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【いつか来る春のために】⓰ 三人の家族編 ⑮ 黒田 勇吾

「これはさ、こうやって開くとわかるけどネッカチーフなんです。ほら、うちの娘の制服についてる赤いネッカチーフ」そう言って鈴ちゃんは二人を交互に見た。美知恵は、はっと気づいた。
「それって優衣ちゃんの中学の制服についている赤いリボンの。。。」
「みっちゃん、そうそう、あの子の制服のネッカチーフ。優衣はあの日制服姿だったんです。二年生は赤色。学年によって色分けしていました。もちろん優衣の制服はそのまま形見として部屋に飾ってます。これは知り合いの衣料品店でネッカチーフだけ全く同じものを取り寄せてもらったものです。首にかけるのはおかしいのでこうして頭に巻いてるんですよ。優衣といつまでも一緒にいるよという思いですかね。それとこれは妻がかけていた腕時計」鈴ちゃんは胸ポケットから女性用の赤いバンドの腕時計を出して、テーブルに置いた。美知恵も加奈子も深く頷いて時計とネッカチーフを見つめた。
「そうだなぁ、七回忌まではバンダナは外さないでしょうね。この時計も自分の胸にしまっています。僕は妻と優衣と今でもいつも一緒です。大切な、大切なかけがえのない思い出ですね」鈴ちゃんは微笑みながら時計を胸ポケットにしまい、バンダナを締め直した。その笑顔は強がりではない心からの笑顔だった。
 美知恵は感謝の思いを込めて鈴ちゃんに礼を言った。
「鈴ちゃん、今日はありがとう。話しづらいことまで話させちゃったみたいだけど。でもなんというか、勇気をもらえた。今日の話を聞いて生きる勇気っていうのかな、そんな大切なパワーをいただきました。ありがとうね」
ありがとうございました、と加奈子も同じように鈴ちゃんに礼を言った。
「いやいや、お礼を言わなければならないのは僕のほうだっちゃ。こんなにおいしい牡蠣鍋とお酒をごちそうになってありがとうございました。遅くまでごめんなさい。でも話を聞いてくれてありがとうね。とても心がほぐれました。それでは今日はこれで失礼します。じゃぁ、あさってまた集会所で会いましょう」
「え、鈴ちゃん、一周忌法要来てくれるの?」
「もちろん参列させていただきますよ。それと午後二時からの復興イベントにも僕出ますから観に来てください」鈴ちゃんは正座して頭を下げた。美知恵はえっといった顔をして加奈子と目を合わせた。加奈子もわからないという表情で美知恵を見た。鈴ちゃんはその様子を見て笑いながら言った。
「みっちゃん達知らなかったんだ。集会所は午前中法要で、午後は二時から四時まで復興支援イベントです。それに僕が出演しますよ。三曲歌わせていただく予定です」と言ってギターを弾く身振りをした。加奈子が驚いて言った。
「鈴さん、歌われるんですか。知らなかったです。イベントがあるのは私は知っていましたが、鈴さんが出るとは思いませんでした。だって歌を歌われるということも分かりませんでしたし」加奈子は美知恵を見て同意を求めた。

             ~~⓱へつづく~~

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