2016/3/18「Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜」
★生田大和×朝夏まなと=ウィリアム・シェイクスピア
宝塚歌劇はこれまでに数多くのシェイクスピア作品を上演している。古くは1969年の雪組「ハムレット」、近年ではフランス発のミュージカル「ロミオとジュリエット」を星組、雪組、月組が続演している。「オセロー」を元に作られた星組「The Lost Glory」や「真夏の夜の夢」を原作にした月組「PUCK」もまだ記憶に新しい。
だが、劇作家ウィリアム・シェイクスピア自身を描いた作品というのは、この「Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜」が初めてだろうと思う。
それにしても、またなんと地味な題材を選んだのか。シェイクスピアは偉大な劇作家ではあるが、彼の人生が彼の生み出したドラマよりも面白いなんてことがあるだろうか。そもそも劇作家という人種が、宝塚歌劇の主役になり得るとは思えない。私はこの作品のタイトルが発表になった時、そんな危惧を抱いた。
演出家の生田大和氏(この作品の脚本も書いている)は、大劇場の登板はこれが二作目。ただ、幸いにして宙組トップの朝夏まなととは以前にバウホール公演「BUND/NEON 上海」でタッグを組んだ経験がある。主演スターを知る若手演出家がこの題材をどう料理するか楽しみだ。
★主な配役
ウィリアム・シェイクスピア(劇作家)…………………朝夏 まなと
アン・ハサウェイ(ウィリアムの妻)……………………実咲 凜音
メアリ・シェイクスピア(シェイクスピアの母)………美風 舞良
ジョン・シェイクスピア(シェイクスピアの父)………松風 輝
ハムネット・シェイクスピア(シェイクスピアの息子)遥羽 らら
ジョージ・ケアリー(貴族、ウィリアムのパトロン)…真風 涼帆
ハンズドン卿ヘンリー・ケアリー(ジョージの父)……寿 つかさ
ベス(ジョージの妻)………………………………………伶美 うらら
サウサンプトン伯ヘンリー・リズリー(若い貴族)……愛月 ひかる
エセックス伯ロバート・デヴルー(若い貴族)…………桜木みなと
リチャード・バーベッジ(宮内大臣一座の俳優)………沙央 くらま
ヘンリー・コンデル(宮内大臣一座の俳優) ……………純矢 ちとせ
トマス・ポープ(宮内大臣一座の俳優)…………………澄輝 さやと
ウィル・ケンプ(宮内大臣一座の俳優)…………………蒼羽 りく
ジョン・ヘミング(宮内大臣一座の俳優)………………和希 そら
ロバート・アーミン(宮内大臣一座の俳優) ……………瑠風 輝
エリザベス1世(イングランド女王)……………………美穂 圭子
バーリー卿ウィリアム・セシル(エリザベスの廷臣)…凛城 きら
ロバート・セシル(エリザベスの廷臣)…………………天玲 美音
エドマンド・ティルニー(エリザベスの廷臣)…………美月 悠
ヘンリー・ブルック(エリザベスの廷臣)………………実羚 淳
エミリア・バッサーノ(ダークレディ)…………………星風 まどか
宙組はこれが朝夏トップ体制の大劇場・東宝公演の第二作目。二番手男役の真風涼帆はシェイクスピアのパトロンとなる貴族のジョージ・ケアリーを演じている。
★始まりはロミオとジュリエット
16世紀末のロンドンはペストが流行し、人々はその猛威に怯えていた。子供を抱いた母の嘆きの歌声が響く。歌うのは美風舞良、宙組を代表する歌手の一人である。その背後では熊の見世物をやっている。
そんな不穏であやしげなロンドンの街角に、母と息子が登場する。ウィリアム・シェイクスピアの妻アン(実咲凜音)と息子ハムネット(遥羽らら)である。二人は普段はストラットフォード・アポン・エイヴォンで暮らしているが、父の作る舞台を見るためにロンドンにやってきたのだった。久しぶりに再会したウィリアム(朝夏まなと)とアンは、新作「ロミオとジュリエット」の舞台を見つめる。
