推しのいる日々 その26ー推しのグッズを初めてポチった日
推しを持つ身となってそろそろ一年になる。これまで「絶対に手を出すまい」と決めていた推しのグッズをついに買ってしまった。トレカやDVDやCDはもちろんのこと、ありとあらゆるキャラクターグッズの誘惑を今日まで逃れて来たというのに。
推しはいつだって私のスマホとタブレットの中にいる。彼の歌も彼の映像も写真もみんなそこにある。いい大人なんだからそれだけで我慢できる「ハズ」だった。
でも、こればかりは仕方がない。ただのグッズとはワケが違う。私の推しであるK-POPアイドルK君☆(誰なのかはバレバレだが一応仮名)が自らファンのためにデザインした超・超・超特別なグッズなのだから。当然あっという間に売り切れるに違いないと思っていたし事実そうだったのだが、なんと二次販売が行われることになったのだった。
二次販売は完全な受注生産で品物が届くのは約半年後になるという。販売期間も数日間と長めに設定されていた。もしかしたら私にも買えるんだろうか、と販売サイトを覗いてみたのが運の尽きだった。ほとんどのグッズは既に「売り切れ」表示が出ていたのだが、二種類あるK君☆デザインのグッズのうちの一つがまだ販売中だった。
ああ、このままでは彼のデザインしたグッズが他のメンバーのグッズより「人気がない」とみんなに思われてしまうじゃないか。そんなのはダメだ。絶対に許されないことだ。
気づいたときにはポチッと購入ボタンを押していた。今の私にとっては決してお安い金額とは言えない、むしろ高価な買い物だ。しかもそれは身に着けることもできないし、どこかに持っていくこともできない。K君☆の貴重なデザイングッズ、それはなんと「植木鉢セット」なのだ。しかも全部で四つもある。
あああやってしまった!
が、グッズをデザインしている様子を紹介する映像の中でK君☆はこう言っていた。「家にいる時も僕のことを思い出してほしい」と。そんなの当たり前じゃない。どんな時だって私たちファンが君のことを忘れるはずなんかない。でも、言葉の裏には「アイドルという存在は忘れられたら消えてしまうもの」というどこか悲壮な彼の思いが垣間見えるようで切ない。
休暇中の今も彼は毎日のようにSNSに写真をアップしたりコメントを残したりしているけれど、それも「僕を忘れないで」というファンへのメッセージなのだろう。職業アイドルでありながらなぜ君はなぜそこまで真面目で律儀なの? ファンからの愛が得られないと泡になって消えてしまう妖精なの?
四つの植木鉢の側面にはK君☆直筆の文字が刻まれている。韓国語で書かれたその文字を私はまったく読めないけれどグループの楽曲の歌詞の一節だそうだ。たしかその歌は何度か聴いたことがある。K君☆の歌う「×××チョローン」と聞こえるところが該当部分らしい。ネットで日本語訳を探してみたらこう書かれていた。
咲く時はバラのように
舞うときは桜のように
散るときは朝顔のように
綺麗なその瞬間のように
バラと桜はともかく朝顔は日本語では「散る」とは言わない。「しぼむ」だろう。これは翻訳の問題だろうけど朝顔の花がキュっとしぼんだ姿は歌には向いてないと思う。韓国で国民に愛されているという木槿の花の間違いじゃなかろうか?異国の年若い男性である彼の言葉やセンスを理解するのはなかなか難しい。
が、こうして四行並べるとなんだか墓碑銘みたいだ。私が死んだら骨壺の代わりにこの植木鉢を使ってもらえば良いのかも(蓋はどうしよう)なんてことを思いついたりするあたり私の頭はすでにおかしい。イカれている。でも、でも、この植木鉢はK君☆がファンへの愛情を込めて作り上げたもの、いわば彼からのプレゼントなのだ。それを手にできるなんてこれは夢じゃなかろうか。
徐々に上がってくる自分のテンションが抑えきれない。ヤバいよこれは。
植木鉢が私の元に届くであろう半年後、私はまだ彼を愛し続けているのだろうか? 半年後の私はどう思うのだろう? だいたいこんなサイズのものが送られてきてそれを部屋にかざったりしたら推しの存在が家族にモロバレしてしまうじゃないか。
とりとめのない思いが次々と浮かんでは消えていく。
その頃にはパンデミックは終わっているのだろうか。何より、私はまだ無事に生存しているのか?運悪く感染症にかかって(あるいは交通事故で)死んだりしてないだろうか。基礎疾患はないし車はおろか自転車にだって乗らないから確率的にはおそらく大丈夫だろう。が、世の中いつだって先行き不透明。未来のことなんて何もわからない。
多分、私はこれから半年間また彼のことを思って生きる。彼の真心を信じて生きていく。それ以外何ができるっていうのよ。彼の心がこもった植木鉢を手にするまでは死んでも死に切れない。
K君☆、どうか君も元気でいてください。サランヘヨ。
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