見出し画像

2本のMartin

毎年4月に入ると、人懐っこい彼の笑顔を必ず思い出す

その日は朝からまずまずの天気。
せっかくの休みに頼まれてメーデーに付き合わされた。
「格差是正」や「サラリーマン増税反対」を登壇した担当者が説明しているのをボンヤリ眺めていたけど、セレモニーなので仕方ないが、参加者に声高に伝えるより、経営者にしっかり伝えなきゃ意味ないんじゃないのかな。盛り上がるステージの上だけ、別世界のように見えた。
その後のデモ行進は辞退して、一緒に出席したギター仲間と福岡に向けてクルマを走らせた。

連休初日、結構、クルマは多かったけど、特に大きな渋滞もなく、お昼すぎに到着。パスタで軽めのランチを取った。潰瘍性大腸炎の食事制限も気の置けない友人だと、何も言わず付き合ってくれるのは助かる。

所用を済ませた後は、特に予定もないので、友人のお付き合いで天神の楽器店に。以前からGibsonが1本欲しかったので、Gibsonのカスタムがアルペジオでもよく鳴るのに感動していると、近くで友人がMartin D28を抱えて真剣に悩んでいた。ちょうどMartinのセール中でお手頃価格。かなり悩んだ末に、ついには購入。

友人が手続きをしている間に、そばにあったMartin OOO-28ECに一目惚れしてしまった。高音の感じが僕の感覚にぴったりで、何しろ弾きやすい。ただ、友人が買ったから、自分も買うって感じが…。
悩んだけど、2本ならと、店長がさらに値引きをしてくれるし、結局、友人の衝動買いにも後押しされて購入。帰りには2人がギターケースを抱えていた。周りも振り向くかなり派手なペア。服装もラフなので、これから路上ライブに出掛ける雰囲気(笑)。
早く弾きたいので、そのままクルマのある駐車場まで地下鉄で移動。ギターケース抱えて乗り込む2人は、ここでもかなり目立っていた。

目的地に到着した時に事故の連絡があった。
思わず出た「おい!マジか!」の声にまわりの乗客がこっちを見た。

まだ31歳。
「僕は実は気が短いんですよ」といつも笑顔の彼を悪く言うヤツは絶対にいない。「GWくらいは仕事を忘れて、ゆっくり休んでくださいね」って、いつもの笑顔で言ってくれたのに、まさか君を送る事になるなんて、これじゃゆっくり出来ないじゃないか。まして事故…。何やってんだよ!

一昨年末に上司が亡くなった時も思ったけど、人って、ホンとに突然いなくなる。残されたご家族のお気持ちは計り知れないけど、悔しさや怒り、虚無感はたまらない。

帰りのクルマでは前を見つめながら無言。
無言も心地よい関係の友人だけに、何を考えているか分かる。
別れ際に「忘れられない一日になったな」と一言。確かに…。

同じ日にやってきた2本のMartin。
どちらも旅立った彼みたいに明るい音がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?