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百エーカーの無理 (たまにはこんな記事も書いてみる)

Silly old Bear!

Winnie-the-Pooh――『くまのプーさん』の原作を読んだことがある人なら、必ず目にしているフレーズである。プーさんがちょっとしたミスをしたりすると、クリストファー・ロビンがそう呼びかける。原作の訳本は「ばかなクマのやつ」と解釈し、ディズニーは「プーのおばかさん」と語らせる。多くの人が耳にしているのは後者だろう。

訳本については、原作をそのまま翻訳しているもので、キャラクターはみな「クマ」「子ブタ」「ウサギ」などと名付けられている。一方で、ディズニーは原作を基にカタカナ読みとなり、彼らの名は「プー」「ピグレット」「ラビット」となっている。確かに、「ばかなプーのやつ」ではあまりにも強いし、「クマのおばかさん」ではどことなくぎこちないから、名前の印象に合った翻訳に思える。

問題は(と言っては怒られそうだが)、インターネット上に翻訳を掲載している人々の記事である。やはり各人が独自性のある訳を載せようと奮闘しているので、かえって原作のイメージが崩れそうなものも散見される。中でも、冒頭の一言を「ばかな老熊め」と訳して、「実はそんなひどいことを言っていたんですね」のように締めくくるパターンは少なくない。ただ、言うまでもなく、訳本やディズニーが「ばかな老熊め」を子供用にやさしく翻訳しているものではなくて、もともとやさしい言葉なのである。第一、原作も子供用の本なのだから。

大学時代に暇を極めて根本から調べたことがあるので、いちおう解説してみよう。

一語目のsillyは一般的に「愚かな」という意味で訳される。次のoldが、「古い」「年老いた」が中心的な語意だ。bearはそのままである。

まずsillyだが、中世の頃に使われていたseelyという単語を祖に持つ。この語は、「幸せ」「無邪気」といった意味合いがあり、当時はSeelyという苗字も非常に多かったらしい。そこから転じて「愚かな」になっている。日本語で言えば、「おめでたい」で置き換えられそうなところ。一方oldは比較的新たな用法で、親愛の情を付加する。その前についている形容詞(今回ならsilly)に、親しみを込めるイメージだ。

私の解釈をまとめると、「まったくおめでたいクマさんだなあ!」だろうか。

ちょっと違うかな。偉そうに書き出して、しりすぼみだ。誰か私に、Silly old guy!とでも言ってくれないかなあ。

(文字数:1000字)

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