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【リモホス】Club Venere 第1話【リモート☆ホスト】

――TOKYO-K。
高架を走る電車の向こうにそびえ立つ高層ビル群。
この街を支える最寄り駅は乗降客数が一日に353万人というモンスター駅。
昼間はビジネスマンや学生他、買い物客、観光客など多種多様な人々が行き交う。
だが、夜になるとまた新たな表情を見せる。
街中にネオンが光り出し、昼間とはまた違った賑わいを見せ始める。
そして……この街の一角に建つこの店も開店の時間となる。
――Club Venere。(クラブ ヴェネーレ)

Venereとはイタリア語で金星の意。金星は美の女神ヴィーナスの名前がそのまま使われており、まさにこの店もお客様達にヴィーナスのように美しく輝いてもらいたい、という願いが込められている。それと同時に、金星は日没後、一番最初に輝く『一番星』とも呼ばれる。だからこそ、ホスト界の一番、一番輝く星を目指そうという気合も店名に込められていた。

さぁ、Club Venereの扉を開こう。
一歩中へ踏み入れれば、今宵も新たな出会いがあなたを待っている……。

   ×   ×   ×

夕方17時半……。
Club Venereには、ちらほらとホスト達が出勤してくる。
店のバックヤードにはロッカールームの他、パウダールーム、シャワールームも完備。
ここでは、ホスト1本の者はもちろん、学生の傍らで働く者、他の仕事と掛け持ちする者……様々な者達が働いている。
しかし、そんな者達が目指しているものは同じ。

――『ナンバー1』。

この店で働く誰もが『ナンバー1』を目指している。
その野心をあからさまに表に出す者もいれば、興味なさそうに見せながらも心に秘めている者もいる。

店の売り上げ順位は様々なところに影響する。たとえば、店のバックヤードにあるパウダールーム。これは大小2つあるのだが、売り上げ順位に応じて使える部屋が変わる。
ホスト達の大半は小さなパウダールームを譲り合いながら使う。鏡台も人数分揃っていないので、誰かが使っていたら、使い終わるまで待つしかない。しかし、売り上げトップ5の選ばれしホスト達は扱いが大きく違う。
5人だけの大きなパウダールーム、通称『ビクトリールーム』を使うことができる。そこにはもちろんそれぞれ専用の化粧台があり、『ビクトリー』と名のつく通り、かなりゴージャスな装飾がされている。

Club Venereではホストたるもの、この『ビクトリールーム』を使えるようになるのが一つの目標であり、売れっ子ホストのステイタスだ。

   ×   ×   ×

――早速、そのビクトリールームを覗いてみる。トップ5のうち既に1人が出勤しているようだ。

入口ドアに一番近い鏡に向かってメイク中の夕星(ゆうづつ)である。彼は現在、売り上げナンバー5。この店に入ってからずっとナンバー4,5あたりをキープしている。

陶器のような白い肌の夕星は今日も鏡に向かって、肌の手入れに余念がない。傍らにはアロマディフューザーから噴射される白い霧。彼の鏡の周りはいつもアロマオイルのナチュラルないい香りが漂っている。

さらにもう一人のホストがやってきた。
売り上げナンバー4の金多(かなた)だ。
夕星の隣の椅子にデン!と勢いよく座ると、夕星の化粧水の瓶ににょきっと手を伸ばした。

金多「お、夕星、これ貸りるぜ?」

夕星は鏡越しにあきれ顔で応える。

夕星「――尋ねるまでもなく、既に手に取っているようですが」
金多「まーな。つーかさ、夕星って、いつもスゲーいい化粧水使ってるよな」
夕星「いい加減、自分で買ったらどうです?」
金多「そうしたいんだけど、また負けちまってさぁー」
夕星「今日は何ですか?馬?ボート?それとも……」
金多「お馬ちゃ~ん。『2-3』が来るってマジ信じてたんだけどよ、最後の最後で抜かれちまってぇ。あー、くっそ!負けた分、今日も稼がねーと」

