おもひで
いつかの記憶。忘れないおもひで。
これは恋の話ではない。
あの子は純粋な子だった。
好きなものは好き、嫌なものは嫌。
ハッキリとした性格だった。
子どもだから仕方ない。
子どもの気持ちを掴むには、あれこれ難しく考えないことだ。
ドッヂボールや鬼ごっこ……。
子どもの頃限定の遊びを一緒になって本気でやる。
ピアノや絵、誰でもできるようなことがほんの少しだけ上手くできる。
ちょっとしたことでみんな興味を持ってくれる。
あとは、子どもだからといって安易に子ども扱いしないことだ。
アルバイトの初日。ピアノを弾くと、みんな集まってきてくれた。
でも、数分もすれば、飽きてそれぞれ遊びに行ってしまう。
みんなが遊びに行った後、あの子はそっとやってきて、自分が弾ける曲を聴かせてくれた。
ある日、あの子が思い出の曲だと言っていた曲を、簡単なピアノ譜にして持っていくと、うれしそうに練習してくれた。
毎日ピアノの前に座り、話をしたり、練習したり。
夏の終わりが近づいたある日。
突然、あの子は僕のひざの上にちょこんと座った。
あの時の笑顔がぼやけることはない。
夏の終わり。夕暮れ時は心地よいあたたかさだったのを覚えている。
あの子が描いた「モモンガ」の絵。
紙の端っこに小さく描いてあった絵。
子どもらしく、かわいらしい絵。
子ども達の記憶は残酷で、ひと夏の記憶なんて、ひと月もしないうちに忘れてしまう。
あの子より少しだけ大人な僕は、あの日のおもひでを忘れられず、今日も「モモンガ」の絵を描いている。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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