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言葉の具現化

「ピンポーン」
少しだけ暖かくなってきた気だるい午前中、2日ぶりにゴロゴロ言って近づいてきた猫と二度寝を決め込もうとしていたら玄関のインターホンが鳴った。
しゃきっと出るために少々乱雑にベッドから降りたら、猫も飛び起きて「何事ぞ?」と飛び起きて部屋の向こうをうかがっている。

届いた物の中身は分かっていた。推しブランドのフーディーだ。最近はパーカーなんぞと呼んではダサいらしい。ダサいって言うのもダサいよな私。
中身は分かっているのでダラダラと開けようかと思ったそのとき、
「ピンポーン」
またインターホンが鳴る。今度はなんだ?
先ほどと同じ配達員さんがもうひとつの荷物を持って玄関の向こうに立っていた。
「うーん、この荷物は……?」
住所になんとなく見覚えがあったが、差出人の名前は見覚えがない。一瞬迷ったが何も言わずに手に取り受け取った。

ドアを閉じてガサガサとやっぱり乱雑に開けてみる。
あー、香典返しか。喪主の方は友だちの母親だ。道理でよくある苗字に見覚えのない名前。住所が特徴的だったからぼんやりそこに行った記憶だけ浮かんできた。

さてこれはお礼しないと。……ん?お礼?
ちょっと引っかかったので例文などを検索してみた。
なるほど、香典返しってお礼いらないんだ。「繰り返す」って意味になるのか。そりゃいかん。
そんなことも知らないまま大人になっていて恥ずかしい。誰も教えないことが罪ではなく知らないことが罪だって言われるよ、この世の中。インターネットがあって良かった。

残念ながらLINEの例文などはなかったので、「ありがとう」って言わない人って思われてないかなぁなどと余計なことを思いつつ、届いたよの一文と喪主さん大丈夫?と聞いて、友だちの体調も、と。
気ぃ遣うなぁ。こういうの疲れるよね。別に普段仲良くしてるのにね。

つい1週間前にも親しくしていた人が亡くなって、あー髪黒くしなきゃとか、ジェルネイルは普通のネイルのベージュ重ねたらあとで落とせばなんとかなるってネイリストさんに聞いたなとか、喪服サイズ合わねぇなとか超高速で考えてたら、家族葬にするって言われて。
それじゃ落ち着いたらお線香だけあげさせてくださいみたいになったけど、そういうのって形じゃないのにどうして格式ばってんの?

「ご愁傷様」は口頭のみって誰が決めたの?
「残念です」とか「ご冥福を」とかなんか文面で言う言葉まで決まってんの?
おかしいだろ。なんて言ったらいいかわかんないから適当に決めたのかな。
「悲しい」って気持ちはわかるけど個人差もあるし、「悲しいです」って言ったところで故人が還る訳でもなく……。

例えば「LOVE」と「LIKE」の中間がないように、「悲しい」だとか「遣る瀬ない」だとかそういう気持ちを表現する「言葉」って
きっと足りてないんだと思う。
表現する自分の能力も足りてないから、いろんな誤解って生まれてくるところがあって。
心を「具現化」するなにかが欲しいよね。
AIにもまだそれは出来ないんだろうなぁ。

って言いながら香典返しのクッキーを全部たいらげてしまった。消え物、消え物、ダイエットは明日以降!
そういえばフーディーまだ開けてないや。
その前に猫と寝るんだった。こいつはいい。言葉がない代わりにゴロゴロで愛情の具現化をくれる。
人間に言葉なんてない世界線てどんな世界なんだろうね。

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