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リモートワークが破壊するもの

(リモートワーカー協会理事 石倉秀明)

リモートワーカー協会では、リモートワークをする人に少しでも有益な情報を届けることや、国や自治体に働きかけることを目的とした団体である。先日、第一弾で代表理事の中島の記事を公開したが、今後、理事たち中心に持ち回りで定期的に発信をすることになった。
第二弾の記事は「リモートワークが破壊するもの」について書いていこうと思う。

2020年から続くコロナ禍の影響で一気にリモートワークをする人は増えた。まだ社会全体に「リモートワーク」という働き方が広まって2年半弱なこともあり「オフィスとどっちが生産性が上がるか?」といった表面的でテクニカルな議論がほとんどである。

私が経営している株式会社キャスターは2014年の創業からずっとフルリモートワークだが、その中でリモートワークの普及により「破壊されるもの」が2つ見えてきた。今回はそれについて以下に述べていく。

1つ目は「男性中心社会の破壊」である。

いわゆるホワイトカラーと言われる人の働き方は「週5フルタイム、オフィスで働く」が当たり前(=標準ルール)とされている。それ以外の人、例えばお子さんが小さいので時短勤務の人、介護があるから週3程度の勤務の人、オフィスに通える距離に住んでいない人、障がいのある人(例えば、パニック障害で満員電車に乗ると発作が出てしまうなどの人も含め)は、働くこと、つまり所属することは許されても給与が減らされてしまったり、昇進ができなかったり、異動が制限されたり、キャリア選択の幅が狭くなったりなどが通常だった。つまり「週5フルタイム、オフィスで働ける人」、究極的にいえば長い時間一緒にオフィスにいてくれる人が普通で、それ以外の人は「普通以外」とされてきました。そして普通とされるのは総じて男性が中心である。そうなると働き方や職場のルール、人事制度、福利厚生等も男性中心、普通と言われる人目線での設計になるのは当然だ。

ただこれがリモートワーク、特に出社義務のないフルリモートワークになると全く景色が変わる。上記で挙げたような「普通以外」の人たちがどんどん活躍し、職場の中心、意思決定層に入ってくることになる。キャスター社でもお子さんや介護やっている人、転勤族の人などいるが、そういったメンバーもガンガンフルタイムで働いている。つまり彼らは「働きたくない」のではなく「働きたいけどそうできない条件」だっただけだ。
キャスター社の例でみても12人いる執行役員、取締役のうちおよそ半分は女性ですし、時短勤務の執行役員もいます。部長以上になると7割以上が女性。そうなるとやはり人事制度や福利厚生の考え方もガラッと変わる。何も考えなくても多様な属性を意識した意思決定になる。そうなると、より多くの多様な人が集まってくる、という流れが起きる。

これは完全にリモートワークで会社を経営しているからこそ起きている事象であり、「男性中心社会」の論理を簡単に破壊している。

2つ目は「空気重視文化の破壊」である。

口頭でコミュニケーションできたり、目の前に人がいた場合はある意味「よしなに」仕事をしてもらうこともできた。忙しい時や話しかけて欲しくない時はオーラ的なものを出して、周囲に察することを求めることもできる。

阿吽の呼吸、というとよく聞こえるが、空気を察することを前提とした文化は「発信する人(=主に偉い人)の甘えを生む」構造であり、「同調性を必要」とする文化で、圧倒的に多様性とは相性が良くない。また「空気を読む」には、長く一緒に過ごした方が有利であり、毎日一緒に残業して帰りに飲みに行くような関係性の人ほど有利になる。

特に、「発信する人(=主に偉い人)の甘えを生む」構造は致命的である。
管理職やマネージャー、リーダーなのに自分の言葉で自分が考えていることをしっかり伝えなくてもなんとかなってしまう、なんとかならないのは感じられない人のせい、という風潮が強くなりがちである。周囲に理解してもらうにはどうしたらいいか、どういう手段を使えば伝わるか、どういう言葉だと伝えたい意味に近いか、など発信する人が考えるべき能力が全く育たない。これでも成り立っていたのはコミュニケーションが口頭で、かつその場に人がいたからにすぎない。リモートワークになると、チャットなどを通じてテキストでコミュニケーションを取らないといけなくなるので雰囲気だけ書いても相手はわからない。きちんとした論理的な日本語が求められることになる。

仕事なので当たり前といえば当たり前ではあるが、これをしなくてよかったのが今までの仕事の仕方でもある。だからこそちゃんと仕事しているかどうかよりも発言が多かったり、コミュニケーションが上手な人、察する力が強い人が過大評価されていたのだと思う。そうではなくきちんと理解し、役割を果たせる人。きちんと言いたいことを整理して伝えたり、相手の言いたいことを理解できるという至極真っ当な能力こそが求められるのがリモートワークである。

実際に、キャスター社で活躍し、部長になっているメンバーの中でマネジメント経験がないメンバーの方が多いくらい。それくらい「空気重視文化」の中では実力があっても評価されにくい人がたくさんいる。空気重視文化が破壊されると、人とのコミュニケーションを丁寧に根気よくやらないといけなくなる。ただ、それだけコミュニケーションを重視する人、丁寧な人、言葉選びに気をつけられる人などが組織の中心になることは活発な議論を生んだり、心理的安全性を作る上ではいいことだろうと思っている。


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