「ロミオとジュリエット」の悲恋の物語の幕が開くと、ウィリアムは妻に「これは僕たち二人の物語なんだ」と語り始める。ロミオの台詞とウィリアムの声が重なり、やがてそれは6年前のストラットフォード・アポン・エイヴォンへの回想へと繋がっていく……と、ここまでがプロローグ的に展開される。なかなかオシャレな始まりだ。
劇中劇として「ロミオとジュリエット」を演じる役者はロミオ役が
リチャード・バーベッジ(沙央くらま)、ジュリエット役がヘンリー・コンデル(純矢ちとせ)。
シェイクスピアは日本語では沙翁と呼ばれる。その沙翁の芝居の主役を演ずるのが沙央。専科の沙央がこの宙組公演に呼ばれたのは、その名前ゆえか。また、ジュリエット姿の純矢の役名が「ヘンリー」という男性名なのは当時の俳優が全員男性だったためだが、それを男役から娘役に転向した純矢が演じるというのも面白い。
そして、これは幕が開いてすぐに感じたことだが、歌声が舞台から観客席に迫ってくる。コーラスの宙組は今なお健在。トップスターが変わっても、その特色が受け継がれているのは嬉しい。
★6年前、ストラットフォード・アポン・エイヴォンで
さて、物語は過去へと時間を遡る。
ストラットフォード・アポン・エイヴォンの五月祭の日。友人たちから祭りへ行って踊ろうと誘われるが、若きウィリアムはそれを断って今日も詩を書いている。が、革手袋職人の父(松風 輝)にせっかく書いた原稿を暖炉に投げ込まれてしまう。父の目下の関心は正式に紋章を授かってジェントルマンに列せられることだけだった。そんな父に悪態をついて家を飛び出すウィリアム。
森の中で詩の続きを書いていたウィリアムはそこで一人の女性(実咲凜音)に出会う。彼女もまた意に染まない結婚を嫌って森に隠れていたのだ。ウイリアムの手から原稿を取り、それを読み上げる彼女に彼は驚く。当時の女性は文字が読めることさえ珍しかったのだ。彼女の声に想像力を掻き立てられたウィリアムは、「僕だけの俳優になってほしい」と頼む。だが、そこへ彼女の弟(瑠風 輝)が婚約者パリス(澄輝 さやと)を伴って現れ、彼女を連れて行ってしまう。
五月祭には貴族のハンズドン卿(寿つかさ)が息子ジョージ(真風 涼帆)を伴って来ていた。町の有力者で貴族のルーシー(風馬翔)は二人に「祭りで面白い余興をお目にかけます。題して『紳士教育』」と何やら思わせぶりに語る。
ウィリアムは森で出会った女性を探して祭りへ。二人は祭りの中で巡り会いダンスを踊る。彼女の名はアン・ハサウェイ。だが、二人はやがて喧騒の中で離れてしまう。そんなウィリアムの目の前で、父ジョンが「紋章の使用を正式に許可されることになった」と演説し、ルーシーの前に進み出るが、その紋章を引き裂かれるという事件が起きる。街の人の嘲笑の中「人の夢を笑うな!」とウィリアムが怒りを爆発させ、大暴れする。
その夜、人々から追われる身となったウィリアムが身を潜めていると、バルコニーに出て自分への愛をつぶやくアンの姿を見つける。アンの元へ駆け上がり、愛を告げるウィリアム。が、アンを呼ぶ弟の声に二人が降りていくと、そこには追っ手が待ち構えていた。
ルーシーがウィリアムの街からの追放を告げると、そこに居合わせたジョージが「彼の身柄を預かりたい」と言い出す。ジョージは偶然ウィリアムが落とした戯曲の原稿を目にして、彼の才能に目をつけたのだった。「結婚を許可する。ただ、まずは私と共にロンドンへ」というジョージの言葉に従い、二人は別々に暮らすことになったのだった。
★舞台中の「現実」と「芝居」が重なる
朝夏ウィリアムの夢を追う若者としての溌剌とした役作りが好ましい。一番驚いたのは歌だ。トップマイクの助けもあるだろうけれど、伸びやかな声で堂々と歌い上げていて、思わず引き込まれてしまった。実咲アンとの息の合った二重唱もいい。
ここでは一連の回想シーンを「ロミオとジュリエット」と重ねて見せているのが面白い。舞台上の「現実」の時間軸ではウィリアムとアンは「ロミオとジュリエット」を見ているのだが、その物語を見ながら6年前のことを二人が思い出していることを示すかのように、回想シーンと「ロミオとジュリエット」の世界は交錯する。