金多はそう愚痴りながら、夕星の化粧水を遠慮なくたっぷりと手に取り、パシャパシャと肌になじませた。
そんな金多に夕星は呆れた様子で一言。

夕星「稼いだところで、どうせまた全部ギャンブルに全て消えてしまうのでしょう?」
金多「他に何に使うっていうんだよ?」
夕星「化粧品ですね」
金多「俺はそんなもんよりロマンを買ってるんだ!いいか、俺は次こそ万馬券当てて、ぜってー大金持ちになってやる!そしたら、夕星に今まで借りた化粧水代もドーンと何万倍返しで返してやっから!この店も俺の金でもっともっとでっかーくしてやるぜ!楽しみにしてろよ」

金多は夕星の肩を勢いよくポンと叩いた。
夕星は呆れ顔で溜息をつく。

夕星「はぁ……いつになることやら」

――そこへ今度は明星(みょうじょう)が現れた。
明星の売り上げは現在ナンバー2である。

金多「あ、明星、お疲れーっす」
明星「珍しいこともあるもんだな。金多が俺より早く来てるなんてよぉ」
金多「早々に第3レースで負けちまってさー。金すっからかんだから最終レースまで待たずに帰ってきたってわけ。んでさ……」
明星「説明はいい。別に興味ねぇーし!」

そう言って金多の説明をさっさと制する明星。
鏡台に座り、クールな表情で淡々と準備を始める。

続いてバタバタと音を立ててまた誰かやってきた。
――愛抱夢(アダム)である。

愛抱夢「ねーねー、ルー様、まだ来てない?」

愛抱夢は現在、売上ナンバー3。
ちなみに彼の言うルー様とは、この店Club Venereのオーナーであるルシ
フェルのことである。

夕星「オーナーはまだ来てないと思いますが」

肌の調子を整えながら夕星がこたえる。

愛抱夢「そっかぁ。早く来ないかなぁ。ルー様に早く見せたいのに」
金多「同伴じゃね?」
愛抱夢「えー、ルー様、今日は同伴ないって言ってたよぉ」
金多「うわ、お前、そんなのもいちいち確認してるんのかよ、キモッ」

愛抱夢に対し、ドン引きの金多。
明星は黙ったまま、やれやれという顔で準備を続けている。

愛抱夢「何時に来るのかな?ルー様、今どこか連絡してみようかな」
金多「やめとけって」
明星「開店前まではプライベートな時間だろーが。オーナーだって予定ってもんがある」
愛抱夢「でもぉ~、少しでも早くルー様に見せたいんだもん」
夕星「そんなに急いで何を見せたいのですか?」
愛抱夢「え?分からない?ほらぁ!」

愛抱夢はその場でクルンと一回転し、ポーズをキメる。

金多「は?全然分かんね」
愛抱夢「えー、ホントにわかんない?明星も?夕星も分かんない?」
夕星「全く分かりませんね」
明星「(無視して準備を続ける)……」
金多「当てても賞金でない質問には興味ねーし」
愛抱夢「そんなこと言うなって~。ほら、見てよ、見てよ!俺の髪型、超変わったろ?」

もう一度、ターンしてポーズを決める愛抱夢だが、皆、全く興味もなさそうである。そもそも愛抱夢の髪型なんて、今まで誰一人気に留めたことはない。

金多「……」
夕星「……」
明星「……」

特に反応できない3人。
しかし、愛抱夢は興奮気味に話し続ける。

愛抱夢「出勤前にね、ルー様と同じ美容院行ってきたんだっ!美容師さんも同じ!さすがルー様ご担当の美容師さん、なかなか予約取れなくてさー。半年待ちだったんだ。指名料もハンパなくてさー。これでルー様の髪型に近づけたかな?名付けて『キング ルー様ヘア』!ね、どう?どう?」

愛抱夢が騒いでいると、最後に輝石(ダイヤ)が出勤してきた。輝石はClub Venereの現在ナンバー1ホストである。

輝石「どうしたの?愛抱夢」

輝石はやさしく自然に声をかける。

愛抱夢「あ、輝石だ~!ね、輝石なら分かるよね?ジャーン!俺の髪型!キング・ルー様ヘア!」
輝石「ああ、ホントだ。美容院行ってきたんだね。似合ってるよ」
愛抱夢「わぁ!さすが輝石だね!うちのナンバー1だけあるよ!」

