献花

【いつか来る春のために】㉑ 仮設からのリライブ編❷  黒田 勇吾

十時三十分の開会の時には椅子が満席になっていた。司会を引き受けてくれた自治会長さんが開会の辞を述べた。寒い中ご列席をいただいた御礼を述べ、本日は5人の一周忌法要を執り行うことを話した後、まず全員で黙とうした。そのあと、こうあいさつした。
「本日の一周忌法要は、ご遺族の意向により無宗教の式とさせていただきます。家族・友人のご参列の下、亡くなったお二人のご回向とまだ見つかっておりません三人の一刻も早い家族のもとへのご帰還をお祈りする場といたします。明日の三月十一日で、震災より一年となります。この一年、私たちにとっては苦しみと悲しみの日々が続きましたが、ご遺族は本日をもちまして、新たなる希望の人生を五人の方とともに出発いたしたいとのことでございます。どうぞご参列いただきました皆様におかれましては、今後ともご遺族に寄り添い続けて頂き、励ましのお言葉とお心をいただきますようよろしくお願い申し上げます。それでは初めにご遺族、続きましてご親族、そしてご友人の順番で献花をお願い致します」
 自治会長の司会の言葉に続き、はじめに康夫おじさんが立ち上がって左のテーブルに置かれている百合の花を二輪持って中央の献花台にゆっくりと献じた。そして手を合わせて静かにお祈りをした。そしてじっと動かぬまま1分ほどが流れた。やがて康夫おじさんの肩が震えて、嗚咽が漏れ始めた。そしてすっと何かを吹っ切るように回れ右をして、参列者に一礼して椅子に戻った。
続いて美知恵が立ち上がり参列者に一礼してから花を持って献花台にそっと献じた。手を合わせて静かにお祈りを捧げた。そのあと加奈子が光太郎を抱っこしたまま献花してお祈りをし、親族、友人と続いた。いつの間にか参列者が増えていて後ろにたくさんの方が立っていた。やがてすべての参列者が献花を済ますと、あらためて美知恵と加奈子が立ち上がって参列者に向かって立った。美知恵がマイクの前に立ち静かに語りかけた。
「皆様、息子の隆行は実はとても向日葵の花が好きでした。隆行の妻の加奈子と二人で二十五本の向日葵の造花を作りましたので、本日ここに合わせて献花させていただきます。息子はあの日二十五歳でした。その人生に謹んで感謝の思いを込めて献花させていただきます」そう挨拶して右のテーブルに別においていた向日葵の造花が溢れている籠を、美知恵と加奈子と抱っこされた光太郎がの三人でそっと献花台に捧げた。何人かの方のすすり泣きがしんと静まった集会所にこぼれた。
 続いて司会からご遺族の代表の挨拶を促され、はじめに康夫おじさんが前に立った。おじさんの目は真っ赤に腫れてうっすらと涙がにじんでいた。

             ~~㉒へつづく~~

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