アンの婚約者のパリスという名は、ジュリエットの求婚者と同じだ。回想シーンに登場するパリスの澄輝さやと、ウィリアムの友人の蒼羽りく、和希そらはいずれも現実の時間軸ではそれぞれパリス、ロミオの友人ベンヴォーリオ、マキューシオを演じる役者である。バルコニーでのウィリアムとアンの会話はロミオとジュリエットの台詞そのものだ。
そして、このシェイクスピアに取っての「現実」と彼の作る「芝居」を重ねていく、という手法がこの「Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜」という作品では次々と使われていくのである。
★マクベス夫人登場、野心と欲望
時間軸は再び「現在」へと戻る。舞台「ロミオとジュリエット」は大成功をおさめ、ウィリアムはロンドン市民から喝采を浴びる。一座の公演はエリザベス女王からも評価され、ジョージには「一度作者のシェイクスピアに会いたい」という言葉が下される。
シェイクスピアという類まれな才能を発掘したジョージは「ロミオとジュリエット」の成功に有頂天だった。だが、ジョージの妻ベス(伶美うらら)はそんな夫に「あなたはあの民衆の熱狂を見なかったのか」叱咤する。「シェイクスピアの言葉を使えば、民衆の心理を思うがままに操ることができる」という妻の言葉に、ジョージは野心を燃やす。
ロンドンに妻子を呼び寄せたウィリアムは、ようやく家族三人での暮らしが送れることに安堵していた。が、そんな彼の家に父ジョンが金の無心にやってくる。「帰ってきてくれないか。母さんも寂しがっっている」という父に「ここは僕の家だ。出て行ってくれ」とウィリアムは叫ぶ。
ジョージとともに女王への謁見に臨んだウィリアムは、褒美を問われて紋章の使用を申し出る。父を超えるために、父のかなえられなかった夢を実現しようとするウィリアムだったが、分不相応な望みだと周囲の貴族たちからは不興を買う。しかし、女王は「今後の働きを見て決めましょう」と彼の望みを否定しなかった。
ジョージはウィリアムにサウサンプトン伯ヘンリー・リズリー(愛月ひかる)、エセックス伯ロバート・デヴルー(桜木みなと)を紹介する。三人はともに芸術を愛好する若い貴族で、宮廷の実権を握るウィリアム・セシル(凛城きら)に不満を持っており、密かに権力奪取を狙っていた。
彼らはウィリアムにも仲間に入るよう求める。ウィリアムの言葉の力を民衆を扇動するために利用しようというのだ。躊躇するウィリアムの前に人の欲望を見通す力を持つダークレディ、エミリア(星風まどか)が呼ばれる。
野心と欲望を刺激され、ウィリアムは何かにつき動かされるように次々と新作を発表していく。「真夏の夜の夢」「マクベス」「ジュリアス・シーザー」「リチャード2世」。作品は評判を呼び、ウィリアム・シェイクスピアの名は高まった。
が、仕事に打ち込み劇場から家にも帰ってこないウィリアムに妻アンは悩む。二人の間を取り持とうとするリチャードら一座の俳優たちの声も、ウィリアムには届かない。アンは家庭を顧みようとしない夫の姿に絶望し、息子ハムネットを連れて家を出る。
ある日、久しぶりに家に帰ったウィリアムは机の上に置かれた手紙を読んで、妻と子が故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンに戻ったことを知る。二通目の手紙には息子ハムネットが病気になったと記されていた。三通目には息子の病状が良くないので、すぐ会いに来て欲しいと書かれている。驚くウィリアム。そこへ父ジョンが訪ねてきて「なぜ、来なかった。お前の息子は死んだ」と告げる。
★「劇作家」の仕事を見せるのは難しい
ジョージの妻ベス役の伶美うららがいい。落ち着いた声音で夫を叱咤激励し、その野心を振るい起こさせる。この場面はもちろんシェイクスピアの「マクベス」を意識したものだが、大柄な美丈夫の真風ジョージと、冷たい美貌の伶美ベスの並びは見た目にも麗しい。