わいわいとはしゃしゃぐ愛抱夢。
すると、不機嫌に明星が呟いた。

明星「それ、ナンバー1関係ねーだろ」
愛抱夢「でも、ホストなら、イブ達のちょっとした変化にすぐ気づかなくっちゃダメだと思うよ!口紅の色変えた?とか、髪型変えた?とか、ネイル、かわいいねとかさ。ルー様も言ってたじゃん!日頃からイブ達の変化に気づかないようではダメだってさ」

ちなみに愛抱夢の言う『イブ』とは、彼のお客さんのことである。愛抱夢は店に訪れる女性達のことを愛情を込めて、『俺のイブ』と呼んでいるのだ。
こうやってお客さんのことをいろいろな言葉で呼ぶホストは割と存在する。この店で言うと、夕星や明星がお客様のことを『姫』と呼んでいる。

夕星「姫に対してなら、すぐに気づきますが」
明星「あくまで興味の問題だ」
金多「そーそー。お前に興味持ったところで、1円の金にもなんねーし」
愛抱夢「そんなぁ。みんなそんなに俺に興味ないのぉ?――でも、ま、いっか。俺が興味を持って欲しいのはルー様と俺のイブ達だけだし!あ~、早くルー様来ないかな、来ないかな~」
金多「あー、もう、うっせーな!」
夕星「開店前は静かに準備をしたいものです」
明星「どこか消えてくれない?」
愛抱夢「え~、ひっどーい!ね、輝石~、輝石だけは味方してくれるよね!」
輝石「そうだね。じゃあ、愛抱夢はさ、そんなにオーナーが来るのが待ち遠しいなら入り口で待ってたらどうかな」
愛抱夢「そっか!外で待ってればいいんだ!
さすがナンバー1!ナイスアイデア!俺、入り口でルー様をお迎えする!じゃっ」

すぐさまビクトリールームをバタバタとまた音を立てて出て行く愛抱夢。

夕星「全く……相変わらずのオーナーLOVEですね」
金多「LOVEってより、オーナーに気に入られて、待遇よくしてもらおうって魂胆じゃね?」
明星「待遇よくしたいなら話は簡単だろ。姫達をもてなし、ナンバー1になればいい」
金多「それがなかなかできないから困ってるんじゃないか。だからこそ俺は!ギャンブルで勝つ!」
明星「そうやっていつも現実から逃げる…」
金多「そういう明星だって、輝石が来てからナンバー1になれたこと、一度もねぇくせによ!」
明星「……っ」

明星の体がピクと動いた。まさに彼が一番突かれたくないところを突かれてしまった。
明星もかつてはナンバー1の常連であった。ところが、輝石が入店してからというもの、ナンバー1は輝石がずっと独占。どんなに頑張って努力しても一度もナンバー1になれたことがなかった。だからこそ、明星は勝手に輝石に対し、一方的にライバル心を持っていた。

じっと黙ったままの明星。

金多「おい、どうしたんだよ」
明星「……」

すると、輝石が金多をやさしく制した。

輝石「ほらほら。金多もしゃべってばかりいないで、準備しないと。その間、君にもハーブティーいれてあげるよ」

そういって金多の肩をポンポンとやさしく叩くと、誰かがなぜか用意したらしい、『輝石専用ハーブティールーム』へと向かう輝石。

そんな輝石を見て、明星はイラっと一言。

明星「何がハーブティーだ……しかも店内の限られたスペースにあんな専用ルーム作りやがって」
夕星「ナンバー1だから、オーナーも許可したのでは?」
明星「なんでもナンバー1様かよ……」

