月と宝塚 番外編

 月と宝塚、番外編は月にまつわるスターと組について。

★「月」の付くスター

 宝塚歌劇団の歴代トップスターの名前を調べてみると、「月」の字のつくトップスターは、天城月江(月組 24期)、上月晃(星組 46期)、姿月あさと(宙組 73期)、湖月わたる(星組 75期)、音月桂(雪組 84期)の5名である。「◯月」という姓のトップスターが多いのに反し、「月◯」という姓でトップスターになった人はいないというのは面白い。

 2015年9月24日現在の宝塚歌劇団に在籍中の生徒の名前を調べてみると「月」がつくのは専科0人、花組6人、月組7人、雪組8人、星組5人、宙組2人の28人。「月◯」は2人(月城かなと、月華雪乃)、名前に月が付くのは2人(海乃美月、草薙稀月)。若手男役スターの月城かなとがもし将来トップスターになれば、初めての「月◯」姓のトップスターということになるはずだ。

 残りの24人は全員「◯月」であるが、驚くべきことに同じ姓の者は一人もいない。彼女たちは、宝塚音楽学校の卒業までに芸名を決めるそうだが、「在団中の先輩と被らない」というのが徹底されているのだろう。以下に24人の「◯月」姓を挙げておくが、よくこれだけ違う苗字を思いつくものだと感心する。

 冴月、鳳月、舞月、朝月、澄月、糸月、綾月、光月、夏月、宇月、煌月、輝月、沙月、雛月、天月、彩月、水月、碧月、望月、如月、紫月、蓮月、愛月、美月

 こうして眺めてみると、タカラジェンヌの芸名はなかなか奥が深い。

★月影瞳

 月の付くスターと言えば、娘役スターの月影瞳の名を忘れるわけにはいかない。

 月影瞳は1988年入団の76期生。花組で下級生時代を過ごし、その後星組に異動して1997年に麻路さきの相手役としてトップ娘役に就任する。「誠の群像/魅惑II−ネオエゴイスト−」でヒロインを務めた後、雪組に移って轟悠の相手役となった人だ。(わずか一作で異動となったのは、宙組の創設に伴って雪組トップ娘役の花總まりが宙組に異動となった影響である。月影の後任の星組トップ娘役には雪組の星奈優里が就任するという娘役3人の玉突き人事であった。)

 愛称は「ぐん」。ファンからは「ぐんちゃん」と呼ばれていた。愛称「ぐん」は、彼女が花組での下級生時代に「軍隊のようにテキパキしているから」という理由で上級生がつけたものだという。はかないイメージの芸名に反して、ぐんちゃんは顎がしっかりと張っていて、芯のある女性の役が似合う人であった。

 代表作は「凱旋門」のジョアン、と言いたいところだが、月影はコメディも得意としていた。私は彼女の当たり役として、雪組時代に轟悠と組んだ「再会」という芝居で演じたサンドリーヌを挙げたい。一見すると堅物の垢抜けない図書館司書だが、実は知的で美しい大人の女性であり、ちょっとした茶目っ気もあるサンドリーヌを見事に演じた。この芝居は後に雪組、星組の全国ツアーでも再演されたが、面白さは芸達者の揃った初演がダントツだ。

 歌、ダンス、芝居をこなせる貴重なトップ娘役であったが、2001年の雪組公演「愛燃える/Rose Gaeden」を最後に退団した。月影は退団前に「Over The Moon−月影瞳クロニクル−」というバウホールでの主演公演を行っている。今日でも退団前に「ミュージック・サロン」と銘打ったディナーショーを行う娘役はいるが、私の知る限り「主演公演」を行った娘役は月影瞳ただ一人。役者として演出家からも愛された娘役スターであった。

★月組

 宝塚歌劇団には、花、月、雪、星、宙の5つの組があり、それぞれの組ごとに公演を打っている。「本公演」と呼ばれる宝塚大劇場・東京宝塚劇場の公演は、現在年9回。各組は1年あたりほぼ2回ずつ両劇場で公演するというサイクルが確立されている。

 宝塚歌劇団の組名を表記する際には、組の創設順に並べるという暗黙のルールがあり、月組は宝塚第二の組とされている。宝塚歌劇団の最初の公演は1914年に行われたが、その際には「組」という制度はなかった。1921年二部制の公演が始まり、その第一部を花組、第二部を月組としたことから月組が「二番目」の組ということになったらしい。ちなみに雪組は1924年、星組は1939年、宙組は1998年の創設である。

 月組は「芝居の組」と呼ばれ、芝居を得意とするスターを数多く排出してきた。現在芸能界で活躍する大地真央、涼風真世、天海祐希、真琴つばさらはいずれも月組トップスター。舞台女優として活躍する剣幸、久世星佳、瀬奈じゅんも月組トップスターであった。娘役トップスターとしては淡島千景、黒木瞳、檀れいなどがいる。

 また月組は「海外ミュージカルの組」でもある。「オクラホマ」(月・星組)、「ウェストサイドストーリー」(月・雪組)、「ガイズ&ドールズ」、「ミー&マイガール」、「グランドホテル」などの海外ミュージカルを宝塚で最初に上演しているのは月組である。

 しかし、近年の宝塚歌劇団はスターの組替え(=人事異動)を積極的に行う傾向があり、その時どきのトップスターの個性に合わせた演目を上演するようになってきた。月組が芝居の組、海外ミュージカルの組、というイメージも以前よりも薄れつつある。

 1998年以降月組でトップスターになった人の出身組(最初に配属された組)を見てみると、真琴つばさ(花)、紫吹淳(花)、彩輝直(月)、瀬奈じゅん(花)、霧矢大夢(花)、龍真咲(月)で6名中4名は花組出身者で占められているのが分かる。

 こうした経緯からかつては「月は花の植民地」と揶揄されることもあったが、現在の宝塚は5人のトップスターのうち3人が月組出身者で占められている。(花組の明日海りお、月組の龍真咲、星組の北翔海莉)。海外ミュージカルの上演が増えた今日の宝塚は、ある意味「月組の時代」なのかもしれない。

#月 #宝塚 #takarazuka

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?