が、真風涼帆という人はその堂々たる外見に反して中身はヘタレ若旦那風味なのである。生田脚本・演出はそうした真風の持ち味を生かす味付けだったが、そろそろ「見た目通り」の男らしい姿を発揮してほしいと思うのはファン目線の贅沢だろうか。
サウサンプトン伯の愛月ひかるとエセックス伯の桜木みなとは二人で1セットという扱い。彼らにもう少し芝居を魅せきっちり見せられる力がつくと宙組も面白くなってくるのだが。
宮廷の権力争いに巻き込まれ、ジョージに命じられるままに必死でペンを取るウィリアム。舞台上では「真夏の夜の夢」「マクベス」「ジュリアス・シーザー」などの場面が次々と現れる。シェイクスピアの作品の名場面を一気に見せていくという展開が面白い。
一座の俳優は沙央、純矢のほか、澄輝 さやと、蒼羽りく、和希そら、瑠風輝ら中堅・若手の男役スターが演じている。彼らがシェイクスピア作品を演じる姿をもう少し見ていたかったが、何しろ展開が早いのでどの作品もさわりだけで、なんだかもったいない。
そして肝心の主役ウィリアムだが、劇作家の仕事は机に向かい、ひたすらペンを走らせて脚本を書くこと。この姿はあまり絵にならないな、と思った。朝夏ウィリアムはその伸びやかな体を思い切り使って歌い踊る姿はカッコいいのだが、机の前で苦悩する姿、妻や一座の俳優たちに当たり散らす姿、というのはやや物足りなかった。彼が全てを犠牲にして作品を書くのは何の為なのか、その根源にあるものが見えづらかったように思う。
★クライマックスは「冬物語」
名声を欲しいままにしてきたウィリアムと王宮の一座に危機が訪れる。きっかけは舞台「ハムレット」だ。狂気を装ったデンマーク王子ハムレットは、母王妃との会話をこっそり聞いていた宰相ポローニアスを刺殺する。この場面で観客たちが「セシルが死んだ、セシルが死んだ」と騒ぎ出す。
現実世界の重臣たちは、ジョージたちがにセシルになぞらえたポローニアスが殺される芝居をウィリアムを使って書かせたと思い、劇場の閉鎖を命じる。ジョージとウィリアム、そしてサウサンプトン伯、エセックス伯は逮捕されてしまう。
女王の前で国家に対する反逆の罪でロンドン塔送りを宣告される4人。が、ジョージは「今、ウィリアムを失うことは、演劇の未来を損なうことになる」と女王にウィリアムを許すよう嘆願する。
そんなジョージの言葉に、女王は条件を出す。「夫婦愛」をテーマにした芝居を書いて上演し、独身の自分にそれがどんなものかを示すことができれば彼を許そうというのだ。ジョージたち3名もその芝居に役者として出演することが命じられた。期限はわずか一週間後。
だが、妻子を失ったウィリアムは一向に筆が進まない。そんなウィリアムに一座の看板役者リチャードがアンの言葉を伝える。「この世界では、皆それぞれの役を演じている」と。自分の役割が芝居を書くことにある、と気付いたウィリアムは再びペンを取る。脚本、そして演じる役者が揃ったが、まだここには大切なピースが一つ足りない。それはアンの存在だ。リチャードとジョージはウィリアムに内緒でアンをロンドンに呼び寄せる。
芝居の幕が上がった。それは、妻の不実を疑って孤独になった王、つまりウィリアム自身の物語だった。舞台裏から様子を伺っていたアンの前で、王妃の彫像役の役者が緊張のあまり倒れ、急遽アンが仮面をつけて舞台に立つことになる。
物語の結末は王を演じるウィリアムだけが知っている。が、王妃の彫像を前に王は過去を悔やむ。ウィリアムは「ここまでです」と物語が終わったことを告げる。「妻と子を失った自分にはこれ以上は書けなかった」と。女王が裁定を下そうとした時、「待ってください」と彫像を演じていたアンがその仮面を取って現れる。
ウィリアムとアンがお互いの思いを語り、二人は和解して抱きしめあう。女王は二人の姿に夫婦愛の姿を見た、とウィリアムの罪を許すのだった。
★尺が足りない