そうボソリとつぶやく明星に金多は指をさして宣言する。

金多「いいか、明星。これだけは言っておく。俺はいつか絶対に勝ってやる!俺にはギャンブルの神がついてるんだからな!」

すると、今度は夕星が突っ込んだ。

夕星「フフ。私には貧乏神しか見えませんけどね……」
金多「あのな!」
輝石「ほら、ハーブティーいれてきたよ。みんなの分も(ニコッ)」

輝石はみんなに高級カップにそそがれたハーブティーを配り始めた。殺伐となりかけたパウダールームも、ハーブティーのやさしい香りに包まれる。

まさに輝石はそんな、みんなをやさしく包み込む天性の『何か』を持っていた。彼がいるだけで皆が調和を取ることができる。しかも不思議なのは彼自身全く狙っておらず、自然にやれていることだ。だからこそみんなに好かれ、信頼もされる。まさにナンバー1たるゆえんがそこにある。と、同時にそこが明星にとって輝石の気にくわないところでもあった。

明星は心を落ち着けようと、スマホの画面をスクロールする。そこに写るのは、彼の飼っているペットのうさぎのラブちゃんの写真達。
ラブちゃんこそ、今、明星のことを癒してくれる唯一の存在であった。こうやって、イラっとした時は、ラブちゃんの写真を見るのが一番だ。

明星「ラブちゃん……マイラブ……フフ」

写真を見つめるなり、おちつきを取り戻し、自然と笑顔になる明星。さらに、自宅の部屋に設置したライブカメラをスマホで起動する。
そこに映るのは、現在のうさぎのラブちゃん。明星は勤務中のラブちゃんが心配なあまりに、こうして部屋にライブカメラを設置し、いつでもラブちゃんの様子を確認できるようにしているのだ。

明星「ラブちゃん、お仕事終わったら、すぐ帰りまちゅからね~♥」

やさしい笑顔になる明星。
すると――ふと、ドアの向こうから嬉しそうに騒ぐ愛抱夢の声がビクトリールームまで聞こえてきた。

愛抱夢(声)「――ね、いいでしょ?この髪型!ルー様と同じ美容師さんに切って貰ったんだよ! ルー様っぽくしてってお願いして」

夕星「(聞こえ)……オーナー、来たみたいですね」

時計を見ると18時半になろうとしていた。
ホスト達は開店前に店内の掃除はもちろん、グラスやおしぼりの準備もする。華やかなホストの世界も裏では地味な作業も多い。時にはお酒やつまみの買い出しにいくことだってある。
イベント前にはダンスの練習やシャンパンコールの掛け声の練習も行われる。全ては来店するお客様を完璧な状態でお迎えする為だ。

だが、このビクトリールームにいるこの5人については、売り上げナンバー5の為、雑用は免除される。まさに店の中のカースト制である。

   ×   ×   ×

店のオーナーであるルシフェルを囲み、開店前の最終確認のミーティングが行われている。

ゴージャスなシャンデリアは今夜も煌めき、大理石の床は埃一つなくピカピカに輝いている。ベルベット調のやさしく身体を包み込む高級ソファー、テーブルに1ミリもずれることなく並べられているシャンパングラス達……。

ルシフェルは不備はないか、自分で設定した店内のチェック項目を確認していく。

ルシフェル「床、オッケー!……ソファー、オッケー!……グラス、オッケー!……お酒、オッケー!」

――かつて同じこの街に存在していた伝説のホストクラブ、『Club Galassia』。(クラブ ガラッシア)
ルシフェルはその店でホストをしていたのだが、その頃からの教えをこの店でも実践していた。全てはお客様により快適に過ごして貰う為……。楽しいトークと美味しいお酒で思う存分楽しんでもらうには、まずは店が快適な環境であることが大切なのだ。

ルシフェル「よし、チェック項目、全部オッケーだね!」
一同「はい!」

明るく元気に返事するホスト一同。この店にいる者は、全てルシフェルの面接を通過してきている。皆、様々な事情や何かしらの背景を抱えて、この店で働いている。その為、互いにあまり過去を詮索しあったりはしない。
中にはルシフェルに救われてこの店で働いている者もいる。そして多くのホスト達がルシフェルに憧れ、ルシフェルの影響を受けている。ルシフェルが店にいるだけで、その場がパァっと明るくなるような、まるで太陽のような存在。それくらい、皆にとってルシフェルは不思議な魅力とカリスマ性があった。

