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第九が心地よく響く"高崎芸術劇場"

久々第九を聴きに行った。
学生の頃から第九は何度か歌ったが、アリーナで大人数で歌ったり、演奏の精度よりお祭り的な要素が強いイベントが多かった。一方今回聴いた高崎第九合唱団は日本の第九合唱団で初めて海外で演奏した由緒正しい合唱団である。昨年もコロナ対策を行った上で演奏を続けたという。
演奏と共に今回楽しみにしていたのが高崎芸術劇場である。高崎と建築物の関わりは深くまた別の回でも触れたいが、この新たなホール建設の発端はアントニオ・レーモンド氏によって手掛けられた「群馬音楽ホール」である。1961年に竣工したこの音楽ホールは、私が子どもの頃からよく通った場所でもあるが、音楽の場としても北関東の中心地であり、建築としても後世に影響を与えたであろう素晴らしい建物である。その音楽ホールの老朽化に伴い、2019年に新たに芸術劇場が建てられた。
この劇場は佐藤総合計画設計の基、「都市は劇場でありら劇場は都市である」という理念により設計された。

大ホールホワイエ
大ホールホワイエ
ガラススクリーンと大ホール

1.ガラススクリーンとホールの余白にできるホワイエ空間

有機的で赤茶色の印象的なホール空間がガラスケースの中にスッポリおさまっている。都市の通りからもそのホールの存在感とホワイエに集う人達の熱量が伺える。
音楽ホールは音の問題もあり、厚い壁に囲まれた閉鎖的で冷んやりした空間が多いが、この劇場はそれとは対象的で積極的にホールが外に映し出され、ガラスのカーテンウォールとホールの外径線との隙間に生まれたホワイエ空間が何とも開放的で気持ちよい。演奏会は演奏そのものはもちろん、始まる前のワクワクと終わった後の余韻も含め一連の体験によって良し悪しが決まる。その点において演奏前に高い吹抜けのホワイエ空間がワクワクを醸し出すことだろう。

吹き抜けエスカレーター空間
ホワイエから客席への階段

2.上げ裏で魅せる

複数階の中に出てくる吹き抜け空間での課題は「上げ裏」である。上部に廊下や階段があると通常裏側となるような上げ裏がメイン動線の天井になって見えてきてしまう。吹き抜けの場合、メンテナンスの都合高い位置に設備を持って行きたくないため、吹き抜けない上げ裏部に照明やら空調やらが乱発して見える残念な事例が多い。その中でこの建築物は、上げ裏をも意匠に取り込み、設備を整理してすっきり見せたり、「merry christmas」のメッセージまでお届けするサービスぶりは只者ではない。

大ホール内観
受付カウンターのだるま

3.高崎の人はだるまとだるまの色が好き

大ホールは天井も壁も客席も栗梅色に染められている。ホールを形取るホワイエから見える壁も栗梅色のテラコッタタイルで構成されている。この色彩に既視感を覚えていて何となくモヤモヤしていたところ、受付のだるまを見て解決した。「縁起だるまの少林山」と上毛かるたで詠まれるほどに高崎とだるまは縁が深く、地元民からも愛されている。故に街の至る所にだるまがあり、この劇場でもだるまの色彩が表現されている。高崎市民にとってのソウルカラーなのだろう。

演奏に関しても、森麻希さん、錦織健さんなど華やかなソリストを迎え、群馬交響楽団のオーケストラによる荘厳で次の年を迎えるワクワク感を感じさせる内容であった。久々また歌いたいな、と帰りに思った。

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