「ロミオとジュリエット」から始まった芝居が「冬物語」で幕を閉じる。形としては大変綺麗に収まった。
でも「冬物語」がでてくるなんてちっとも知らなかった私としては、不満が残った。冬物語のラストは、王に披露された王妃の彫像が動き出すが、実はそれは密かにかくまわれていた王妃自身であったというもの。そのストーリーをウィリアムとアンに重ねて見せているのだと私が理解したのは、舞台を見終えて「冬物語」のあらすじを確認してからのことだった。
不勉強なのがいけないと言われたらそれまでだが、シェイクスピア作品の中で「冬物語」は「ロミオとジュリエット」や「マクベス」「オセロー」「ヴェニスの商人」ほど有名ではない。物語の一番盛り上がる場面が知識不足のために楽しめなかったのは残念でならない。私と同じ思いを抱いた観客は多かったのではないかと思う。
こういう結末であるならば、いっそ「冬物語」を劇中劇としてもっとガッチリ見せてくれた方が良かった。が、そうするには1時間半という大劇場の公演時間では収まらない。
そもそもこの題材は大劇場で演じるには、少しばかり無理があったのではないか。大仰な設定やドラマチックな展開に慣れた観客は、主人公が宮廷の政治闘争に巻き込まれるくらいでは驚かない。これがドラマシティくらいのサイズの劇場なら、劇中のシェイクスピア劇ももっと楽しめたのではないかと思う。別箱公演なら公演時間も取れたはずだ。
★宙組への期待と不安
朝夏率いる宙組の大劇場公演第二弾「Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜」は、シェイクスピア劇をモチーフに使ったセンスのある大人向けの作品だった。多少の不満はあるが、生田氏はよくまとめてきたな、と感じた。舞台と役者への深い愛情、そして偉大な劇作家シェイクスピアへの敬愛の念がうかがえる。
朝夏のトップとしての持ち味として「若々しい明るさ」がはっきりと見えていたし、その明るさが組全体を照らしているのも見えた。前回の「王家に捧ぐ歌」の時より、二番手スター真風の存在感もぐっと大きく見えた。
が、前回の「王家に捧ぐ歌」に続き、作品の水準を引き上げていたのは明らかに専科から特別出演の二人、美穂圭子と沙央くらまだったのも事実だ。美穂エリザベス女王の威厳ある佇まいと台詞まわしは舞台に独特の緊張感をもたらした。リチャードは一座の看板役者で、ウィリアムを叱咤し鼓舞するという美味しい役ではあったが、そこをピシッと締めた沙央の芝居は見事だったと思う。
専科の二人と比べては気の毒ではあるのだが、宙組のスターはまだまだ芝居が弱い。男役スターに求められるのはパステルカラーのほんわかした色合いばかりではない。時にはくっきりと陰影をつけて、役の存在を際立たせることも必要だろう。
宙組は他の組に比べると総じて男役が若いのが特徴だ。組長の寿つかさ、トップの朝夏まなとを除けば、91期生以下の学年しかいない。リチャード役に専科の応援を仰いだのもベテランが足りないが故。スターの過渡期なのだと言ってしまえばそれまでだが、次々と他の組からスターを補充し続けないとやっていけない宙組、というのはどこかに根深い原因がありそうな気もする。
それでも、私はこの「Shakespeare」と宙組に感謝したい。朝夏ウィリアムは春風のように暖かくさわやかだった。それに、シェイクスピアの作った芝居を、これだけ一度に一気に見られる機会はそうあるものではない。久しぶりにじっくりと本を読み直してみようと思う。
【作品data】シェイクスピア没後400年メモリアル ミュージカル「Shakespeare 〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜」は作・演出 生田大和。宝塚歌劇団宙組により、2016年1月1日〜 2月1日に宝塚大劇場、2月19日〜3月27日に東京宝塚劇場で上演。
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