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リモートワーク、拡大か縮小か、時代の本流を見極める

(リモートワーカー協会代表理事 中島洋)

リモートワーク(テレワーク)について相反するニュースが報じられている。
リモートワークを進展させる大ニュースは、「NTTが全社員に原則リモートワーク、日本全国どこに住んでいてもリモートワークで働ける」という「リモートスタンダード制度」を7月1日から実施したというものである。NTTだけではない。日立や富士通など巨大IT企業でもすでに在宅テレワーク勤務が制度化され、転勤辞令が出ても居住地は前任地のままで異動先の業務をリモートワークでこなす事例も出ている。しかし、お役所的な保守的体質が色濃いNTTが新制度を設立したということで、そのインパクトは強烈だった。
逆に、水を差すニュースは日本生産性本部がまとめた「働く人の意識調査」だ。
 調査によると、全産業で「テレワークの実施率は16.2%」。前回2022年1月調査の「18.5%を下回り」、2020年5月に調査開始いらい、最低を更新した。相対的に実施率の高い、「1,001名以上」の企業でも前回調査の「33.7%から27.9%に減少」した。年代別では「20代で12.0%」「30代で15.5%」きわめて低水準である。自宅での勤務の満足度について、「満足している」「どちらかと言えば満足している」合計は「前回4月調査で過去最多の84.4%を記録したものの、今回は75.0%に減少」したという。


筆者は10年近く前から5年間程、日本テレワーク協会の「テレワーク推進賞」の選考委員を務めていた。その5年間で国内企業のテレワークが急速に浸透したことを実感した。
当初、外資系企業の日本法人が先進企業だった。本国で進んでいるテレワークを日本法人も同様に採用されていたため、いくつかの外資系が異色のテレワーク実践企業だった。10年近く前の日本企業では、最も進んでいる企業でも、育児や高齢の家族の介護のために月に数度の在宅テレワークが認められる程度で、こうした制度を創設した企業が表彰対象になった。


しかし、その後、急速にテレワークが広がり、日本企業でも、育児や介護の条件が不要になった。期間も月に数日から週に数回と伸びた。働き場所をオフィスの外に認められるようになり、理由を問われることのない企業が増えた。営業部門の直行直帰、研究開発経理、総務、人事、企画部門などと職種も一挙に広がった。1年間のテスト期間を経て本制度に格上げする企業も増加した。これが5年間で進展したテレワークだ。
それでもコロナ前には、リモートワーク実行者は5%にも届かない状況だったので、「低迷している」という最新の調査結果でも、「ここまで来たか」との感慨がある。
もちろん、コロナ感染予防で行政側から「感染リスクがある通勤を避け、リモートワークでビジネスを継続してほしい」という強い要請があって一気に在宅テレワークが広がった。
それがコロナに収束の気配が出るとリモートワークの実施率が後退してしまった、というわけである。


本当にリモートワークは一時の例外的事象に終わってしまうのだろうか。
否である。リモートワークは省エネルギーを求める大きな潮流を背景にしている。また、企業に生活の大半を拘束されていたこれまでの働き方を見直し、ワークライフバランスや兼業・副業の自由などの働き方の多様化と呼応した仕事のスタイルである。日本の場合は居住環境から、在宅ワークが難しいなどの事情があるが、新しい需要の発生を見逃すはずはない。不動産会社や鉄道会社や新興企業がいち早く、オフィス外、自宅外でリモートワークできるシェアオフィスやサテライトオフィスのチェーン展開を始めている。喫茶店やホテルなどもリモートワークできる作業環境を提供し、営業効率を高めようとしている。一部だが、在宅ワークの問題を解決するため、狭い都心の住居から広い郊外や地方の住居に移転する動きも出ている。


生産性本部の調査に現れた「オフィスへの回帰」こそが一時的現象である。
リモートワークは働き方改革を後押しする。兼業・副業への機運が強まるだろう。能力を一つの企業、一つの職種に閉じ込めるのは社会全体からみれば人材の無駄遣いである。リモートワークは働き方改革の入り口だ。ビジネスに携わる個人がいくつもの企業、いくつもの業務に能力を解放することで、日本経済全体の総合力が強大化する。


NTTをはじめとした日本の大企業までが働き方の見直しを始めた。錯綜するニュースの中で、リモートワークを働き方のスタンダードにする、というトレンドこそ、未来へと向かう「本流」だと見定めたい。



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