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人間の欲の果て"ナイトメア・アリー"

キャストと予告映像を見て、数年ぶりに映画館へ足を運んだ。
2時間半の長編映画の為、朝イチでミッドタウン日比谷に向かった。
見終わった時に後悔した。

午前中に見るべき映画ではない。

見終わると、何かドロっとした液体を大量に飲んだように胃が重く、喉はカラカラに乾き、やや放心状態で映画館を出た。

本作は、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を、ギルレモ・デル・トロ監督がサスペンス映画化。成功を目指す主人公が垣間見る、ショービジネス界の栄光とその影に潜む不穏な闇を描く。華やかなだけではない、演技派のキャストたちの競演も見どころだ。

主人公スタンが、不気味なカーニバル一座と出会い、読心術の技を学び、モリーと共に独立し、富と名声を得る。そこで出会う精神科医リリス・リッター博士と更なる大金を得るために悪事を働き、次第に闇に嵌まり、人生崩落に向かう物語だ。
終始映像や人物が怪しく美しい。起こる出来事がエグくて映像がグロい。そして後述の3名のキャストによって見事なエンターテイメントに仕上げられている。

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1.引き際を見失ってしまった"スタン"

主人公スタンを演じるのは、ブラッドリー・クーパー。澄んだブルーの瞳と肉体が何とも美しい。不気味な見せ物やイカサマの出し物ばかりの移動遊園地"カーニバル"で過ごす間は、まだ彼は野心と冷静さを合わせ持っていた。次々に成功やお金を得るための欲が虚実を作り出していく。所々で忠告を受けて、引き返すタイミングはあった。しかし、愚かにも自らを危険な場面に追い込み、裏切られ堕落していく。そして最後のオチの場面もまた彼の表情が滑稽であり美しかった。

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2.妖艶で存在感が際立つ"リリス博士"

本作は、carolで共演したケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの再共演も見どころだ。直接的な絡みは少なかったが‥。ケイト・ブランシェットは真のカメレオン俳優で、どんな役もその作品の文脈や役割を深く理解した上で演じている。それでいてどの役も私たちが期待するケイト・ブランシェットである、ことが素晴らしい。強く、凛として、妖艶でスタン演じるブラッドリー・クーパーとのやりとりも巧妙。セリフでは多くを語らず、表情や声色で見る側にその心情を読み取らせようとしている。


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3.儚く従順な"モリー"

あんなに美しいのにシャイでインテリで演技にストイックなルーニー・マーラ。彼女が演じるモリーは、カーニバル一座の一員で、そこを自分の居場所として周囲から愛され、奇天烈な見せ物をクールにこなしていた。スタンに同行してからも彼の危うい行動に忠告を告げながらも愛してるが故に従ってきた。1930年代の建築やコスチュームがケイト・ブランシェット同様フィットしている。あの映像美の中で、影があって控えめながら芯が強く、美しく佇む、そんな役を彼女だから演じられたのだと思う。

監督が描きたい世界観にピッタリはまり、彼の審美眼でのキャスティングであった。本作で繰り広げられる、言葉で表現できない人間の欲の果てを是非映像で見てほしい。




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