカーに助言を求めていた資料づくりだって、今のクライアント(ギバー)とのコミュニケーションのおかげで、すっかり上達したようで、先日は元コンサルさんに褒められて、ちょっぴり泣きそうになった。

ゆるいコミュニケーション

著書の真骨頂は、PART5からだと思っている。PART4まで読み進めると、本性がギバーの人は苦い思い出が大量に想起されることだろう。でも大丈夫!PART5からの内容が私たちを救ってくれる。
私はもう、会議やプレゼンテーションで「力強い話し方」や「強い言葉」を無理に使わない。そもそも向いていない。
著書で紹介されるギバーの話し方が本来の私たちで、今の私だ。

<ギバーのゆるい話し方の例>
・ためらいーー「まあ」「うーん」「あー」「ええと」
・曖昧な発言ーー「どちらかといえば」「みたいな」「かもしれない」「たぶん」「…と思う」
・否認ーー「これはあまりいい考えではないかもしれない、でも…」
・付加疑問ーー「おもしろいですよね?」「いいと思わない?」
・強意語ーー「本当に」「とても」「まったく」

人々がチームで一緒に働かなければならない場合、このゆるい話し方はより影響力を増すというのだ。
本当は、知識として知っていたからこのようにしたのではなく、なんだか無理しなくてもヒアリングもできるし、業務もちゃんと進むし、相手も思いやることができるような気がしていいなぁ、と思って強気な仮面を被るのをいつしかやめてしまっただけの話だ。
でも、これもOKで、実際に今の私が困っていないことからも「パワーレス」のゆるいコミュニケーションで大丈夫と背中を押してもらったような気持ちになった。

ギバーを悩ませている3つの罠

・信用しすぎること
会社員時代に多かった困りごとの一つに、飲み会のドタキャンがある。参加意向を聞くと必ず「参加」なのに、当日行けなくなったと言い、キャンセル料を代わりに支払う羽目になることが度々あった。今度こそ来るんだろうと何度も信用して2人分の会費を毎回支払う自分にうんざりする。驚くことに、当日キャンセルができなくて払って欲しいとお願いすると、口ではわかったと言うのだが、いつまでたっても支払うことがなかった。ここまで恐ろしいテイカーに食い物にされる自分に本当にうんざりするのだ。

・相手に共感しすぎること
とても理想的で本当に実現できたらなんて素敵だろう。相手のする話をギバーは心からそう思って聞いている。だけど、ギバーを装ったテイカーは本当に恐ろしくて、ギバーが擦り切れるまでうまく利用するような場合もある。でも、テイカーと関わらずに生きることなんて不可能だ。世の中はテイカーで溢れているのだから。
著書では、テイカーの考えていることを推察し、相手側の利益を考えることで自分の利益にもあった提案ができることを教えてくれた。そして、ギバーは、「ギバー」「マッチャー」「テイカー」の3タイプを使い分け、相手によって戦略を変えていくというものだ!

・臆病になりすぎること
あまりに多くのテイカーにしてやられると、ギバーは燃え尽きてしまう場合があるという。その燃え尽きてしまうギバーの特徴は「自己犠牲的」であることだそうだ。相手を不機嫌にさせるのも、出過ぎた真似をしすぎるのもギバーにとってはやりたくないこと。だけど、譲歩しすぎるのではなく、自分と相手の双方が得をするチャンスを探すことで(いわゆるwin-winの関係)他者思考のギバーとなり、自己主張もできるようにしていくとよいのだそうだ。

おわりに

「踏み付けにされない方法」を教えてくれたこの本は、相手によってどのように対応を変えると良いのかを学ばせてくれました。そして、この方法を会得するためには、様々なことをもっとたくさん学ぶ必要があるだろうと思います。
私はすでに、利用されるだけにならないようにと考えて進み始めたところでこの本を手にしたけれど、まだ理不尽に悲しい思いをしているギバーの方がいたら、早くこの一冊に出会って欲しいと思います。相手を思いやれるギバーが自分らしく生きることは、きっと世の中にとっても、すごく素敵なことだと思うから。


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