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ファッション分野の観察で気づいた、他分野にも応用できるキーワード「コレクター」「お土産」「道具」

こんにちは。
アーキテクチャーフォトの後藤です。

先日、noteにて「情報収集における、建築の歴史という縦軸と、同時代のクリエーションという横軸。」という記事を書きました。

色々な方に、反響を貰ってとてもうれしく思いました!

今日は、ぼくが「同時代のクリエーションという横軸。」をどのように見ていて、どのような観察をしているのかを書いてみようと思います。

人によって、横軸のクリエーションに関する興味は様々だと思います。実際に僕も色々なクリエーションを観察していると自負しています。

今回は、その中でも、中学生時代より興味関心をもって観察を続けているファッション分野について、どのような気づきがあったのか書いてみます。

ファッションという分野は、僕が専門としている「建築」分野と、デザインという観点では近い部分があると思うのですが、産業的視点・製造的視点・ビジネス的視点で見ていくと、異なる部分も多く非常に学びがあります

近いという意味では、最近の事例としてOMAやH&deMがプラダの衣類をデザインしたということもありますし、ルイヴィトンのメンズディレクターに就任したヴァージル・アブローが建築出身(博士号も持っている)という事例もあります。建築側から見ると、90年代後半以降のファッション分野の店舗と建築家のコラボも加速する一方です。
そのように、かなり近くにあるように感じる部分もあります。

逆に違いを見ていくのも面白いです。
まず、建築物が基本的に一品生産であることに比較し、ファッションアイテムは大量生産が前提となっています。つまりユニクロのように、グローバルに展開し、一アイテム当たりの生産数を膨大にしていくことで、上代(販売価格)をかなり下げることができます

建築は基本的に一品生産なので基本的にそのようなことは行えません。
逆に、一品生産であるからこそ、例えば有名建築家が建物に施したディテールなどを、若い建築家が参考にして設計したとしても、おそらく、その両者の施工費には大きな違いは出ないといえるでしょう。(工務店や建設時期によっても施工費の上下はありますが)

またファッション分野は量産前提で、その商品がヒットした際の利益も莫大であるため、権利関係に非常に厳しいという特徴があります
例えば、意匠登録や商標登録といった、特許庁へのデザインやブランド名の申請も行うことは日常茶飯事です。それをやっておかないと、人気商品はすぐにパクられてしまいます。そのようなエゲツなさもある業界です。

建築分野では、その技術は開示され広く共有されることを良しとする文化があります。雑誌を見ると、その詳細な図面が公開され、建築家が考えた特殊なディテールも、読者である建築家が参考にして、それを発展させ自分の作品に使うこともしばしば行われます。そして、それらは単純に悪とはみなされません。個人的にはこのような建築業界の知の共有という文化は、他分野に目を向けるたびに素晴らしいなと思います。

これも基本的に一品生産であることが前提でなりたっているのだと思います。

ただ、ファッション分野の商売に関するえげつなさを見た後には、建築家もそのアイデアに対し、知財の権利を保有するというのも、一つのアイデアだとは思っています。

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前置きがめちゃくちゃ長くなってしまいました。

このように建築を主軸としながらも、同時代のファッション分野も観察し続けています。ぼくは、どちらかというと「建築家がビジネスをどう開拓していくか?」というテーマに興味があるので(もちろんアカデミックな視点でも見ているつもりですが)、ファッション分野のクリエーションについてもそのような視点で見続けていました。

その観察の中で気づいたキーワードが、タイトルにも記載した「コレクター」「お土産」「道具」です。

ファッション分野と具体的な説明なしに書いてきましたが、どちらかというと、布もの業界と言ったほうが良かったかもしれません。ぼくの視点は、「ファッションブランドのつくる衣服」のような狭い範囲の観察ではなく、マスクや白衣や、空調服などを含めたあらゆる布で作られたプロダクトの在り方を観察しています
そのような視点で見るうちに気づいたキーワードが「コレクター」「お土産」「道具」なのです。

すべての布で作られた商品を見ていても、売れている商品には必ず訳があるなあということがわかってきました。それらのプロダクトは、例えば同じトートバッグであったとしても、それぞれが消費者にどのように認知されるか意識的でなければ売れることはありません。

逆に言うと売れている布ものプロダクトは、それが消費者にどのように認識されるかをはっきり意識して作られていると思います。

その売れている布ものプロダクトの売れるためのキーワードが、「コレクター」「お土産」「道具」なのです。

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これからひとつづつ説明していきます。

「コレクター」というのは、昨今のブランドビジネスや、nikeを代表とするスニーカービジネスを見ていて感じることです。

ファッションアディクト(熱狂者)達の動向が現在最も観察できるのはinstagramですね。それを見ているとわかることがあります。
簡単に言うと、同じ人が、めちゃくちゃ色々な種類の商品を買っている。のです。スニーカー愛好家の方々の投稿を見ていると、足が何本あっても履きつぶせないだろう、、、。という量の様々なスニーカーを保持している人たちが沢山います。

他の記事でも書いたような記憶がありますが、その背景にはユニクロやファストファッションの影響があるといえます。ただ履くだけでいい、着るだけでいい、というような衣類・靴が低価格で用意されるという社会状況が当たり前になってしまいました。

その中で、生き残りをかけた一つの方法が、その商品をコレクターアイテムとして販売するという方法でした(もちろん声高にコレクター向けとは言っていません。その売り方がコレクターの所有欲を満たすような販売方法になっているのです)。nikeの動向にそれは顕著です。

ナイキは現在、少量多品種化をかなり推し進めているように見えます。(ナイキの販売サイトを見てみてください。)
1995年のエアマックス95によって起こったハイテクスニーカーブームの時代をぼくは経験していますが、その時には現在のように豊富な種類が毎週のように発売されるという状況はありませんでした。

それを、強化するようにスマホ用アプリ「SNKERS」というものをnikeはリリースしています。こちらは、毎週発売されるスニーカーが通知されると共に、購入も可能なサイトです。しかし、ほぼ全てのスニーカーは、恐らく希望者全員が買えないように数量調整をされています。
ぼくも何度かチェレンジしましたが、数分でスニーカーが完売してしまい買えませんでした。

このように、買えない人が多数いるということが、コレクターのスニーカー所有に関する満足度を上げることに寄与していると言えます。そして、膨大な種類のスニーカーが日々リリースされることで、コレクターは次々に新しいスニーカーを欲しくなってしまう。

そのような状況をデザインすると共に、ナイキはどんどん新型のスニーカーをリリースします。もはやスニーカーは履くものではなく、集めるものといっていい存在になっています。

ポイントは、時代の変化に合わせて、歩くための道具だったスニーカーを、ファッションアイテムであり、コレクターの集める存在へと、意図的にその消費者の中の認識を変えていったということです。

このようなスタンスからは非常に学びがあります。

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二つ目の視点は「お土産」です。

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