ルシフェル「じゃあ、みんな、エンジン全開で今日も頑張ろう!」
愛抱夢「はいはいはーい!ルー様、任せて!髪型も変えたし、バッチリ!」
夕星「髪型だけで売り上げ上がれば、誰も苦労しませんけどね……」
金多「そーそー。髪型変えたって馬券当たんねーし!」
愛抱夢「馬券と一緒にするなって!」
輝石「ほら。みんな、開店前だよ。落ち着いていこうよ」
明星「ナンバー1様がこうおっしゃってるぞ」
金多「ナンバー1様って……明星、ひがみか?」
明星「(イラっと)……なに?」
輝石「さ、オーナー、始めましょう。例のを」
ルシフェル「ああ、そろそろ時間だな」

時計の針は夜19時である。
ルシフェル中心に恒例のオープン前コールを始める。


ルシフェル「今宵も金星の御心のままに!」
一同「マイハッピネス♪」
ルシフェル「ヴィーナス降臨!気持ちは?」
一同「アゲアゲ♪」
ルシフェル「魅力アップ!男気アップ!売り上げアップ!」
一同「ゴーゴー♪」
ルシフェル「輝かせろよ、一番星!」
一同「マイ トレジャー♪」
ルシフェル「目指せ、世界一のパラダイス!」
一同「我らがClub Venere~!フ~ゥっ♪」

ルシフェル「では――Club Venere、オープン!今宵もとびきりのサービスでゴージャスにお客様をおもてなししよう!」

――こうして今日もClub Venereはオープンする。
まるで魔法がかけられたような輝かしい出会いの楽園の扉が開くのだった……。


   ×   ×   ×

そして、時計の針は深夜の0時に。
最後のお客様を送り出すと、フロアの中央にある大きなシャンデリアの灯りのスイッチが切られ、今日も輝かしい時間が終わる。

閉店後は、下っ端ホスト達は後片付けだ。
一方、人気ホスト達はお客さんとアフターに行く者もいれば、さっさと家に帰る者、ちょっと食事して帰る者、ジムやサウナによる者……と思い思いに店を後にしていく。

   ×   ×   ×

深夜2時……
皆が帰り、シーンとした真っ暗な店内。

なぜかそこに一人残っているのはオーナーのルシフェル。

厳しい目で今日の売り上げを確認している。
さっきまでの陽気で明るい太陽のようなルシフェルとは別人だ。
そもそも彼はこの店のオーナー、いわゆる経営者でもある。ホストのみんなには楽しく働いて貰いたいが、キレイごとばかり言ってはいられない。
しかもこの街はただでさえ競争が激しい。
新しいホストクラブがオープンしては、いつの間にか消えていく……といったことも何回も見ている。経営者としてこの店を存続させるには、売り
上げUPは第一命題なのだ。

こうして一通り、閉店後の事務作業を終えるルシフェル。

すると……店にある大きなグランドピアノの蓋をあけ、たった一人、モーツァルトのレクイエムを奏で始めた。

――実は今日は彼にとって特別な日。
ある人の命日だった。

ピアノ演奏を終えると、スマホ画面にある写真を出して見つめる。

そこに写っていたのは、
『祝!Club Galassia10周年』と書かれたケーキの周りに写る6人のホスト達。

その一人はルシフェル本人。
他の5人はかつて『Club Galassia』で共にナンバー1を目指して戦い合ったルシフェルのホスト仲間だった。
かつては毎晩のように顔を合わせていた仲間達であったが、『Club Galassia』閉店後、バラバラに。久しく連絡は取っていない。

じっと写真を見つめるルシフェル。
写真の中で一番、隅っこでキリっとカメラ目線で見つめるホストがいた……。
彼の名は……ルーナ。

今日は彼――ルーナの命日であった。

ルシフェル「……ルーナ」

                 つづく


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