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【リモホス】Club Venere 第3話【リモート☆ホスト】

――TOKYO-K。
高架を走る電車の向こうにそびえ立つ高層ビル群。
この街を支える最寄り駅は乗降客数が一日に353万人というモンスター駅。
昼間はビジネスマンや学生他、買い物客、観光客など多種多様な人々が行き交う。
だが、夜になるとまた新たな表情を見せる。
街中にネオンが光り出し、昼間とはまた違った賑わいを見せ始める。
そして……この街の一角に建つこの店も開店の時間となる。
――Club Venere。

Venere(ヴェネーレ)とはイタリア語で金星の意。金星は美の女神ヴィーナスの名前がそのまま使われており、まさにこの店もお客様達にヴィーナスのように美しく輝いてもらいたい、という願いが込められている。それと同時に、金星は日没後、一番最初に輝く『一番星』とも呼ばれる。だからこそ、ホスト界の1番、1番輝く星を目指そうという気合も込められていた。

さぁ、Club Venereの扉を開こう。
一歩中へ踏み入れれば、今宵も新たな出会いがあなたを待っている……。

~明星とうさぎのラブちゃんの休日~

自宅に着いたのは深夜1時を過ぎた頃だった。明星はいつも店が閉店するとアフターもせず、急いで帰ることが多い。

なぜなら……明星には家で待っている大事な姫がいるから……。

――その姫の名はラブ。

ロップイヤーというたれ耳に丸っこい体がとてもかわいい体のうさぎちゃんである。

「ラブちゃん、ただいま~♥」

帰宅するとすぐに明星はラブちゃんのいるケージに走る。

「あ~、もうねんねしてたんでちゅね~」

店では滅多に笑顔を見せることもなく、キツめな発言のドSキャラで通している明星。そんな彼からは想像がつかないような、完全に顔面から力の抜けたふにゃとした柔らかでやさしい微笑みでラブちゃんを見つめている。

体をまん丸にし、目をつむって眠っているラブちゃん。

「あ~、かわいい~っ」

ラブちゃんの眠っている姿に全てが癒される。店での序列も、今日一日の疲労も……
ラブちゃんを見るだけで全てが吹っ飛んでしまう。完全にリラックスして眠るラブちゃんがいるだけで、ナンバー1がどうとか、どうでもよくなるのだ。

明星はふと、ラブちゃんを飼い始めた頃を思い出す。そう……あの頃はまだ、ラブちゃんはいつも目を開けたまま寝ていたっけ。

目を開けたままねるのは決して珍しいことではなく、ウサギは元々敵に狙われやすく、食物連鎖の下の方にいる為、いつでも逃げられるように寝ている間も警戒して、目を開けたまま眠ることも多いという。つまり、明星の家にやってきたばかりのラブちゃんは常に警戒していたのだ。

それが今では……ラブちゃんは完全に心を許し、こんなにもリラックスして眠っている。それが明星にとって、とても嬉しいことであった。

   ×   ×   ×

ラブちゃんとの出会いは2年半前……。
明星がまだ20歳になったばかりの頃だった。

ずっと追いかけていた『ある夢』が無残にも破れ、その上、大事に思っていた人にも裏切られた明星。世の中全てに絶望していた。

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