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サテライトオフィス王国、徳島県首位陥落が意味すること

(リモートワーカー協会代表理事 中島洋)

 在宅型のリモートワークとは趣旨が少し異なるが、分散型の文化が広がる現象の一つとして注目すべきことに「サテライトオフィス」がある。人口が少なくなった地域に高速通信環境を作ってベンチャー企業を誘致し、少数の社員が自然の中で都心の本社とネットでつながりながら業務に当たるー-端緒を開いたのは徳島県である。10年以上も前から、首都圏に本社を置くITベンチャーが多数、サテライトオフィスを設けてきた。筆者が審査委員を務めていた日本テレワーク協会のテレワーク推進賞では最高の賞を授与し、地方創生のモデルとして大きな話題を呼んだ。

 しかし、この徳島県の「独走態勢」は大きく揺らいでいるらしい。

 総務省の発表によると、サテライトオフィスを誘致する都道府県で、2021年度末の都道府県内拠点数第1位は北海道の110か所、2位新潟県95か所、3位岐阜県89か所、徳島県は4位に順位を下げて86拠点、5位長野県の79か所、6位静岡県73か所にも追い上げられている。1年間の拠点の増加数は、徳島県の9か所増に対し、北海道は24か所増、新潟県38か所増、岐阜県60か所増、長野県28か所増、静岡県32か所増と、かつてトップを走っていた徳島県は今年度末には6位以下に後退しそうな状況である。

 この1年間の激しい順位の変動の理由は、もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大でオフィスに集まって仕事をする従来型の方法が継続できなくなったためだ。大半の企業で通信ネットワークを使いオフィスの外で業務をこなすテレワークを採用せざるを得なくなった。在宅勤務が基本になったが、自宅には執務用デスクがない、家族が一緒で集中できない、通信環境が貧弱だなど、在宅が難しい社員も多い。

 近隣の駅周辺にサテライトオフィスができれば、日中はそこで作業をしたいという社員も出てくる。実際、ターミナル駅周辺に個人利用や中小企業の法人契約で利用するサテライトオフィスを展開する不動産会社や鉄道会社が経営するチェーンも出現している。
また、若手社員の中には、どうせ本社のオフィスを離れてテレワークするなら、思い切って地方の自然豊かな環境で働きたいという希望も芽生えてくるだろう。優秀な若手技術者を擁するITベンチャーなどが、地方自治体が企業誘致を進める「地方創生型」のサテライトオフィスに進出する例も多い。徳島が端緒を開いた方式である。最近、総務省の集計に現れているような、各地で急速に伸びているのは、こういう「地方創生型」である。

 総務省の集計には、不動産事業者や鉄道事業者が展開する「都市型」「郊外型」や観光地のホテルなどが一部を改装して「ワーケーション」ユーザーを狙った「リゾート型」がどこまでカウントされているのかどうか、明確でないところもある。「都市型」「郊外型」を入れれば、サテライトオフィスの拠点数はもっと多いはずだ。総務省の集計は「地方創生型」に寄っているかもしれない。

 ただ、総務省では、手厚い優遇策で誘致したサテライトオフィスの場合、「早期撤退企業が多く、定着への取り組みが課題」「進出企業への進出後の支援が不足」などの問題点を指摘している。

 ただ、この際、定義をどうするかは問題ではない。重要なのは、本社のオフィスに集まって仕事をする、という常識が大きく覆りつつあることだ。「都市型」「郊外型」「リゾート型」「地方創生型」のどういう形であれ、サテライトオフィスの利用が増えれば、リモートワークは着実にワークスタイルとして定着する。

 それと関連して「兼業」「副業」の自由化も進むだろう。企業の側も、遠隔地とリモートワーク環境での業務に慣れてくると、社外の能力に目が向いてくる。地方拠点に移動した専門知識をもつ人材やスモール企業に対し、リモートワークを原則にしたパートタイムの業務の発注も抵抗感が薄れてゆくと思われる。

 徳島県は順位を下げたことに危機感をもち、さらに誘致を促進する施策を検討しているようだが、徳島県の拠点数の全国順位が低下しているとはいえ、まだ、10%近い高い伸び率で増加している。全国ではもっと勢いよく増加しているということだ。サテライトオフィス拠点の急速な拡大の延長線上には、働き方の根本的な変化、リモートワーカーのビジネス社会でのさらなる認知が待っているはずだ。

 リモートワークに必要なセキュリティー技術や離れていても一体感を持てるような環境を提供する会議システム、快適なコミュニケーションを促す仮想現実の技術なども発展してくる。総務省の集計結果の背景には、リモートワークが当たり前になる時代がすぐ近くに来ていることがはっきりと読み取れる。

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