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活用しよう!! 地方自治体、「ワーケーション」への熱視線

(リモートワーカー協会代表理事 中島洋)

 観光地をもつ多くの自治体がテレワーク(リモートワーク)の定着に期待を寄せている。「ワーケーション」「リゾートテレワーク」などリモートワークによって仕事と観光を融合させれば、新たな観光需要の創出だ。「働き方改革で地域を活性化させる可能性がある」として各地で推進施策が試みられている。補助金などでワーケーション体験の費用を負担する自治体も多い。これまで在宅でリモートワークしている人も、たまには利用できる観光地の推進策をみつけてリゾート地での新しい体験をしてみるのも悪くはないだろう。

 ただ、ワーケーション需要を呼び込もうとする自治体にはその働き方についてのイメージが明確になっているとは感じられない。推進のための施策も、観光事業者には施設改修の経費の補助金、実施する企業や個人には旅費の補助といった程度で、どうしてもワーケーションを試してみたい、という気になるには今一歩の施策ばかりと思う。

 元々、「ワーケーション」は働き方改革の一環として自発的に生まれたものではない。発端は2020年の東京オリンピック・パラリンピックによって予想された首都圏の混雑に対する緊急避難的アイデアだった。大量の観光客の来日が予想されて、20年の7月から9月までの首都圏は混乱し、日常的なビジネスを進めるには障害になるかもしれない。通勤に支障が出る恐れもある。オリンピックを混乱させようというテロの危惧もある。サイバー攻撃によって商業施設、オフィス、行政が機能マヒするかもしれない。

 警備当局も大量に訪れる観光客の安全を守るだけでも大変で、ビジネス環境の安全まで手が届きにくい。ということで、この期間、企業に首都圏を離れて地方に「疎開」してもらいたい、というのが発端である。ちょうど夏休み時期で子供たちも旅行に連れだせる。夏のレジャーも兼ねて観光地でテレワークを利用して働くことができないか、というのが「ワーケーション」の発想だった。いわば、「官製」の働き方改革の提案である。

 それに飛びついたのが長野県、和歌山県などの観光施設が豊富な地域である。

 19年には両県が中心になってワーケーション自治体協議会が設立された。当初、最も参加が期待された沖縄県の腰が重く、呼びかけに応じなかったが、これはイメージがわかなかったからだろう。県としては後から参加することになったが、沖縄では県庁が動くより早く民間が動いていた。ホテル業界はビジネスマンが仕事に取り組めるリモートワークで使える装備をし、実質的にワーケーションが進行していた。民間はすでに独自で実施しているので県に要望しておらず、県の方ではリモートワークの浸透に気づかなかったのだろう。

 しかし、ビジネスの世界ではリモートワーク軸に着々と働き方に変化が生まれてきていた。劇的に変化を推し進めたのは新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛だったが、それ以前からリモートワークの利点に気が付いた企業や個人は増加中だった。オンラインによる日常業務処理、オンライン面談、オンライン会議、オンライン商談、自宅や遠隔地にいたままで、都心のオフィスにいるのとそう変わらずに仕事ができる。出張中もノートパソコンを持って日常業務がこなせる。ホテルやレストランで、地方支店や営業所で、リモートワークするのに抵抗感は小さくなっていた。

 すでに地方の名勝地でもオンラインによる働き方を実践してきたビジネスマンには、「ワーケーション」と改めて名前を付けられるとびっくりするが、ワーケーションはもう少し深い意味があり、「家族ぐるみのバケーション」という思いもこもっている。ビジネスマンがリゾート地でリモートワークしている以上の中身がある。

 真っ先に手を挙げた和歌山県の南紀白浜は、近くにパンダで有名なアドベンチャーワールドがある。お父さんか、あるいはお母さんがリモートワークしている間、家族はリゾート地ならではの夏休みを楽しむというイメージがある。アドベンチャーワールドのような超魅力的観光施設がある地域はそんなに多くはないが、山や海、スポーツと家族がある程度、楽しめるリゾート地もある。夜は家族そろって食事をする。ビジネスもレジャーも、というのは本人が双方を楽しむというだけでなく、家族がリゾート地に滞在して昼間、ばらばらにビジネスとレジャー、という形も想定してのワーケーションだ。

 新しい働き方の形として、ワーケーションに補助金をつける「お得な」地域をネットで探すのも楽しい。実際に行かなくとも、探すだけでもストレス解消になるかもしれない。できることなら、その補助金も活用してみたいが。

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